果物

ススキと満月とナシで信州の秋を味わう

bp0508-5.jpgかじった瞬間のシャリシャリ感、そして口一杯に広がるみずみずしい甘味! ナシのおいしさは、やはりあの食感と保水性。ナシ属植物は地球という惑星に、約20種類ぐらいあるそうですが、果樹として栽培されているのは、日本ナシ、西洋ナシ、中国ナシの3種類だけです。ナシは英語で「ペア pear 」といい、西洋ナシは食べたときにねとっとした食感なので「バター・ペア」、中国や日本のナシは、シャリシャリ感で「サンド・ペア(砂ナシ)」なんて言われてます。

最近は数多くの果物が年中見ることができるようになり、本当の旬が分からなくなりつつありますが、信州では8月のお盆前から「幸水」の出荷がはじまり、9月中旬の満月ころには「豊水」、そして「二十世紀」の時期となり、その後「南水」へと続きます。さて、あなたはどんなナシがお好みですか?

長い歴史とおかしな名前の由来
日本列島におけるナシの栽培の歴史は古くて、早くも弥生時代の遺跡からニホンナシの遺物が出土しています。ルーツは中国中部、朝鮮半島南部、本州中部以南に原生している「ニホンヤマナシ」で、わが国で改良が重ねられて今の「幸水」「豊水」「南水」「二十世紀」のようにたくさんの品種群になりました。

栽培の歴史も古く、日本国の一番古い歴史書である『日本書紀』(720年)に五穀の消費節約と救荒のためクリなどと共にナシの植栽が奨励されていることが記されていることから、かなり古くから栽培されていたことがうかがわれます。日本国の国史である『三大実録』(901年)では信濃の国より、また大和朝廷の古代法典である『延喜式』(905〜927年)という書物では甲斐国より、それぞれナシを献じた記録がありますから、その当時から各地で栽培されつづけ、18世紀の享保から嘉永にいたる江戸時代の後半になると150種ほどもが数えられたそうです。江戸末期から明治時代前半には各栽培地ともに品種が明らかにされていて、特に明治30年代のものには現在まで残っているものあります。この頃の品種は「晩六」「真鋳」「赤穂」「淡雪」「太白」「晩三吉」、そして明治40年頃から「長十郎」や「二十世紀」の二大品種の時代が続きました。

bp0508-52.jpg日本ナシの栽培の特徴は、ブドウと同様に棚栽培することにあります。日本のナシは人間の手による栽培の歴史が古いだけに、変わった品種名も多く、例えば、甘くて頬が落ちそうになり、思わず頬を叩いたとことから付いた「頬叩(ほほたたき)」、おいしくて巾着(財布)の有り金を全部はたいて買ったことに由来する「巾着」(別名:「巾着叩(きんちゃくはたき))、おいしいといわれている樹は"どいつだ"といったことから付いた「独逸(どいつ)」などなど。いやナシにはおもしろいトリビアがたくさんありますねえ。

今、注目が集まるナシの糖分
ナシには食物繊維が豊富に含まれているうえに、日本ナシには血糖値が上がらない糖分である天然のソルビトールが、果物の中でも特に多く含まれています。ソルビトールは低カロリーで、虫歯になりにくい炭水化物。吸水作用があるため、便を軟らかくし、ついでに腸の運動を活発にする作用があるので、お通じが良くなり便秘とも「さようなら」できます。他にも解熱作用があり、体の熱を下げたり口の渇きを癒してくれたり、せきや痰をしずめてくれたり、利尿作用があるのでむくみを解消したり、気管支炎や肺気腫などの予防効果も疫学調査から明らかになってきています。でもあまりおいしいからといって、冷え性の人や妊娠中の方は食べ過ぎには注意してください。

bp0508-53.jpgこれが正しい! ナシの選び方と食べ方
ナシをおいしく食べるには、以下のことに気をつけてください。日本のナシですが、これが日本の山に暮らすと伝説に残るあの鬼たちと同じように、赤系と青系に分かれます。赤梨(長十郎・幸水・豊水・新水など錆褐色をした梨)を選ぶ場合は、色が濃く、軸の反対側の尻の部分まで褐色に着色しているものを、青梨(二十世紀・八雲・菊水など褐色ではない梨)では、日光にすかして見ると透明に感じられるものがいいようです。また、果形が扁平で果皮に張りがあり、「かたくてズッシリと重いもの」の方が糖度が高いのでしょう。そしてとにかく新鮮なものほどおいしいです。皮の色つやがよくて固いものを選びましょう。触ってみて弾力性があってちょっと柔らかいかなって思えるものはふるいものですので避けてください。

保存方法ですが、常温で置いておくと追熟するので、かならずしっかりと密封して、冷蔵庫で保存しましょう。でも厳密には、買ったときの熟成の度合いによって、日持ちは変わるので、できる限り早く食べることをおすすめします。柔らかくなってきてから冷蔵庫に入れるのは手遅れです。大きさで注意すべきことは、大きいものほど味はいいかもしれませんが、その分実が柔らかくなるのが早いことを忘れないで。

西洋ナシは、日本ナシや中国ナシと大きく違い、樹の上では成熟せず、収穫後に追熟させて初めて食べられる状態になります。ズッシリと重いもので、追熟しての食べごろは表面を軽く押して弾力が出てきた頃です。中国ナシは、あまり馴染みがありませんが、肉質は日本ナシ的で、形は西洋ナシに似ています。品種によっては収穫後に少し貯蔵した方が風味を増すものもあります。

高原の太陽を浴びたナシはうまいんです!
「幸水」は昭和16年に「菊水」×「早生幸蔵」を当時の農林省園芸試験場で交配され、昭和34年に「幸水」として命名登録されて、長野県には昭和40年頃に導入されました。「南水」は長野県南信農業試験場で、「越後」×「新水」を交配し育成した信州生まれの赤ナシです。それに「二十世紀」に袋をかけず、太陽の光をたっぷり浴びさせることで濃厚な味わいが楽しめる「サンセーキ」は、JA全農長野の登録商標です。無袋で太陽の光をたっぷりと浴び、風雨にさらされたサンセーキは、甘みと酸味のバランスがよくとれていて、わたしたちが自信をもっておすすめでてきるものです。

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