気になるアレコレを農家さんに回答いただくレア企画。
1月の木曽牛レトルトキーマカレー&ビーフシチュープレゼント企画の際、子牛の繁殖農家である林詩乃さんへの質問を募集したところ、たくさんお寄せいただきました!
そこで今回は、24歳の若き牛飼いの詩乃さんに、いろいろな質問をしました。
詩乃さんは長野県木曽地域の開田高原で牛たちと過ごしています。畜産といえば、大切に育てた動物との別れがつきもの。命と向き合うことについても率直に答えてくださいました。
「牛って個性があるの?」「牛と仲良くなるコツは?」など素朴な疑問もあって、読み応え抜群です。それではご覧ください!
Q.牛飼いになったきっかけは?
高校卒業後、実家を離れてひとり暮らしをしながら一般企業に勤め、休みの日などに実家に帰ると、祖父母の後ろ姿が小さくなっていくのを感じていました。
父は家業を継がないことを知っていたので、今後この土地や牛たちはどうなるのだろうと思うようになり「じゃあ私がやるか!」って感じで牛飼いになりました!
ゼロ知識からのスタートでうまくいかないことも多いし、本当にこの道に入って良かったのかなと思うこともありますが、毎日自然を感じ、牛たちと触れ合い、体を動かす仕事は最高です。
なにをしても後悔はつきものだと思っているので、やれるところまでがんばるぞー。
Q.休みたい時はどうしているの?
祖父母と一緒に働いているので、休みたい時や体調を崩した時は祖父母にお願いしています。祖父母は全然休まないので、めちゃくちゃ休みにくいですが(笑)。
「ヘルパー制度」というものがあり、1日あたり、1頭あたりでお金がかかってしまいますが、どうしてもという時はヘルパーさんにお願いしています。
といっても、なかなか休めないのが現実です。欲を言えば、もっと旅行に行ったり、のんびり昼近くまで寝ていたいっ。
Q.ストレスの発散方法を教えて!
んー、なんでしょう。ストレスになりそうなことがあった時は、心の中で「くそ、くそ」と言っています…なんて、半分冗談です。寝てしまえば心は落ち着きます。
ノロケになってしまいますが…夕飯後、旦那とダラダラと過ごす時間が息抜きになって、嫌なことはほとんど忘れています(笑)
あ! あとはお寿司をお腹いっぱい食べることです!好きなものを好きなだけ食べられるって幸せ〜(10皿以上食べてしまう…)。
Q.牛を育てるうえで○○なことは?
●気をつけていること
日々の観察です。親牛は、まぁそこそこ丈夫なんですが、子牛はすぐ体調を崩してしまうし(特に冬場)、少しでも発見が遅れると命に関わることがあるので、早期発見、早期治療が大切です。
●大変なこと
生き物を育てること自体がめちゃくちゃ大変です。具合悪そうなのに、どこが悪いかわかんないし、下痢してるのにピンピンしてる時もあるし。
私が留守の時に限ってなにかしら事件が起こります。たとえば、つないだはずなのに離れていたり、変なところに頭を突っ込んで抜けなくなっていたり、牛舎内で脱走して通路に排泄物が落ちていたり…。
毎回「なんでだよー」と牛にツッコミます(笑)
●うれしかったこと
一番うれしかったのは、自分名義の牛を与えられたことです。今では7頭いますが、1頭目に与えられた子は、やっぱり愛着が強いです。すごいツンデレちゃんです。
あとは日々の喜びとして、子牛たちが元気に走り回ってるのを見ると微笑ましいです。
私名義の牛ちゃんたち
●驚いたこと
初めて聞かれた質問です(笑)。なんだろな、…考えても全然出てきませんー。もう少し考えてみますので、答えが出たら農家さん日記で書かせていただきます!(すみません)
●つらかったこと
これはもう、ひとつしかないです。牛の死です。
初めて牛の死を見たのはお産の時です。弱ったまま生まれてきた子牛が、すぐに息を引き取ったあの瞬間が忘れられません。助けてあげたかった。無事に生まれ、市場に出荷するまで育て上げるという、当たり前なことが一番難しいことだと感じた出来事でした。
Q.牛に与えてはいけない食べ物は? 牛に好き嫌いはあるの?
ワラビは良くないと聞いたことがあります。あと、草の中でも硝酸態窒素が高いものは良くないです。牧草の中でも好き嫌いがあります。大まかにいうと、牛は粗飼料より濃厚飼料を好みます。
体調が悪い子牛などに、ヤクルトやバナナを与えることもあります。肥育農家さんでは焼酎を飲ませることもあると聞いたことがあります。
我が家で与えている濃厚飼料
Q.面白いor困った牛はいる? 牛の性格を教えて!
牛は、基本的に好奇心旺盛で警戒心が強いと感じます。
見慣れない人がいると気になってそばに来るのですが、その人が牛に触ろうと手を伸ばすとびっくりして逃げたりします。牛舎内で作業をしていると「なになに?」って感じで近づいてきたりします。
ほんとにいろんな性格の子がいて面白いので、見ていて全然飽きないです。
1番手を焼いたのは、外のパドックから中に入れる時に、ほかの牛が入れないように出入り口で邪魔する親牛です。つなぐ時に牛の大好きな濃厚飼料を与えるのですが、自分も早く食べたい、でもほかの牛を入れたくないって感じで…やれやれでした(笑)。
動画が残っていたので短いですが、どうぞ。
Q.牛の見分けはつくの?その方法も知りたいです
顔だけで見分けられちゃいます!
よく見ると全然違うんですよ。それぞれにちゃんと特徴があり、きれい系、かわいい系、キリッとした顔の子がいます。
人間と同じように、歳を重ねるごとに穏やかな落ち着いた顔立ちになります。我が家の牛さんたちで見比べてみてください。



って、写真だとうまく伝わらない…。
黒毛和牛は基本黒色ですが、毛の色が若干違ったりします。乳牛は個々に模様があってかわいいですよね。背の高さや幅もバラバラだし、個々の持ち味があります。「みんな違ってみんないい」ですね!
Q.ハシくんかわいい!ほかの牛にも名前がついているの?
ハシくん、めちゃくちゃ懐っこいし、かわいいです。

現在のハシくんです。「雪山やっほーい」って言っております
牛1頭ずつにちゃんと名前がつけられていて、市場の名簿にも「名号」という欄があります。
じつは、ハシくんの本名は「山村(やまむら)363」です。我が家では、祖父の牛は「山村」という名前に生まれた順の番号をつけています。私の牛には「山桜(やまざくら)〇〇」と名づけています。
名前のつけ方は農家次第なので、生まれた日が同じ有名人の名前をつけている方もいます。この間の市場に、話題の大谷翔平選手と同じ誕生日で同じ名前をつけられた子牛がいましたが、「大谷選手みたいに稼いできてはくれなかった」と農家さんが言っていました(笑)。
ほかにも果物や花の名前を使ったり、アニメのキャラクターの名前など、さまざまです。
ただし、メス牛は平仮名、オス牛は漢字と決められています。ハシくんはオスなので「山村363」ですが、もしメスなら「やまむら363」となります。
Q.牛はどのように感情表現するの?
うれしい時は、おが粉や雪山に頭を突っ込んだり、後ろ足を高く上げながら走り回ったりしています。そのうち興奮気味になりますが。
滅多に見ませんが、怒っている時は尻尾を上げて、後ろ足を蹴る仕草をします。お産直後は母性本能が強くなり、人間に向かってきたりします。
Q.牛と心を寄せるコツはありますか?
毎日触れ、話しかけていると近づいてきてくれる子はいます。愛情を伝えると伝わる子には伝わって相思相愛になります。どんなに触れていても、性格によって懐かない子は懐かないですが…
Q.子牛の親離れはどうやるの?
農家さんによって違いますが、我が家は生後3か月で離乳と決めています。離乳と決めた日から、親牛のみの牛舎、子牛のみの牛舎へ、それぞれ移動させます。親も子も3日間くらい鳴きますが、その後はケロッと仲間同士で仲良く過ごしています。
かわいそうですが必ず通る道。心を鬼にして鳴きたいだけ鳴かせて、あとは人間の手で出荷まで愛情を注ぎます。
Q.大切に育てた牛との別れは辛くないですか?
もともと祖父母が牛飼いをしていたので、私は子どもの頃から子牛市場があることを知っていて、「子牛とはお別れするもの」だと思っていました。
なので今も子牛との別れは辛いというより、無事に購買者のもとへ届けられたという喜びの方が大きいです。
ただ、親牛との別れがあることは知りませんでした。
産歴が9〜10産目で繁殖の役目を終えたり、けがや病気で市場に出したり、市場にも出せず屠殺されることがあったり、親牛との別れは本当に胸が締めつけられるくらい辛いです。今までがんばってくれてありがとうの気持ちでいっぱいです。
Q.子どもが農業高校に入学予定。牛とどのように接していけばいいでしょうか?
とっても難しい質問ですね(汗)。でも、身近にいる犬や猫などペットとの触れ合い方は一緒だと思います。
自分より大きい動物だからと身構えちゃうと余計に怖くなり、触れることに躊躇しちゃうかもしれませんが、牛はやさしい心を持っているので、やさしい心で近づけば、応えてくれます。
牛は警戒心が強いので、驚かさないことが大切です。ゆっくり近づき、やさしく手を伸ばして撫でてあげると、牛も安心してくれると思います。
あとは、ブラシ作戦ですかね! ブラシで撫でられることが嫌いな牛は滅多にいません。ブラシが気持ちいいものだと理解している牛は、自分からブラシを持ってる人に近づいてきてくれたりします!
かわいいだけでは済まずに、時には辛い思いをするかもしれませんが、いつかお子さんが「この高校に入って良かった!」「動物と触れ合えて良かった!」と思ってくださると、私もうれしいです。
(以下、編集部より)
今回お寄せいただいた質問の中には、編集部員も気になっていた質問が多くありました。生き物と関わる以上、必ず死に直面する場面があり、畜産農家は「生産者」として動物と向き合っているのだなあと改めて感じました。
肉牛や乳牛は愛玩動物ではありませんが、生産者のみなさんが愛情を込めて育てています。私たちは「消費者」として命をいただくことを改めて考えなけれいけませんね。
今回の企画でみなさまと生産者さんの距離が縮まって、より農畜産物を楽しむきっかけになったらうれしいです!