片桐さんの農事録
[片桐さんの農事録]

みなみ信州発☆羊と暮らすゆきさんの農事録 第55回

ゆきさん農事録

 

こんにちは!^^*
こんなにも梅雨らしい梅雨は、農事録を書き始めて初めてですね。忘れもしない先月の更新日、「今日を逃すとブルーベリー採る日ないに!」と親戚呼ばれ、一心不乱にブルーベリー狩りをした6月26日を最後に、文句なしの快晴は今月17日現在たった1度という飯田ですが、皆様の地域はいかがですか?

 

快適だけど、太陽も恋しい

ゆきさん農事録

 

連日25℃前後をいったりきたり、暑さに弱い牛もー的には(そして、体調管理にとにかく苦心した去年を思うと飼い主的にも涙が出そうなほど)快適な毎日ですが、その一方で、大好きなスイカもアイスも食べたいとは思わない程度には夜が肌寒く、夕方になると窓を閉めながら今って何月だっけ? と思う日々です。
ちなみに、10キロ超収穫したブルーベリーは、ジャムにしたり冷凍したり東京の友人たちに送ったりと、随分楽しみました♪

ゆきさん農事録

 

とは言え、気温が低いので湿度がさほど気にならず、今年は本当に毎日の仕事が楽です! その証拠に、今月も特に仕事の話題がありません(笑) 4件のお産は安産だったし、8ケ月ぶりの削蹄でもトラブルもなく、子牛の角焼きも全頭予防接種も予定通り^^* そんな感じで皆調子がいいせいか、数ケ月ぶりに乳房炎や乳質の悪い子が1頭もおらず、クォーター(1本を別搾りする容器)を使用することもないので、ヘルパーさんにも喜ばれています(笑)
週間天気予報を見ると、19日現在この先1週間も雨模様のパッとしないお天気。時間差で蒔いたトウモロコシの成長は微妙だし、正直太陽は恋しいけれど、梅雨明け後も出来るだけ猛暑日は少なくあってほしい、と思わずにはいられません>v<;

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この職業の未来は限られている

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所で。トップ写真の茶色いおチビ、可愛くないですか?^///^
ホルスタインの黒い部分が茶色(赤毛)のRED子牛です。少し前から授精師さんがREDが生まれる精液を使っているのですが、REDが生まれるのは珍しく、我が家では初めてのおチビでした! ...が、残念ながらオスだったのでそろそろ北海道に旅立って行くと思うと寂しいです><

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そして、仕事の話題は特にないと書いたのですが、先月の愚痴には続編があるんです(笑)
おいおい、愚痴に続編って...と嫌な予感がした方、2017年7月の筋肉作りのために必要なロイシンが含まれている牛乳とか、2018年6月の牛乳って認知症予防にもなるんだって! のちょっとためになりそうな記事を再読してもらえたら嬉しいです^▽^*

そんなこんなで例の愚痴、思いがけず言う機会があったんです。なんで頼んでもない事業で使う予算のために天引きなんですか~>皿<;って!(笑)
なんと、メーカー側からの値上げの条件が、乳量確保のための事業を組み込むことだったようです。その事業のうち1つ書いてしまうと、雌雄判別精液(受精すればほぼ確実にメス子牛が生まれる)を使用上限ありで助成する、というものです。
ただこの雌雄判別精液、まず受胎率はそれほどよくありません。また飼育頭数が多い農家ほど乳代から一律で天引きされたら、使用上限が決まっていては不公平感が出る気がします。あと、1番感じたのは「メーカーさんも、その事業を考えた偉い人達も、メス子牛が生まれれば酪農家はやる気が出て乳量が増えるって思ってるんだ?」ということです。

私が就農してからの十数年、全国で3万戸ほどあった酪農家数はほぼ半減しました。主な理由は経営難と後継者不足です。
飼料も動力光熱費も人件費もすべてが値上がりしたのに、乳価はずっと据え置きでした。家族全員が酪農をしていたら食べていけないので、子供は外に仕事を見つけるため、酪農を継ぎません。後継者が居ないので経営拡大の必要もなく、また、乳価が安いので生まれる子牛に一時的な稼ぎを求めて和牛の精液を使い交雑種を人工授精で産ませ、確実な現金収入にすることで生活はなんとか出来ますが、乳用後継牛は居なくなり、乳量は減りました。親世代は年を取り、自然と離農していきます。

で、現在。私が仕事は酪農だというと、ほぼ全員が「じゃぁ休みがなくて大変だね」と言います。皆が知ってるわけです、酪農家は休みがないって。実際には、うちの組合にはありがたいことに酪農ヘルパー制度があって、我が家の経営規模で1日約3万円を支払って休みを買っています。ただ、他の酪農家と希望日が重なるとヘルパーさんの人数が足りず、休めないことも多いです。それが、自分自身の健康診断のためにでも、です。

農事録も5年、結構楽し気な感じで仕事や遊びの事を書いていますけど(笑) そんな私自身が、時折すごく思うんです。「この職業の未来は限られている」って。

私も週休二日で学校に通いましたし、今は働き方改革で有休の必要性も重要視され、何より時給の見直しなんかもされていて、今の乳価で法律上のあれこれをクリアした上で誰かを雇うことは、とても難しいです。おそらく我が家だけではないと思うのですが、家族経営の酪農家は「時間」というものを犠牲にしてきたからです。
月に3日休むだけで約10万。1日8時間以上働く日だって沢山あります。お産があれば真夜中だって飛び起きていきます。誰かを雇う場合、それらの「時間」には、すべて「賃金」がかかります。

メス子牛を産ませるための助成をしても、その子牛を飼う人手、時間が足りていないんですよね。メス子牛は生まれてから3年経たないと経営的戦力(子牛を産んでお乳を出すよう)にはなりません。その3年を耐える経済力が、今の乳価にはないんです。この事業は3年後実を結ぶかもしれません。でも、その3年で、家族経営の酪農家はどれだけ減ることでしょう。
就農したばかりで両親からお給料をもらうだけだった当時の私は、牛もーが好きだったし、生き物相手の難しい仕事にやりがいを感じていました。でも、口蹄疫発生以後の赤字を経験し、自分が経営に触れるようになって痛感するのは、稼ぎがなかったら何にも繋がっていかないということ。

確かに、何があっても変わらない乳価に助けられたことだってありますが、必要対価の乳価があれば、助成などなくても雌雄判別精液を使うかどうか決められます。今居る牛の能力を高めるため、より栄養価の高い飼料にきりかえたり、体調を整えるため削蹄の期間を短くしてあげたり、第一にそれなりの給料で人手を増やし、自分自身の休日を増やすことも出来ます。そんな様々な選択肢が増えます。出来ることが増えることは、考えることに繋がり、やりたいことに繋がっていくのではないでしょうか。それは言葉にしたら「余裕」と言うのかもしれません。

で、こういう愚痴とかって牛舎で立ち話みたいな、井戸端会議的な感じでどれだけ言っていてもダメなんですよね(笑) ちゃんと、伝わる場所で言わないと。

自分で何をどうしたらいいのか、考えたりすることも大切だとは思うけれど、お乳を搾る酪農家にとって、自分では決して決められないのに「乳価」は経営の要。乳価で稼げなかったら、狭い未来はますます限られてくるばかり。お休みを取るシステムはあっても、酪農業は365日な仕事には変わりありません。必要とされるから、簡単ではないけれど高品質な乳質を維持し、経営が成り立つ範囲で工夫し毎年乳量も増産してきました。それらの対価を乳価として、今の時代必要な分求めても、おかしくはないはず。

だから、この農事録で読者の方にアピールできたり、それから、自己中心的だと言われても、欲しいものを欲しいと言ったりできるチャンスは、すごく大切にしなきゃいけなくて。それが、今年は絶対無理だろうって思っていたけれど、実は去年の乳質がまたまた東海酪連で上位10位以内に入る事が出来て、メーカーさんや偉い人たちが揃う総会の表彰式に参加できるので、そのあとの懇親会で虎視眈々と狙いたいと思います、言う機会^皿^b

短い言葉でまとめられず、2ケ月にわたって長々と書いてきましたが、要は楽しみにしてたんです、キロ4円の値上げ。だって、そうしたら今は月3日取るのがやっとなお休み、同じ仕事量で5日位には増やせるねって両親と話していたから。私は牛もーが好きだけれど、旅行とか健康診断とかのためにではなく、「何も予定がないけど取った、家にいるだけの休日」というものを取るのに、憧れているんです。

 

今年も夏を楽しみましょう!

ゆきさん農事録

 

さて、学生さん達はそろそろ夏休みに突入でしょうか。
今年は7月31日~8月5日まで開催される「いいだ人形劇フェスタ」。お気に入りの劇団も来るし、海外公演の多さも変わらずで楽しみなのですが、畜産業者としては、月頭ついに長野県内でも豚コレラに感染したイノシシが捕獲・発見されたことが気がかりです。直接、農事録読者の皆様に何か関係してくるということは少ないかと思いますが、何かあった場合、ご理解ご協力を頂ければと思います^^

そして、今月はお寺の用事と健康診断でばかりお休みを取っている我が家。この農事録更新日で私は人生初のバリウムを飲んできます。皆さん、私がげっぷせずに無事に検査が出来るように祈っていてくださいね!(笑)

では、また♪

ゆきさん農事録

 

 

この記事を書いた人

片桐由貴さん

伊那谷をまっすぐ南に向かって流れる天竜川流域の牛舎で、仕事と趣味、どちらも楽しむという片桐由貴さん。大学卒業後「やっぱり牛が好き!」と、家族の営む酪農に就農して12年。80頭ほどの牛たちと、ペットの羊2匹、猫5匹と過ごす日々を綴ります。

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