6月も終盤にさしかかり、いよいよ夏本番の季節が近づいてきました。
日中は涼しいビルにいる私ですが、ひとたび取材で外に出ると「こんなに暑かったのか…」と毎度驚きます。
さて今回は、そんな暑い夏にもがんばって実をつけてくれる「夏秋いちご」を紹介します。 初夏の風が気持ち良い長野県安曇野市に行ってきました。
大きくて立派な安曇野の夏秋いちご、いただいてきました!
「夏秋いちご」って?
まずはちょっとお勉強タイム。いちごの旬といえば、いつだと思われるでしょうか。
いちごの需要がもっとも高まるのはクリスマスシーズンですよね。いちごの旬は春から初夏(4~6月)ですが、ハウスでの促成栽培の技術により、需要に合わせて12~5月の収穫が可能となり、冬から春の果物というイメージが定着しました。
この一般的ないちごは「一季成り」と呼ばれ、1年に1シーズン実をつける品種です(当ブログでもご紹介した紅ほっぺや章姫など)。
一季成りいちご「紅ほっぺ」(JA信州うえだ 塩田東山観光農園)
対して夏秋いちごは「四季成り」と呼ばれる品種で、四季をとおして収穫できます。
夏秋いちごはその名のとおり、一季成りのいちごが収穫できない夏から秋にかけて市場を支えてくれているのです。
夏秋いちごの生産現場にお邪魔します!
今回訪れたのは長野県安曇野市で夏秋いちごを栽培するJAあづみ 夏秋いちご部会業務部部会長の清水芳顕(しみず・よしあき)さん。
今年で就農9年目になる清水さんは、以前は会社員でしたが、心機一転で就農を決めた時に、安曇野市で奨励されていた夏秋いちごに挑戦することにしたそうです。
筆者のつたない質問にも丁寧に答えてくださった清水さん
取材の前日(6月12日)に初出荷を迎え、いちごはかわいい花と大きな実をつけていました。
夏秋いちごのシーズンは6~11月、出荷のピークは7月と9~10月。一般的ないちごのシーズンと入れ替わりです。
栽培のサイクル
12~2月|土づくりや土の入れ替えなど次期の準備
3月|定植
4~5月|株養成
6~11月|収穫、株整理、防除
「夏場の作業は暑いため、収穫は朝の4時、5時くらいから。いちごの色が判別できる夜明けから行います。午前中に収穫をし、午後は株整理や防除などをしています」
株整理とは、葉が込み合わないように下の葉や収穫の終わった房などを摘み取る作業です。「込み合うと病気になりやすくなってしまうので、風通しを良く、また房を取ることでこれから実る果実へ養分がいきやすくなります」。この作業と同時に葉の裏に害虫がいないか確認します。
下から生える葉を取り除きます
6~8月の収穫期に株整理をしっかりやっておくことで、大きく、病気になりにくく、秋以降も収穫できる株に育つそうです。
株整理された後。根元がすっきりしています!
四季成り品種「すずあかね」
すずなりに実ることから名づけられた「すずあかね」
清水さんのハウスで栽培しているのは「すずあかね」という品種で「皮が固いので傷みづらく、輸送に向いてます」とのこと。
「すずあかね」は酸味が強く、実が締って固いので崩れにくく、加工に最適な品種です。
夏秋いちごは冬のいちごよりも酸味が強いので、甘い生クリームとの相性ばっちり!
いちごの実はとってもデリケート、少し押しただけで指の跡がついてしまうくらい。収穫は最新の注意を払います。
そんな繊細ないちごの収穫方法を教えてもらいました。
「まず、へたの上の茎の部分を指と指ではさみ、いちごを包みように持ちます。親指でいちごの先端を支えて90度上に曲げると簡単に収穫できます」
このときに力が強かったり、無理やり引っ張ったりすると押し跡がついてしまうので、手は添えるだけ。む、難しい…
収穫したすずあかね。かなり大きい!
夏の苦悩…
夏秋いちごは標高800メートル以上が栽培の適地とされており、標高700メートル以下の安曇野は当てはまりません。しかし夏は比較的涼しいこと、北アルプスの冷たい雪解け水を利用するなど地域に適した栽培方法を確立することで、有数の産地に成長してきました。
地下からくみ上げた北アルプスの水は約13℃。この管を通していちごに行き渡ります
しかし「ここ2~3年は急に高温化し、夏場の作業が追いつかない」と清水さんは心配しています。
「夏はハウスの中が40℃以上になるため、昼間は作業できません。日中が暑くても夜は涼しくなるのが普通ですが、最近は夜中も暑くていちごが休まらないのです」
いちごの様子を見つめる清水さん。暑さ対策も入念に
いちごの生育適温は18~25度。30度を超える高温が続くと、株の疲れが取れづらく、花をつける力も落ちるため、果実もつきににくくなります。「人間もいちごも過ごしやすい温度は同じです」と清水さん。
今はこの夏をどう乗り切るかが安曇野の夏秋いちごの課題です。
「この課題を解決する方法を見つけて、産地としていっそう発展させていきたいですね」
JAあづみ営農指導員の増田さん(写真右)と作況の確認。
JAあづみの夏秋いちごで夏場の需要に応え、ブランド力を強化していきたいという、清水さんの決意がうかがえました。
いちごのショートケーキは年間を通して店頭に並びます。いちごは冷凍保存可能とはいえ、解凍したものを生食で使用することはできません。夏のいちごには産地の努力があったのです。
キュンと酸味が強めの夏秋いちごをのせたショートケーキは、冬とはひと味ちがうかも。生産者の努力に守られ、夏の安曇野で育ついちごに思いを馳せながら、ぜひ味わってみてください。