冬を赤く彩る縁起物。南信州の南天

南信州では12月になると、美しいオレンジ色の柿のれんや畑と真っ赤な南天の実が輝きます。どちらも冬の風物詩です。そして南天は「難(なん)を転(てん)ずる」縁起物として正月飾りの定番です。

今回、取材したのは、20年以上南天を作り続けている片桐義憲(よしのり)さんと、JAみなみ信州の塚平涼係長。南信州の自然環境を生かした利点と栽培の難しさ、そして未来の産地づくりへの思いをお聞きしました。

南天を育て始めたきっかけは?

片桐さんが南天の栽培を始めたきっかけは、じつにほっこりしたもの。

もともと、こんにゃく芋や梅を育てていた片桐さんですが、作業の負担が大きく、農作物の切り替えを検討していました。

ある日ふと、自宅近くで「毎年めちゃくちゃきれいに実をつける南天」に目を止めます。「軽くて作業しやすいし、縁起物だか自分にも良いことがありそう(笑)

こうしてはじまった南天栽培は、一反歩の畑で20年以上続いています。

南天は正月飾りとしてだけでなく、玄関や仏壇に飾る人も多く、人々の暮らしに溶け込んでいます。

noutiku6-20251205南天畑は傾斜地で太陽がよくあたる

南天の栽培って、どうやるの?

JAみなみ信州では約200人が南天を育て、生産量は県内でトップクラス。軽量で扱いやすく、中山間地で傾斜地の多い地形とも相性が良く、栽培が盛んです。

南天は「強すぎる日差しは苦手。でも暗すぎてもだめ」という性質があり、1日をとおして穏やかな光が当たる半日陰がもっとも栽培に適した場所といえます。

南天を種から育てた場合、株が成熟して実が収穫できるまで、非常に長い年月を要します。個体差や生育環境にもよりますが、早くても4~5年かかるといいます。

南天の植えつけや植え替えに最適なのは3~4月。冬の休眠から覚めて活発に生長を始める時期です。気候の穏やかな春は植物への負担が少なく、このタイミングで植えつけると、根の張りが非常に早く、株が安定しやすいのです。

特に冬の寒さが厳しい寒冷地では、霜の心配がなくなった春に植えつけることで、十分な根張りを確保できるそうです。

その後、梅雨に花が咲き、受粉したら実をつけて、実の生長が進みます。


南天開花2花が咲いて受粉すると、秋には赤い実になる

南天の剪定は、単に枝の長さや形を整えるだけでなく、次の3つの重要な目的があります。
1、風通しを良くして病害虫の発生を防ぐ
2、株の内側まで日光を届け、生育を促進する
3、古い枝を整理して新しい枝の発生を促し、実つきを良くする

南天の花芽は、その年に新しく伸びた若い枝の先端につきます。樹形を小さくしたいからといって、すべての枝の先端をバッサリと切り詰めるような剪定をしてしまうと、その年の花芽をすべて失い、花が咲かず、結果として実もまったくつかなくなってしまいます。

剪定はあくまで不要な枝を根元から間引くことが基本。その後、追肥を行いながら日当たりや風通しの良い場所で栽培し、太陽を十分に浴びて赤く色づいていきます。

noutiku2-20251205秋になるとルビーのように赤く色づきます!

「傾斜を活用した栽培で日当たりを十分に確保できるのが強みです」と語るのは、JAの塚平係長。さらに昼夜の寒暖差が大きいため、実の締まりや色づきが良く、南信州ならではの高品質につながっています。

ただし、南天は天候にとても敏感。夏が暑すぎると花が焼けたり枯れたりすることもあり、毎年安定した収量が得られるわけではないのです。

日当たりと風通しのいい環境が好き

南天は見て楽しむ植物であり、縁起物だからこそ、見た目がとても大事です。生産者は一本一本、細部に気を配っています。

南天の好みはとてもはっきりしていて、美しく色づくにはいくつか条件があります。

1、日当たりが好きで日光が命である
2、水はけの良い場所を好む
3、風が通らないとスネる
4、草刈りと苔対策でご機嫌になる
5、夏の暑さは苦手(花焼け注意!)
6、アブラムシは天敵!

天は本来、丈夫な樹木なので、病気対策はほとんど不要ですが、葉が密集しやすく、油断すると湿気がこもりやすい。そこに来るのが天敵のアブラムシ。このアブラムシはウイルスを運んでくる困った存在です。

「一度ウイルスが入ると、その株は全滅。厳しいですよ」と片桐さんも真剣な表情。天がかわいい実をつけるために、生産者の丁寧な管理と日々の苦労があるのです。

noutiku7-20251205

南信州の南天、2025年は豊作!

南天の収穫は例年、11月下旬〜12月上旬。冬の到来とともに始まります。

天候に恵まれた2025年は、前年を超える豊作。12月1日から出荷が始まり、3日頃にピークをむかえ、中旬まで続きました。

出荷形態は、房のみと枝つきの2種類。東京・大阪・名古屋・九州へ出荷され、正月飾りへと姿を変えていきます。

実が落ちやすいため、出荷の際は、まるで宝石を扱うような手さばき。

「実の少ない枝は外すこと、重さと重量をチェックすること、とにかく実が落ちないようにやさしく扱うこと、黒い実と白い実を丁寧に選別すること」。こうしたことを意識していると塚平係長は語ります。

修正済み黒い実や白い実を丁寧に選別し、実が落ちないよう慎重に扱います

JAみなみ信州では〝実落ち〟を防ぐための手入れや細かな選別作業が徹底されています。観賞用の南天が市場へ出ていくまでに、丁寧な手間がぎゅっと詰まっているんです。

南天栽培は定年後からも始めやすい

南信州の南天は、冬の風物詩として欠かせません。しかし近年は生産者の高齢化が進み、作付面積は減少傾向にあります。

一方で南天栽培は、商品として軽量であり、手をかけなくても比較的育てやすいというメリットがあります。

塚平係長いわく定年予定の5年前から栽培をはじめれば、退職後にちょうど収穫期を迎えられます。こうした就農のしやすさから、JAみなみ信州では南天栽培を推奨しています。しかも空いている畑を活用できます」とのこと。

noutiku11-20251205

赤い実に宿る南信州の想い

南天は縁起物であり、地域の人たちの想いの結晶です。そして伝統文化を支え、新しい農の働き方を生み出せる農作物でもあります。

冬を彩る赤い実は、南信州の自然環境、生産者の丁寧な手入れ、そして地域を支えるJAのサポートによって守られています。

取材を通して、生産者が減るなかでも地域全体で支え合いながら南天の産地を維持し、盛り上げていきたいという思いを強く感じました。

お正月に南天を飾る際、南信州の風景と生産者のことを少し思い出してもらえたらうれしいです。

こちらは の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

JAみなみ信州の南天が買えるお店

※販売については、時期や出荷状況によるため店舗にご確認ください。
この記事を書いた人

ちゅん

Z世代を生きるギャルです! 長野県のおいしい農畜産物情報をお届けします。 おすすめの農畜産物はいちご、レタス。おすすめの長野エリア:軽井沢町、松本市。(担当年月日:2022年4月〜)
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