安曇野市三郷の小倉地区でりんごと梨を中心に栽培する塚田耕一(つかだ・こういち)さんを取材しました。
塚田さんは、大学卒業後は都内で就職し、親の農業を継ぐために28歳で地元に戻って就農、今年で10年目になります。6haの畑でりんごや梨、桃を栽培しています。
夏から始まるりんごと梨のリレー出荷
個人的に、りんごといえば秋の深まる頃が最盛期のイメージでしたが、夏から食べられるりんごもあるのですね!
塚田さんの畑で育つ主力のりんごたちを収穫期順にご紹介します。ただし、収穫時期は目安で、年によって変動する可能性があります。
※各品種の写真は収穫状態のものをJAあづみより提供いただきました
シナノレッド|収穫時期:7月下旬~8月中旬
「早い時期に取れる、いわゆる早生(わせ)種です。甘酸っぱい味です」(塚田さん、以下同じ)
シナノリップ|収穫時期:8月上旬~下旬
「今、JAが販売に力を入れている長野県オリジナル品種です。2018年に品種登録されたばかりで、色づきが良く、甘さと酸味のバランスが良い味です」
シナノスイート|収穫時期:10月上旬~中・下旬
「スイートの名前のとおり、酸味は少な目で甘味が強い。果肉は柔らかめです」
ぐんま名月|収穫時期:10月下旬~11月上旬
「群馬で生まれた黄色いりんごです。長野でも多く作られている品種で、甘味が強く、香り・歯ごたえも良く、人気上昇中です」
サンふじ|収穫時期:11月中旬~11月下旬
「甘さと酸味のバランスが良く、コクもある、言わずと知れたりんごの王様です。土地や地形も適した安曇野のふじは、他産地に味で負けません。僕も主力品種の中では、やはりふじが一番だと思います(笑)」
こんなにたくさんの品種を作るのは大変じゃない!?と思ったのですが…
「品種をリレーして収穫の時期を分散させ、労働力の平準化を図っています」とのこと。
確かに、ほどよく収穫期がずれています!
「シナノリップとシナノレッドが終わった後は10月まで梨でリレーして、りんごの中・晩生種につなげていくんです。単一栽培だと最盛期が大変ですが、オーバーフローしないように品種を複数作っています」
夏の畑の様子
取材に訪れた8月上旬はちょうどシナノリップの収穫期。作業の様子を見せていただきました。
・葉摘みの作業(着色管理)
葉摘みは、赤く色づいたきれいなりんごに仕上げるための作業。葉は光合成で栄養を実に蓄えるために必要なので、直前まで取りません。
「真っ赤なりんごを作るための大事な作業ですが、おいしいりんごを作るためギリギリまで葉をつけておくんです。また、取りすぎると日焼けしてしまうので気をつけています」
収穫間近のシナノリップを葉摘み。葉影を残さず、きれいに色づくように
・摘果
摘果は良い実を作るため、余分な実を落とす作業。
不要な実に栄養が行ってしまうのを防ぐため、実をつけたら早い段階から摘果の作業をする必要がありますが、摘果にも段階があり、1段階目はざっくり荒く、2~3段階目で間引いていき、仕上げの摘果で最終的な着果量を調整します。
「収穫する実に栄養が行くように、早い段階で摘果する必要がありますが、最初から取りすぎてしまうと何かあったときに収穫量が減ってしまうので、何段階かに分けます」
「晩成種のフジは収穫期に向けて仕上げ摘果を行い、優良な実を選抜しています」残す実の判断が速い!
残す実と実の間はてのひらを広げたくらい
「おいしい」を届けやすく、手に取りやすく
果樹栽培が盛んな安曇野で、長野県を代表する果実・りんごを栽培する塚田さんに、栽培には何かこだわりがあるのか、たずねてみると…
「あえてこだわらないのが、こだわりです(笑)」との答え。
「こだわり始めると、(作業を)できる人が限られてきてしまうんです。アルバイトで作業してもらうことが前提なので、誰でもできる、わかりやすい作業にしていくことに力を入れています。生産者も高齢化が進んでいるので、安全な作業ができるように配慮しています」
同じ高さの木が整然と並ぶ塚田さんの畑。動線が確保されて作業しやすそう!
生産者が効率的に作業することで品質と生産量が安定し、より多くの消費者が手に取ることにつながります。
塚田さんの畑のシナノリップ
「多くの人に安曇野のりんごを手に取ってもらえるように考えて作っています」
安曇野の果樹園を守るために
塚田さんは農家として果樹栽培を営む一方、「農事組合法人 安曇野おぐら果樹農産」の理事として地域の果樹園の保護・維持に取り組んでいます。
「高齢化などで農業を辞めた方の果樹園を引き受け、人を雇って生産量をキープしています。果樹園の維持はJAへの出荷量の安定にもつながるし、農業が好きな地元の人の働き口を確保することで、地域を支えたいと思っています」
「地域の同世代の農家と活動するのも楽しい」と話す塚田さん。JAの青年部の仲間とともに、販売イベントや、ごみ拾い、農産物の盗難防止活動など地域を守る活動をしています。
「地元のために、会社員時代にはできなかったことができるのは面白いです」
買うときは産地と旬を意識してほしい
最後に、消費者への思いをうかがいました。
「店頭に並んでいるのが旬のものかどうか、季節感を意識してほしいですね。貯蔵技術の向上によって長期保存が可能なため、旬じゃないものも並んではいます。それはそれでいいんですけれど、やはり時季のものはおいしさが格別です」
そのうえで「産地にもぜひ注目していただきたいです」と塚田さんは強調します。
「旬と産地を意識して食べてもらうと、きっと楽しい発見があります。個人的には、りんごや梨の産地は安曇野に行きつくはず、だと思っているんですけど」と笑いました。
長野県を代表する果実であるりんご。生産者の高齢化が進む中、地域の若手生産者が地域を守るために日々努力しています。
ここまで記事を読んでいただいた皆さま。この秋はそのことに思いをはせつつ、長野県のりんごにかじりつきましょう!
塚田さんの畑から眺める三郷小倉の景色に癒されました
おまけ・りんごが集まる選果所
収穫したりんごは生産者によって「選果所」に持ち込まれます。
持ち込まれたりんごは、ここで大きさ・等級に分けられ、箱詰めされて、市場に出荷されます。
塚田さんから貴重な選果所内の写真をご提供いただきましたのでご覧ください!
(一般消費者は入れません!)
土台に乗せらせて運ばれるりんごがなんだかかわいいですね(ღ´꒳`)ホッ=3