広々としたおおきな温室。手前から奥まで無数に咲き誇る色とりどりの花々。なんとも美しい光景であります。
この花はそう、シクラメン。かつて「出逢いの時の 君のようです」(シクラメンの香り)と歌われた清楚な花たちです。
冬の花を代表するシクラメンは、毎年12月のこの時期、その出荷が最盛期を迎えるのですが、冬は日が落ちるのも早いため、栽培農家は限られた時間での出荷の対応に追われます。
その限られた時間を少しだけ分けてもらい、北安曇郡松川村でシクラメンを栽培する信州雪香園(せっかえん)代表の湯口康章(ゆぐちやすあき)さん(63)にお話を伺いました。
湯口さんは鉢数にして年間6万5000鉢を生産するこの道40年のベテラン。
小さいころから農業をやるのが夢だったそうで、6000平方メートルの土地で大小合わせて22棟のハウス(保温室等を含む)を使い、シクラメンのほかボロニア、クレマチス、真珠の木などといった品目も育て、県内のほか、東京、大阪、名古屋など各地に出荷しています。
シクラメンとともに生きる
シクラメンの1年のサイクルを教えてください
種まきはだいたい11月から2月にかけて行います。2月には最初にまいた種の芽が大きくなり、葉の数も増えてきますから、ここで1回目の植え替えを行います。このとき9センチのポットに植え替えます。そのあと6、7月に2回目の植え替えを行います。このときは育てるサイズによって18センチ、15センチ、12センチなどそれぞれのポットに植え替えをするのです。そして、9月ころから出荷を始め、いまがまさにピークの時期というわけです。もちろんこの間に消毒や肥料やりなど色々な手入れも行いますよ。
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信州・雪香園代表の湯口康章さん |
シクラメンとつきあうための苦労は?
苦労といえるか分かりませんが、生き物が相手の仕事なので休まるときがないというのはありますね。雨が降れば降ったで気になりますし、太陽が照ったら照ったで気になりますし。でも、作物は作り手の足音を聞いて育つものだと考えていますから、目配り気配りの大切さというのは常に意識しています。それからシクラメンには流行があって、その年により求められる色が違ったりすのですが、あまり流行を追うことはせず、さまざまな色をバランスよく作ることを心掛けています。
9年間花を咲かせ続けた人も
シクラメンは地中海沿岸が原産地のためさわやかな気候を好み、日本の蒸し暑い夏に大変弱いのです。でもこの辺りは標高も高く、夏(特に夏の夜)の気温が低いことから、シクラメン栽培には適した土地で、良質な花ができるといいます。
読者のみなさんの中にもベランダやお庭でシクラメンを育てている方も多いでしょうから、シクラメンの気持ちに詳しい湯口さんに、シクラメンの日常管理のポイントをうかがって末尾にまとめておきました。湯口さんによると、最も長くて9年間花を咲かせ続けた方がいるそうです。まあその人は別格だとしても、適切に管理すれば3〜4年は毎年花をつけることができるそうです。
信州雪香園のシクラメンは市場出荷が中心。しかし「どうしても直接購入したい!」という方のために、わずかながら直売にも対応してくれます。これまでも信州雪香園の花を贈られた方などから直売の問い合わせが多くあったそうで、全国にファンがおられるからです。問い合わせは信州雪香園(電話 0261−62−8438)までどうぞ。
信州雪香園(せっかえん)
〒399-8501
長野県北安曇郡松川村神戸4106−1
電話:0261−62−8438
Web:http://www3.ocn.ne.jp/~sekkaen/index.html
シクラメンの日常の管理と手入れのヒント
- 少し日差しのある窓辺や廊下に置く。植物が生きていくには光が必要。
- 暖房機の近くやあまり高温になる部屋に置くのはやめる。シクラメンは暑さを嫌うので、高すぎる温度は花の寿命を短くし病気を誘発する。生育適温は12〜17度くらい。またテレビの上に置くのも鉢内の温度が激しく上下し根を傷めるため厳禁。
- 寒い地方で、凍結などの恐れがあるような夜は、就寝前にダンボールなどでカバーしてあげて。
- うっかり水やりを忘れてしまい、完全にしおれてしまったときは、濡れ新聞などで包み花茎をやさしく束ねて株全体に霧水をかけると生気を取り戻します。
- 水やりは飾る場所によって吸水量が違うので注意。高温の部屋や日当たりの良い場所ではたくさんの水を必要としますが、あまり日が差さず暖房もされていない玄関などでは5〜7日に一度でもよいかも。花も飾られた場所に慣れていくため、あまりころころと環境を変えるのはよくありません。