いよいよ、りんごのシーズン到来。県内でもシナノスイート、シナノゴールドに続き、りんごの王様「ふじ」の出荷が始まりました。
さて、長野県有数のりんごの産地、安曇野の生産現場をご紹介した前回の記事はご覧いただきましたか。
「長野県安曇野産シナノスイート最高等級【特秀】、1玉258円。この値段は安いですか?高いですか?」
※シナノスイート特秀36玉入り1玉あたりの値段
冒頭で、こんな問いを投げかけました。
林さんたち生産者が「命をかけて」1年間育て、一つひとつ収穫したりんごたち。私たちの手に届くまではまだまだ時間がかかります。
先ほどの問いを念頭に置きつつ、前回に引き続き、安曇野の畑で生まれたりんごの行方を、さらに追いかけてみましょう!
旅立ちの準備は選果所で
JAあづみ管内には2か所の選果所があります。収穫したりんごの多くは、生産者が選果所に持ち込みます(生産者が直売所に出したり、個人の販路で販売する場合もあります)。
JAあづみ管内の果実中央選果所にて。このコンテナは約20キロあります!筆者は1箱運ぶのがやっとでした
サンふじの場合は見た目、糖度などに応じて「特秀・秀・優・特A・良」の5つの等級と「その他加工用」に分け、さらに大きさごと8つの階級に分けられます。これがまさに選果の作業です。
※品種に応じて等階級の分け方は異なる場合があります。
品質は同じ「特秀」の等級でも、大きさによって階級が分けられます
そもそもなぜ「選果」をするのか? 選果所の役割とは? 選果の行程を追いながら考えてみましょう。
①選果人による選果作業
りんごを1玉ずつ目視で確認して選別します。
②センサーでチェックし、等階級を決定
内部センサーで熟度・糖度・蜜入りを、外部センサーで着色・大きさ・傷の有無を。2つのセンサーでりんごを内外からチェックして、等階級を決定します。
③等階級ごとの箱詰め・製品検査
りんごを自動箱詰めロボット(りんごを吸引して持ち上げています!)で設定された等階級ごとに箱の中に詰めます。
④出荷
箱詰めされたりんごはプールライン(一時保管場所)で等階級ごとに一旦保管します。
プールライン。等階級ごとに並んでいます
保管の際にデータで数量を把握し、必要数量をパソコンで指定することにより、自動で出荷を行い、10トントラックに積み込みます。
さて、なぜ選果して等階級ごとに分けるのか。
1本の木から約80個のりんごが取れますが、傷がなく表面や色がとびきりきれいなもの、味は変わらずとも着色が薄いもの、日に焼けてしまったもの、枝によるスレがあるもの、鳥につつかれてしまったものなど、状態はさまざまです。
見た目の悪いのは贈答用には向かないし、傷がついたものは日持ちが悪いので早く食べてほしい。同じ樹から取れたりんごでも、同じ売り方はできません。
消費者としても、おいしさは前提としつつ「大切な人へ最上のものを贈りたい」「見た目は悪くても、安くたくさん買って、家族で食べたい」など、購入の目的もまたさまざまです。
粒ぞろいのりんごたち。選果され、品質に偏りがないことは、販売・購入両面において産地の信用につながります
選果することで安定した品質を担保して出荷することができ、産地のブランド力を守ることにつながります。また、消費者のニーズに応えることも容易になります。
選果所は高品質なりんごをできる限り、必要な形で余すことなく、消費者のみなさんに届ける役割を果たしています。また、高品質な果実にはより高い価値を付加しながら、傷ついて輸送に耐えない果実も加工用に振り分け、生産者の所得確保に寄与しています。
ちなみに選果所の内部はポケモンのダンジョンみたいで楽しかったです♪(歩くのが大変ですが…)。工場萌えにはたまりませんよ(笑)
JAあづみ 選果所従業員の秋山さん
選果を終えたりんごは、いよいよ安曇野から旅立ちます。箱に詰められて向かうのは…
安曇野を旅立ち、東京の市場へ
JAあづみの選果所を出たりんごのほとんどは市場に出荷されます。
「りんごのひとりごと」という童謡に「箱に詰められ汽車ぽっぽ 町の市場につきました♪」という歌詞がありますが、まさにこの市場へと向かいます。市場は産地と小売店、そして消費者をつなぐ重要なところ。
安曇野のりんごを追いかけ、日本最大の青果市場である東京都の大田市場へとやってまいりました。
大田市場入口外観。正面のオブジェは「ねじりはちまき」
市場(しじょう)とは
市場に到着した時点では原則として、りんごの値段は決まっていません。つまり消費者が購入できる商品ではない状態ということですね。
ここは「りんごの価格」が決められる場所であり、それが市場の重要な役割です。市場の重要な役割は、主に3つ。①集荷・分荷、②価格形成機能、③代金決済 。それぞれを詳しく見てみましょう!
①集荷・分荷
日本で最大級の青果市場である大田市場には、全国からたくさんの青果物が集まります。ここで値段がついたあと、さまざまな買い手によって全国の小売店などへ運ばれていきます。
おっと!安曇野からやってきたりんごもたくさん!!
タグがついているものは予約注文品。競りを経て売約済みになった後、消費者へ販売するために小売店などへ運ばれます
②価格形成
市場といったら、やっぱり競りのイメージがありますよね! 商品の値段が決定される大事な場面です。
競りが始まる前に、小売店などに卸す仲卸業者や、青果店などの売買参加者は、競売にかけられる品を品定めします。
あづみのりんごが箱を開けた状態で品定めに出されています
その日に売られる商品を品定めする売買参加者。帽子と制服を着用しているのは卸売業者
競りの開始!安曇野りんごも競売にかけられます
実際の競りの様子です(音量注意)
ここで決められた値段は、私たちが買うための相場が決まり、さらに生産者への支払いが決定することを意味します。
③代金決済
消費者にはあまり関係のない部分かもしれませんが、産地には出荷から3日後に販売金額から定率手数料が引かれて代金が支払われます。
一般企業だと20日締め、翌月末払いなどが普通ですよね。迅速な支払制度は市場の大きな特徴といえます。
競りを終えて売約済となったりんごの箱は再び梱包されます
ここで重要な役割を果たすのが市場にいる卸売業者。大田市場は東京都が開設し、運営を行っています。その場内で卸売業を行う会社のひとつである東京青果株式会社、通称・東一。
安曇野のりんごの販売を担当する東一の方を取材しました。
卸売業者とは
前回の記事で、生産者の林さんの「自分は作るプロだから、販売は市場のプロにお任せ。市場の方には『命がけでりんごを作るから、命がけで売ってください』と伝えています」という言葉がありましたが、まさに販売のプロが卸売業者です。
JAあづみのりんごの競り人、東京青果の二見さん
卸売業者は産地から供給された青果物などを委託され、仲卸業者(小売店へ販売する業者)へと販売します。まさに産地の販売代理人です。
競り台の表情とのギャップ!
市場のバランサー・卸売業者
私たち消費者は、当然ですが、おいしいものを「安く買いたい」ですよね。でも生産者をはじめ、りんごを集約するJAなど売り手としての産地サイドは、おいしいものをできるだけ「高く売りたい」。
せめぎあいの場がこの市場であり、その調整役が卸売業者となります。
価格は産地ごとの作況や供給量などから相対的な評価で相場が決まってくるため、りんごがどれだけの販売価値を持つのか、産地の販売担当者は卸売業者とコミュニケーションをとりつつ情報収集します。産地のブランド力を守るためにとても重要なことなのです。
競り会場は学生や観光客も入れますが、産地の人や売買参加者にとっては品物・作柄・相場など情報交換や商談の場。JAあづみの販売担当者もこの中に…
個人的には「長野県のりんごをたくさん売って~」と思ってしまうのですが、そんなに簡単なことではないのですね…
全国2位のりんご生産量を誇る長野県ですが、1位はいわずと知れた青森県。圧倒的な生産量ですが、消費者が安定的においしいりんごを手にするには、ひとつの産地だけで生産し続けるのは不可能でしょう。
やっぱり意識してしまう、この並び…
市場の卸売では産地同士の競争力を見極め、さらに消費者のニーズを踏まえて価格や供給のバランス調整が日々行われています。
卸売業者と産地の関係
長野県と青森県の二大りんご産地の販売に携わる渡邉勝俊さんは、およそ40年のベテランで、市場では「りんごレジェンド」と呼ばれています。
産地と消費者の真ん中に立つ卸売人である渡邉さんに、産地への思いを聞きました。
「りんごレジェンド」「りんごの王様」などの異名を持つ渡邊さん。産地の裏話もたくさん教えてくれました
「自分たちは調整役だから八方美人なんだよ。産地は高く売りたいけど、消費者は安く買いたいから、どうしても平行線になる。それをできる限り、寄り添っていくようにするのが役目かな」
産地としての長野県も青森県も熟知する渡邊さん。安曇野とも古くから関わりがあります。
「どっちの産地の人のことも好きなんだよ。だからお互いに発破かけることも言うし、お互いが高め合って良くなってほしい。調子に乗るから、あんまり褒めないけど(笑)」
場内には仲卸の会社も入っています
産地から届くりんごは卸売業者から仲卸業者が購入して、スーパーや小売店の店頭に並びます。私たちのところへ届くまであと少し!
りんごの競り人のひとり、花田さん
ようやく私たちの手元へ
お店に並ぶりんごは、きれいにパッキングされています。ぜひこの現場も見てみたい!
ということで、長野市の信州生鮮流通株式会社の平山社長のご厚意で、スーパーに並ぶ前の梱包作業を見ることができました。
「5玉入りはりんごのおしりを合わせて袋詰めすると安定して入ります。なるべく赤色の面が見えるようにね」と袋詰めのコツを教えてくださる小山さん
最後の最後まで、人の手と目で確認されます。
和歌山に本社を置くスーパー「オークワ」のプレミアムPB品。JAあづみのりんごに産地・糖度・PBマークを表記して付加価値をつけて販売
和歌山県のスーパー「オークワ」の店頭に並ぶ様子
百貨店にも安曇野りんごが並んでいます
ようやく私たちは長野県安曇野という産地からやってきたりんごを手にすることができます。
改めて、冒頭の問い「このりんごが高いか?安いか?」について。これにはさまざまな回答があると思います。
しかし、国産農産物が安定的に供給される背景には、生産者から始まって、たくさんの人の存在があることを思い出していただけたらうれしいです。
今回は長野県を代表するりんご、そしてその有数の産地である安曇野にフォーカスし、生産者から消費者の手元に届くまでを追いかけてみましたが、いかがだったでしょうか。
いつもとは違う視点でりんごを見てみようという企画で、思ったより想像以上にボリューミーな内容になってしまいました…。長い長い記事をここまでご覧いただき、ありがとうございました。
(普段はあんまり言わないのですが…、コメントで感想いただけたらうれしいです)
安曇野りんごに携わるみなさま
左から
・JAあづみ 果実課 果実流通センター 佐原さん(選果所でプールラインから出荷するりんごの箱数を管理。中村課長がスカウトしたらしい)
・JAあづみ 果実課 販売担当 三澤係長(生産者の信頼篤い、安曇野ブランドのりんごを背負うイケメン。野球が得意)
・JAあづみ 果実課 中村課長(職員と農家の2足のわらじで安曇野のりんごに深い愛を注いでいる。餌付けが得意)
・東京青果 JAあづみ りんご販売担当 二見さん(産地を自身の目で確かめないと気が済まない仕事人。お酒が入るとすぐ寝る)
・JA全農長野 中信事業所 生産販売課 河野さん(市場と産地を熟知する中信エリアの賢者。面倒見がとても良い)
企画協力
・JAあづみ
・JA全農長野
・東京青果株式会社
・信州生鮮流通株式会社
・JAあづみ生産者 林さん
みなさまのおかげで、私たちはおいしい安曇野のりんごを手に取ることができます。いつもありがとうございます!