長野県といえば全国2位の生産量を誇るりんごの生産地。
これを読んでくださっているみなさまも、きっと長野県で生まれたりんごを一度は口にしたことがあるのではないでしょうか。
突然ですが、質問です。
このりんごは、長野県安曇野産「シナノスイート」最高等級【特秀】、1玉258円。
※シナノスイート特秀36玉入り1玉あたりの値段
ちなみに3番目の等級【優】は平均178円。
※値段は直近のもの。時価により変動あり
これを高いと感じますか? それとも安いと感じますか?
たとえば、庭にりんごの木が自生していて、成った実を食べれば、それはゼロ円。でもきっと、この写真のりんごの方がおいしいはず。
なぜなら生産のプロである農家が作っているからです。
普段、何気なく口にしているりんご。この高品質なりんごが、どのようにして私たちの手に届くのか。
県内でも有数の産地、安曇野市を管内にもつJAあづみのりんごを追いかけながら、2回シリーズでその現場の様子をお伝えします。
りんごはお店で生まれてるんじゃない!畑で生まれてるんだ!
当然ではありますが、りんごが生まれるのは畑です。
では、どんな樹に、どのように実っているか。みなさんはご存知ですか?
訪れたのは安曇野市・堀金三田にある、林 賢一さん・千鶴さん夫妻が営む株式会社「信州安曇野林農園」の畑。
賢一さんは大学卒業後、食品会社で10年間勤務した後、2008年に就農して家業を継ぎました。
シナノスイートを収穫する林賢一さん
訪ねた日は収穫真っ盛り。その現場を見せていただきました。
収穫しているのは「奥州ロマン」という品種。かなりの速さで一つひとつ収穫していきます。
いとも簡単にやっているように見えますよね…。筆者も挑戦してみましたが、当然ながらこんなに速くできません。
「下に引っ張るんじゃなくて、すこし上に持ち上げる感じ」と教えていただきました。
シナノゴールドを収穫する様子をじっくり拝見
採れたてのりんごをいただくと、シャキシャキの歯ごたえと新鮮な香り、ほどよい甘さ。
採れたての奥州ロマン。きれいな色づきです!
月並みですが、りんご栽培のこだわりをたずねると。
「特にないです。普通に作ればこの味になる(笑)。『誰が作る』ではなく『ここで作る』と、この味になるんだと思います」
社員の伊藤さん。林さんの会社員時代の後輩
安曇野という土地×生産者の試行錯誤=おいしいりんご
安曇野は、標高600~800mほどで昼夜の寒暖差が大きく、雨が少なく日照時間は長く、水はけの良い土地のため、おいしいりんごが育ちます。
こちらも奥州ロマン
ここで林さんは20品種以上のりんごを栽培しています。
「この土地に合った品種を試行錯誤しながら探すんです。野菜とはちがって、りんごは実がつくまで1年以上かかるので、育ててみないとわからない。ダメだったら木を引っこ抜いちゃうしかない」
「Oh, No!MOTTAINAI!」と思うけれど、見切りも大事なんですね。
りんごには「ふじ」「シナノスイート」「つがる」など、さまざま品種がありますが、色づきの良いものや、蜜が入りやすいものなど、特徴によって「系統」があり、品種からさらに分岐するそうです。
「今、栽培しているのは25品種。15種くらいはやめちゃったから…系統を含めれば今まで40種くらい作ったかな。産地に適したものはどれか、作ってみないとわからない。いろいろ試して、おいしいりんごを作りたいので」
こだわりはないと言いつつ、研究熱心な林さんです。
奥州ロマンと、小さいのが小玉りんごの「アルプス乙女」
みんなで守る安曇野という産地
そんな林さんが今までで一番つらかった時は。
「就農して3年目くらいで親父が亡くなりまして、そこで妻も体調を崩して。管理する農地が増えてきたタイミングと重なったので、とにかく手が回らず、辛かったです」
たわわに実るシナノゴールド
高齢化で農地を手放さざるを得ない生産者から農地を引き受け、当初1.2haだった農地は現在、東京ドーム2個分に近い6.4haにまで増えました。
「人様からあずかった土地を荒らしちゃいけない。その一心で、気合で乗り越えました。地獄だったなあ」。林さんは笑いながら振り返ります。
「あとは近年、特に大変だったのは、令和2年にダウンバースト(風害の一種)で棚が倒壊しまして…つがる収穫の真っ最中でした。農家仲間やJA職員の方が助けに来てくれて、ありがたかったですね」
JAあづみの職員と談話する休憩時間。貴重な情報交換の場
「命がけでりんごを作るから」
妻の千鶴さんは言います。
「作っていてうれしさを感じるのは、収穫直前の真っ赤に実ったりんごを見て、さらに手に取って、いいりんごができたとき」
シナノスイートを収穫する千鶴さん。非農家から嫁ぎ、慣れるまで大変だったとのこと
最近は気候変動で夜間も気温が下がらず、昼夜の気温差がなくなってきているため、着色しづらいのだそう。
「今のところ対策もなくて、自然が相手だから、どうにもならない」
「りんご作りに必要な棚は、10aあたりの値段は4年前に比べて1.5倍ほど上がっていますが、りんごの単価は30年以上前からほとんど変わらない」
りんごの木を支える棚(鉄柱)。近年、農業に必要な資材もどんどん値上がりしています
林さんのりんごは、ほぼ全量をJAに出荷します。
「お客さんの顔は見えないんだけど、おいしく食べてほしいと思いながら作っています。自分は作るプロだから、販売は市場のプロにお任せ。市場の方には『命がけでりんごを作るから、命がけで売ってください』と伝えています」
畑からみなさんへ「おいしい」を届ける
JAあづみの【特秀】シナノスイート
収穫したりんごはその場で色や形、傷の有無を見て、仕分けします。
1本の木から採れるりんごは約80個。傷や病気、加工用も含めて約2割はロスが発生するそうです。
この画像はJAあづみ提供
出荷の準備ができたら、JAあづみの選果場へ持ち込みます。そこで等級別に分けられて、みなさまへ届ける準備に入ります。
林さん夫妻(前列)とスタッフの伊藤さん(後列左)。JAあづみ果実課 中村課長も一緒に
生産者が愛情を込めて育てたりんごは、畑から生まれます。みなさんに「おいしい」が届くまでは、まだまだ先。引き続き、追いかけます!
最後に、25品種のりんごを作っている林さんに一番おすすめの品種を聞いたところ…
「シナノプッチ」だそうです!
小ぶりで食べきりサイズ。だけど甘さと酸味、歯ごたえのバランス◎の、かわいいりんごです。
今回はこちらの記事をご覧いただき、私たちにりんごを届けてくれる人たちへの応援メッセージを募集するキャンペーンを実施しています!