りんごの名産地・安曇野は梨もおいしい!


いよいよ秋本番。秋の果物といえば、りんごと梨が筆頭だと思うのは、筆者だけでしょうか。

長野県は、青森県に次いでりんごの生産量が全国第2位。長野県内の東信・南信・中信・北信それぞれのエリアで栽培されていますが、中信地域で有数の産地が安曇野市です。

私が2年前に取材させていただいた安曇野のりんご生産者である塚田耕一さんは、りんごだけでなく梨や桃も育てておられました。

その時に印象的だったのが「俺、本当は梨ボーイなんだよね」というひと言。

梨ボーイ?   ボーイ??

おそらく梨に対しても、りんごに劣らぬ思い入れがあるという意味だったのだと思います。その言葉を裏づけるように、お土産にいただいた梨がとびきりおいしいかったのです。

安曇野はりんごの産地であることもちろん、おいしい梨が作られている土地であることはまちがいない!

そんな確信を抱きつつ「梨ボーイ」発言の真相を確かめるべく、安曇野の塚田さんのもとへ、今回は梨の取材に訪れました。

noutiku19-20251008JAあづみ生産者の塚田耕一さん。2年前からこのデザインの帽子を愛用

同じバラ科でも似て非なる梨とりんご

2年ぶりに訪れた安曇野市の三郷小倉。りんごはもちろん、梨の生産が盛んな地です。取材日は「南水」の収穫の最中でした。

筆者が梨畑に入るのは今回が初めて。りんごと同じように垂直に木が伸びた畑(立木栽培)をイメージしていたので、ぶどうのように枝が横に伸びている様子にびっくりしてしまいました。

noutiku13-20251008遠目に見る梨畑。枝が水平に伸ばされています

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この木の形は、梨としてはスタンダードな「平棚栽培」で、針金などで頭の高さくらいに仕立てた棚に枝を誘引する方法です。

梨の木は放っておくと高さ10メートルを超えるほど成長します。平棚栽培をするには豊富な経験と高度な技術が必要なのです(木の仕立て方は複雑で専門的な分類なので、ざっくり説明しています)

noutiku15-20251008りんごは「立木栽培」で垂直に成長させていく。摘果作業中の安曇野のりんご畑にて(2025年6月撮影)

ところで、梨とりんごって似てると思いませんか? 実のフォルムが同じというか…

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それもそのはず。梨とりんごは同じバラ科なのです(ちなみにミカンはミカン科、ぶどうはブドウ科)。であれば、なぜ「梨はりんごと同じように育てないのか?」と疑問に思い、塚田さんに投げかけると。

りんごは日光をまんべんなく当てることが必要だから、垂直の木が向いています。梨は実が日光に当たりすぎると、高温障害で果肉が変質してしまうので、日光を遮るように地面に水平に作ります。また、強風で落果しないように棚でしっかり支えることができるので、この作り方が向いてるんです」とのこと。

noutiku03-20251008確かに、梨は葉っぱの下に実るので、日光が当たりにくい!

りんご栽培では実に日光を当てるために「葉摘み」や「玉回し」をしますが、梨ではそれらの作業が必要ありません。

りんごと比べて作業工程が少なく、「梨の方が作りやすい」と塚田さん。ただし、収穫までの時期は梨の方が短いため、短時間に一気に作業をしなければならず「楽ではないですね」と苦笑い。

noutiku04-20251008袋をかけずに育つ「サン南水」

ちなみに垂直に育てるりんごより、平面で育てる梨の方が作業の見落としは少ないそうです。「でも、作業中は常に上を向いているので、首や腰の痛い人には向かないかな」。確かにこの量をひとりで収穫したら首がもげそう…

平棚栽培で育った梨を、いざ収穫!

noutiku05-20251008収穫の様子。ちょうど頭の上くらいに実がつきます

梨の収穫は、枝から実をもいでから、ツルの部分を短めに切ってカゴに入れます。これは長すぎるツルで果皮が傷つかないようにするため。

梨の果皮はりんごより弱く、また、りんごより果汁がたっぷりである分、傷つくと果汁があふれて傷みやすいのです。想像以上にデリケート!

noutiku16-20251008ごに入れる前にツルをハサミで切る!

noutiku12-20251008そっとかごに入れる

持続可能な産地のために

塚田さんは「農事組合法人 安曇野おぐら果樹農産」の理事として、産地の保護・維持にも取り組んでいます。高齢などで農業を続けられない人が手放した果樹畑を引き受け、働き手を募って、園地の維持や生産量の確保に努めているのです。

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アルバイトやパート勤務の方も地域農業の大事な担い手です。収穫作業にはパートの方も参加していましたが、勤務時間に融通が利くため、まだ子どもの小さいお母さんも多いそうです。

noutiku07-202510083〜4年継続して働いている方。「毎年、木の様子がちがうので、耕一さんに教わりながら作業しています」

「安曇野で作るからおいしくなる」

どうしても聞いておきたいのが、おいしい梨の選び方ですが「私たちが消費者の手元に届くタイミングを計算しつつ適時を見極めて収穫して、JAでしっかり選果しています。安曇野産であれば、どれを買っていただいてもおいしいはずです」と塚田さん。

「自信をもって言えるのは、この安曇野という土地で作ったからおいしくなるということ。自分たちが何か〝特別なこと〟をしているわけではなく、環境を整えてやれば、梨やりんごが勝手においしくなってくれる。そういう土地で作らせてもらっていると思っています」

noutiku20-20251008塚田さんが管理する畑では南水のほか、はつまる・幸水・豊水・二十世紀梨をおもに栽培(写真は左が二十世紀梨、右が豊水)

「安曇野で作るからおいしい」という言葉は、この地域の生産者のみなさんが口をそろえて言うこと。昨年、取材した安曇野のりんご生産者さんも、まったく同じようにおっしゃっていました。

たゆまぬ技術の探求と土地への感謝。「どれを買ってもおいしいはず」と言える産地としてのプライド。それを守り受け継いでいく工夫と努力。それらが安曇野の生産者にとっては「特別なこと」ではないのでしょう。

noutiku09-20251008それにしても楽しそうだなあ、梨ボーイ

塚田さんの今後の抱負をおたずねしました。「梨の産地としては、まだまだここは知名度が低くて、千葉や鳥取などが一大産地のイメージがありますが、この安曇野の小倉で作られた梨が一番うまいと言ってもらえるようになるのが目標ですね」

長野県では南信地域が梨の産地としてイメージが強く、そして安曇野といえばりんごのイメージが強いのですが…。安曇野が育んだ梨もおいしいのです。筆者が保証いたします!

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ちなみに梨ボーイ・塚田さんの一番の推し梨は「幸水」。8月下旬〜9月上旬の比較的早い時期に収穫される品種で、みずみずしさとさっぱりとした味わいが特徴。

「暑い時期にマッチしたさっぱりした味わいで、冷蔵庫でよく冷やして食べるのがおすすめです」

noutiku21-20251008幸水(写真はJAあづみ提供)

おまけ・書ききれなかった梨のあれこれ

和梨は追熟しない
ラ・フランスなどの洋梨は、店頭に並ぶ際はまだかたく、購入後に追熟させて好みの柔らかさにしてから食べますが、幸水や南水などの和梨は追熟しません。放っておくとシャリっとした食感が失われ、果肉がグズグズに崩れていくので、購入後はすぐに食べるべし。

サン○○とは?
無袋栽培、つまり袋かけせずに栽培したものは「サン」が品種名の前につきます。南水は「サン南水」、二十世紀梨は「サンセーキ」として販売されています。太陽の光を直接浴びるので、有袋栽培より濃厚な味わいになります。

noutiku14-20251008「サンセーキ」は、袋かけしない二十世紀梨のこと

南水とは?
南水は、長野県の南信果樹試験場で「越後」と「新水」をかけ合わせ、平成2年に品種登録されました。誕生の地である南信地域で栽培が盛んで、高い糖度とシャリっとした歯触り、そして貯蔵性が高いことが特徴。

noutiku11-20251008

レンガ色の見た目が美しく、冷蔵で2~3か月もつので贈答用にもおすすめです。ちょっと楕円の、ぽってりもちもちしていそうなフォルム(実際もちもちはしてない)が、私も好きです

こちらは の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

安曇野の農産物が買えるところ

安曇野の農産物はオンラインショップや直売所でも購入いただけます。
その時々の旬の味をぜひお楽しみください。
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この記事を書いた人

おとうふ

長野県育ち、信州と甲州のハーフです♡奥深い長野県農業について勉強の日々。猫と果物が好き。 おすすめ農畜産物:桃、林檎、あんず、梨…etc。長野県のおすすめエリア:安曇野、湯田中温泉
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