「農家さん日記」を心待ちにしてくださっているみなさま、大変お待たせしました。このたび殿倉由起子さん・田畑優奈さん・宮沢みえさんによる鼎談(ていだん)が実現しました!
みなさんは「農業女子」あるいは「農家の嫁」と聞いて、どんな姿をイメージしますか? 今回は3人に、殿倉さんの営むゲストハウス「Cider Barn &more」にて、ざっくばらんに話していただきました。想像以上に自由なその姿を垣間見ることができると思います。

それでは、どうぞ!
自己紹介とそれぞれの出会い
——まずは自己紹介をお願いします。
宮沢みえさん(以下、宮沢)|長野市で野菜苗、花苗、シクラメンの生産直売をしています。結婚をきっかけに就農しました。男子5人の母です。
宮沢みえさん
田畑優奈さん(以下、田畑)|飯田市で、おもに夏はとうもろこし、冬は市田柿と干し芋を作っています。就農のきっかけは宮沢さんと同じく結婚で、嫁いだ先が農家でした。
田畑優奈さん
殿倉由起子さん(以下、殿倉)|私の実家が農家で、結婚後に就農しました。田畑さんと同じく飯田市で、ぶなしめじをメインに、りんごとシードルやジュースなど加工品を作りつつ、2年前にこの民泊をオープンしました。
殿倉由起子さん
——もともと3人それぞれのつながりがあるそうで。
宮沢|私はゆっきー(殿倉さん)とは、もう10年くらい前からのつき合いです。彼女は昔から「民泊をやりたい。(建物を建てる)許可を取りにくい場所だけど、私は絶対やる」って宣言していました。きっと、いろいろな手続きは大変だったと思うけど、本当に実現した。すごくかっこいいと思っています。
殿倉さんのゲストハウスオープン時(2023年10月25日ブログより)
殿倉|ありがとう(照)。ミエさんとの出会いは、農業女子プロジェクト※1だったかな。その後、農業士協会※2で再会して。優奈ちゃんとは子どもの保育園が一緒で、ママ友って感じかな。
※1:農林水産省による女性農業者を支援する取り組み
※2:企業的農業経営者として知事に認定された農業士の学びとつながりを広げながら長野県の農業を支えていくことを目的とする(リンク先参照)
田畑|子どもの年がちがうから、送り迎えの時間もちがう。何でお友だちになれたんやろ。
殿倉|優奈ちゃんのインスタが面白くて、私から話しかけたの。「すごく面白いけど、ちゃんと農業してる人がいる!」と思って(笑)。
田畑|スーパーとかで「いつも見てます」って声かけられるのが一番怖いです(笑)。

——田畑さんはインスタの発信も熱心で、フォロワーが約5800人(※2026年4月現在)! 発信をはじめたきっかけは?
田畑|うちの農家は夫の実家なんですけど、規模は小さいし、そんなに稼げているわけじゃない。だから「お金をかけずに宣伝できる方法はなんやろう」って思ったときに、SNSしかなかったんです。
最初はインスタのリール動画を作りはじめて、農業ネタで「こんなの知ってますか?」的な内容だったんですが、全然ダメやった。だから「もうええわ、私おもろいんやから、さらけ出していこ」って、ネタっぽく自分を出していったら、盛り上がってきた感じです。
殿倉|義理の実家なのに、家族をネタにして大丈夫?
田畑|夫も含めて家族全員、すごい天然だから大丈夫(笑)。私にとってもネタにすることがストレス発散になるんです。家族とのめっちゃ腹立つことでも、メディアにしてみると「意外とおもろ!」ってなる。いじり過ぎて、もはや私より義母(ギーヴォ)の方が有名人です(笑)。
田畑さんの義母・通称ギーヴォ
宮沢|でもSNSとかメディアに個人情報を出すのって、ちょっと怖いよね。プラスのことは載せられても、マイナスなことはなかなか書けないかも。
田畑|私はマイナスなことでも笑いに変えられるし、自分をさらけ出すのは抵抗ないですね~。(加工品の)製法とかは秘密にしています。
殿倉|私も自分の情報を載せるのは躊躇(ちゅうちょ)しちゃうかも。そこは大阪人と信州人のちがいかな。
田畑|確かに。長野県の方は本当に真面目で、真面目すぎるくらい!
宮沢|私も東京と信州のハーフだから(笑)考えすぎちゃうのかなあ。
リフレッシュ方法と健康管理
殿倉|優奈ちゃんはインスタでの発信にかなり力を入れているけど、ひとりの時間ってあるの?
田畑|ないです、ほんまにない(笑)。でも市田柿作りがとにかく面白くて、ほかの農家さんのやり方を見に行って実践したり。とにかく農業にハマって「市田柿って科学やん!」と思って研究したくなりました。農業自体が、今の自分の癒しになっているかも。
宮沢|私は農業者の集まりや研修で、ひとりになる時間がちょうど良い。泊りの場合も多くて、それを口実に家を空けていたら、家族がだんだん私のいないことに慣れてきて、案外どうにかなるもんだなあって感じてます。あと最近はマラソンをやっていて、ホノルルマラソンにも挑戦しました。
小布施のミニマラソンで(2025年7月23日のブログより)
田畑|すごい!
宮沢|走り出したら火が着いちゃって。マラソンしていたら体調のコントロールができるようになったし、ジムに行くよりお金がかからないし、健康になって医療費の節約にもなって、トータルですごく良い。
殿倉|私は体調崩してから、ぐっと体力が落ちちゃった。夏は食欲が落ちて、どうしてもやせちゃう。料理作るのは好きで、野菜ソムリエだから「野菜を食べなきゃ」って意識して、子どもにも野菜を食べさせたいんだけど、まあ、食べないよね…
宮沢・田畑|うんうん。
殿倉|子どものためって思うとしんどいから、今は自分の食べたいものを作って、子どもには味を変える、それくらいがストレスを感じないかな。
ゲストハウスの朝食の一例(2023年11月22日のブログより)
就農前の経験と農業との共通点
——農業に携わる前にやっていたことと、農業と共通することはありますか?
田畑|アパレル業ではマッチングっていうんですけど、トップスとボトムスの合わせ方や、似合わせといったコーディネートが、農作業でのパック詰めに近い感覚があります。ホテルの清掃の経験は、ひと区切りつけて全部リセットしてから次の作物に移る感覚が似ているし、教材販売は営業そのもの。農業は、今までやってきたことが全部リンクしています。
宮沢|私は長野に来てエステサロンで働いていたけど、土日出勤が多くて、みんなと遊べないのがストレスになって、営業職に転職しました。でも、うまいこと提案ができなかったり、生活リズムが崩れて肌が荒れちゃったり。農家は自分の好きな時間を作れるから、ストレスが全然ない! でも農家って、営業っぽい仕事は多いよね。
殿倉|そう!だから、ミエさんと勉強会をしたんだけど、もう苦手すぎて。

——殿倉さんは宿泊客とのコミュニケーションが必要だから、営業も得意そうですが、接客とはちがいますか?
殿倉|接客と営業ではコミュニケーションの目的がちがうかもしれません。営業は売り込みというか、セールスポイントのアピールだけど、接客はお客さまに満足していただくための手段というか。
例えば海外からのお客さまで、帰りの交通手段がない方に対して、普通なら自己責任で済ませても仕方ないけど、なんとかしてあげたいから夫も一緒に調べたり。「喜んでもらいたい」と思うのは、前職のホテル勤務が生きていると思います。
農業仲間のつながり
——同業者ならではのつながりについて、どうお考えですか?
殿倉|私は農業女子プロジェクトや長野県法人協会、あとは県内若手農家で組織する「PALネットながの※」でのつながりがあったからこそ、今の自分があると思っています。みえさんは花や野菜苗、優奈ちゃんはとうもろこしや干し芋。品目がちがうと、業種がちがうようなもんだから。
※全県下の青年農業者の相互交流と自己研さんによる資質・能力の向上を目的とする組織(長野県HPより)

田畑|ホンマにそう。
殿倉|農業者同士のつながりが県内外にできて、どこかへ出かける際には「あの人のところに行ってみよう」と思える。
宮沢|私は女性農業者次世代リーダー育成塾の2期生になったのが「そろそろ自分たち夫婦でやっていこう」というタイミングでした。経営面でも生産面でも、自分の知識不足を感じていて、勉強がしたいと考えていましたが、当時はまだ子どもが小さくて出かけることに後ろめたさがあった。
でも農水省主催の勉強会だったので堂々と出かけられました。行ってみたら、全国のいろんな場所で、いろんなものを作っている女性農業者と出会えました。さっきも言ったとおり、だんだん私がいなくても家が回るようになったし、その分、勉強して知識を得て、全国レベルでのつながりもできてきました。
そうこうしてるうちに、男性主体の団体活動にも参加してみたり。
農業者の勉強会の様子(2025年12月10日のブログより)
——女性農業者と男性農業者のちがいは感じますか?
宮沢|農業経営について話す視点は全然ちがって、それが面白い! 女性は家庭をベースに考えて、家族の状況もさらけ出す感じ。男性は「とりあえず稼ぐぜ!」みたいな(笑)、やる気が前面に出て、家族と農業経営は別物で語られてる感じ。
でもゆっきーはその辺が男っぽくて、「私はゲストハウスをやる!」と決めて進んでいく感じに、すごい憧れた。
殿倉|ありがとう(照)。農業は一般的な会社員とはちがう部分が大きいから、同じ世界観で、しかも同性で話せる人がいるのは、ありがたいよね。
田畑|家族経営だからこそ、家族に対してムカつく感情が普通の家庭とはちがうと思うんです。家族間の「これやばい!」ってことが相談できる存在は大きいですね。
宮沢|一般家庭のママ友とは事業者としての話はできないし、かといって例えばエステ経営者とは感覚が全然ちがう。勉強会で農家ならではの愚痴や悩みをわかり合える、女性農業者のメンター的存在に出会うことができたのは、本当にうれしいことでした。
田畑|私は就農3年目やから、まだまだつながりがなくて。ぜひ相談にのってください!

子どもたち、そして未来へ向けて
——子どもに農業を継いでほしいという思いはありますか?
殿倉|うちはひとりっ子で、農業をやってくれたらいいなという気持ちはもちろんあるけど、私自身は両親にやりたいことをやらせてもらって今があるから、子どもにも自分のやりたいことをやってほしい。
英語が話せるわけじゃないのに、子どもが海外からのお客さんとコミュニケーションを取っている姿を見ると、それをきっかけに興味を広げてくれるかなって思う。子どもが私の背中を見て、自分のやりたいことを見つけられるように、がんばらなきゃって思います。
イギリス人のゲストとコミュニケーションする殿倉さんの息子さん
田畑|私は子どもたち(三姉妹)に継いでほしいとはまったく思っていなくて。ただ、彼女たちが健康に育って、いつでも帰って来られる家にしたいし、彼女たちが望んだ時に「これ(農業)やっても、ええねんで」って言える農家でありたいと思っています。
田畑さんちは三姉妹
宮沢|私も以前は子どもたちは自由にすればいいと思っていたけど、5人兄弟のうち高校3年生の次男が「継ぐ」と言ってくれてるから、とりあえず後継ぎは次男に任せようかなと思っています。
長男はパソコン大好きなインドア派だから継ぐ意思はなくて、次男は「俺がやるから弟たちには継がせない」って感じ。でも先のことはわからないし、継ぐのが次男でも、そうでなくてもスムーズに引き継げるように、今から数年かけて事業継承の準備を進めていくつもりです。
宮沢さんは5人兄弟のお母さん!
殿倉|農業をとおして子どもたちを応援できるようなことをしていきたいよね。
自分の作ったものでプレゼント交換!
——女子会といえばプレゼント交換(?)ということで、みなさんの作っているものを持ち寄っていただきました!

田畑|私からは南信州特産の市田柿です。ほかの柿農家さんの作り方をいろいろ学ばせてもらって、はじめて自分ひとりで作った市田柿です。
殿倉|GI(地理的表示)も取ってる、南信州らしいお土産だね!
田畑さんちの市田柿
出来立てほやほや、田畑さんがはじめてひとりで作った市田柿を手に
宮沢|私からは、うちの農園で取り扱っているシクラメンです。NAGANO農業女子プロジェクトで知り合った方のお父さんが育種した限定品種なんです。かわいいでしょ。それぞれお好きな色をどうぞ。
サイズもかわいい宮沢さんちのシクラメン
「どっちの色にする?」とワイワイ盛り上がります
殿倉|私からは、うちのりんごで作ったシードルです。「Japan Cider Cup 2025」で受賞したの。セミドライとスイートを用意しました。
殿倉さんが手掛けたシードルは味とともにアルコール度数も異なります
宮沢|すごい! オリ(果肉由来の沈殿物)がたくさん入ってるね。
殿倉|そう、これはCloudy Sweet(濁り甘口)のシードル。日本のシードルはしっかりオリ引きをして、スパークリングワインのように、クリアにきれいに作っているものが多いんだけど、海外のシードルはちょっと褐色だったり、濁っていたり、醸造用品種を使っているからではあるけれど、シードルに深みを感じるの。夫がそういうのを作ってみたいと、醸造を委託している酒造会社さんと相談して、オリ引きせずに作ってもらいました。濁っているところがシュワシュワして、りんごの果肉っぽくて面白いよ。
田畑|めっちゃ旨そうなんやけど! 持ち帰ったら、とりあえず神棚に飾ります!
お酒があまり強くない宮沢さんが度数低めのスイートをお持ち帰り
最後に、読者のみなさまへ
殿倉|私はもともと農業が好きじゃなかったから、農業の嫌なところもよく知っています。だからこそ、実際にやってみると結構いいところがあるよって、農家さん日記をとおして知ってもらえたらうれしいです。
田畑|いつも読んでいただいて、コメントもくださって、ありがとうございます。うれしいです。これからも、みなさんをくすっと笑わせていきたいと思いますので、よろしくお願いします!
宮沢|農家さん日記では農業のことだけでなく、女性農業者の暮らしぶりや子育てのこともお伝えしていきたいと思っています。今度ともよろしくお願いします!
——みなさん、ありがとうございました!
(左から)田畑さん、殿倉さん、宮沢さんで執筆者3ショット!
以下、編集部より。
このたびの鼎談は、ほぼフリートークで、ここでしか聞けない率直かつ貴重なお話をいただきました。殿倉さんは2026年3月末で執筆者卒業となりましたが、宮沢さんと田畑さんには引き続きご執筆いただきます。今後も、どうぞお楽しみに!
