7月末に梅雨明けが発表され、雨続きから一転してやっと夏らしい景色になった安曇野です。
今年の梅雨は本当に長かった。7月は楽しみにしていたイベントが雨で中止になった人も多いんじゃないでしょうか。海無し県に住む私ですら海の家の収入が心配になる程の一か月間でした。山も全然雲から顔を出さないし、登山客も少なかったんだろうなぁ。登山客が少なければ山小屋やタクシー会社も寂しい思いをしただろうなぁ、などと空を見上げる度に見ず知らずの人への心配が頭をよぎっていました。が! 夏休みと同時に梅雨も明けたことだし、気を取り直して目一目一杯夏を楽しんでいきましょう!! フェスに行きたいフェスに!!行けないけど。
収量と食味を左右する大事な作業
お米の様子はというと、現在こんな感じ。
日照不足で丈は短く茎数もやや少なめといったところでしょうか。7月の統計では日照時間が平年の7割。日照時間が3時間以下の日が16日あったらしいです。これだけ湿度が高い状態が続くと病気が心配なのですが、今のところ健康に生育していると言えます。この頃稲の茎を1本取ってカッターで縦に割いてみるとこのようになっています。
写真の赤い丸のところに少し白いものが見えるのが分かるでしょうか。これは稲穂の赤ちゃんで「幼穂(ようすい)」と言い、幼穂が出来る時期を幼穂形成期と呼びます。前回は「中干し」という圃場の水を払って根に新鮮な空気を供給する水管理を説明しましたが、幼穂形成期では逆にたっぷりと水を圃場に入れて幼穂を高温から守ります。幼穂形成期に高温に当たると高温障害で白く濁ったお米や亀裂の入ったお米が増えてしまうのです。こっちは夏場30度を超える日が多いですが、圃場に入る北アルプスの雪解け水は今でも14度くらいなので、しっかり地温をさげてくれ、高温障害から稲を守ってくれます。
稲の皮を外側から丁寧に剥がしていくと幼穂だけを見ることが出来ます。左の写真は幼穂長約1cm、右は約5cmくらいです。こうして見ると、もう立派に稲の形になっているのが分かりますね。こんなに細い茎の中に穂の形が作られていくなんて不思議です。まさに生命の神秘。
そしてこのタイミングで、お米の収量と食味を左右する大事な作業をする必要があります。それは「穂肥」。読んで字のごとく穂のための肥料です。稲は品種にもよりますが、肥料が多すぎると丈が伸びすぎて自立できずに倒れてしまいます。収穫時期に倒れた稲を見たことがある人もいるんじゃないでしょうか。皆様ご存知のコシヒカリは特に倒れやすい品種といえます。幼穂形成期前は稲が非常に伸びやすい時期なので、幼穂形成期までに一度肥料を切らし、丈が伸びるのを防ぎます。この時期に肥料を切らすというのは稲づくりの一つの大きなポイント! そのために田植えの時に入れる元肥量を調節するのですが、これがなかなか難しい。前作が水田か麦か大豆かで土中に残っている窒素成分が違うからです。しかしそこは、長年の経験とデータで田んぼ1枚毎に肥料の量を調節して稲の品質を保ちます。
肥料がちゃんと抜けてきているかどうかは葉っぱの色で判断します。写真の手前の圃場と奥の圃場を比べると微妙に手前の方が緑が薄い気がしませんか? 穂肥をまく前にこの葉っぱの色の具合を見て、土中に肥料分がどのくらい残っているのかを予想しながら穂肥の量を調節します。
コシヒカリの場合、幼穂の長さが1cm以上になれば、その後に入れた肥料分は穂に集中するので、丈が伸びずに穂に集中して栄養を送ることが出来ます。逆に1cm未満で肥料をあげてしまうと、丈が伸びすぎて収穫時に倒れてしまいます。また、遅すぎると食味が悪くなってしまいます。とにかくタイミングが大事! そして1回目の穂肥の1週間くらい後にもう一度肥料を撒きます。簡単に言えば、1回目の穂肥は穂の粒数を増やすため、2回目の穂肥は粒を大きくするため、といった目的ですね。この様に美味しいお米を沢山収穫するために、昔の人は研究を重ねて栽培方法を進化させてきました。そしてそれは今も続いています。先人たちの知恵とデータを引き継ぎ、私たちが試行錯誤する中で日々新しい技術が生み出されているのです。
この穂肥はタイミング的に夏の一番暑い時期にやらなければいけません。幼穂を見ながら「このタイミングだ!」という時にやるので、暑い辛いは言っていられません。
写真の動力散布機という機械に肥料を満タンに詰め込み、背中に背負ってひたすらに田んぼに肥料を撒き続けます。何枚も何枚も。。。総重量は機械も含めたら40kg近くになるでしょうか。肥料ムラは顕著に出るし、田んぼに均一に規定量撒くのは技術もいるので気も抜けない。超重労働。汗も滝のように流れて、目が痛いは服はびしょびしょになるわ。お昼に一度シャワーを浴びないと気持ち悪くていれません。子供も外で遊んでは汗をかいてすぐに着替えるので、洗濯の量が多いったらない! 流石の洗濯機も目を回して壊れました。暑いとはいえ、時たま吹く爽やかな風は汗をサーッとひかせてくれるので心地がいいです。暑いけど風は爽やか。長野県の良いところですね。
ちなみに田んぼにはカエルと羽化したとんぼが大量発生中です。
「この写真の中にとんぼは何匹いるでしょう?」というクイズにしたかったのですが、何度数えても正確な答えが出なかったので、クイズにするのはやめました(-_-;)
トンボは稲の害虫のカメムシや私が大嫌いな蚊を食べてくれるので好きです。どんどん増えてくれ!
田んぼはそこにあるだけで素晴らしい
ところで皆さん知っていましたか? 周りに水田地帯があると平均気温を2度くらい下げてくれるらしいですよ。水が気化するときに周りの熱を奪う「気化熱」の影響で温度が下がるんだとか。水路も網の目のように流れていて、そこに絶えず冷たい水が流れていれば、アスファルトよりは絶対に涼しいはずですよね。地面を覆っている草も生きていて水分を身体に流しているので、地温の上昇を抑えるのに一役かっています。暑くても草の上に寝転がるとひんやりと冷たいのが分かりますからね。うちで飼っているコーギー「コマ♂」も、暑いときには草の上にお腹をぺたーっとくっつけて休んでいます。
しかも田んぼに溜まった水は、気化するだけでなく地下に浸透して地下水涵養に大きな役割を担っています。減反政策といってお米の作る量を制限された後、安曇野の湧き水の量が減ってわさびが作れなくなるということもありました。田んぼがあることで沢山の生物がいて生物多様性にも貢献しているし、洪水の時には圃場や水路が排水の役割を果たして水害を軽減させます。火事の時には網の目のような用水路が重要な水利になります。また、重要な食育の場であり、教育の場でもあります。安曇野市の田園風景も田んぼがあってこそですね。水鏡→緑の絨毯→黄金色の大地→白銀の世界と、生活の中で四季を感じることもできます。そして田んぼには電柱も電線もありません。そのため凧揚げや飛行機遊びなど、空を気にせずに思う存分遊べます。
三九郎などの地区の行事も稲わらを使い田んぼで組み立てます。
まだまだ良いところはいっぱいある田んぼ!
見えないところで役に立つ!
例えば空気のような。普段は意識しないけど、無くてはならないものだと勝手に思っています。
草との戦い
夏らしくなったのはいいですが、梅雨の明け方のメリハリが凄い。夏の日差しに慣れていなかった分、太陽の日差しが痛い! 暑い! もう少しやんわりと夏に向かえないのだろうか。さて、ここで春からずーーーっとやり続けてきた草刈りのお話です。前半戦は梅雨が長引いた分、曇り空の下で助かった部分はあります。しかし適度な雨は草をどんどん成長させるので復活が早いのなんの。雑草根性とは良く言ったもので、切っても折ってもすぐに上を向いて伸びていく・・・。見習いたいもんですね。後半は夏の日差しにやられ、昼休みを2時まで延長して作業を進めました。2時に外に出るのも勇気がいるのですが、やらなきゃ終わらないんだからしょうがない! 一度伸ばしてしまうと草刈りに倍も時間がかかってしまうので、早めに刈り取らなければなりません。草刈りの何が1番嫌って、お金にならないこと。収穫してお金になるなら頑張れる。だけど、どれだけ草を刈ってもコストしかかからない。しかも重労働。畦畔管理のコスト削減は大昔から考えられてきていますが、今一これといった解決策は無いですね。
畔草を刈るのには全て機械を使います。鎌では刈りません。先ずはトラクターの後ろに付けて草を刈る「オフセットモア」という機械。トラクターの真後ろと右側だけ刈れて、角度も上下に調節できます。危険作業なので気は遣いますが、トラクターの中はエアコンが効いてて快適♪ 最初にこれで刈れるところは全部刈ります。
次に畔の角の部分を刈る草刈り機「ウィングモア」。半分が折れるので田んぼの縁の内側や法面の上を刈り取るのに適しています。これで畔の上部分を刈り取ります。
そして残った法面部分を刈るのが「法面草刈り機」。人は畔の上を歩きながら機械を斜面に這わせつつ草刈りをします。一度では刈りきれないので、ただひたすら畔を上から行ったり来たり、行ったり来たりします。しかし、ウィングモアも法面草刈り機も、石が多いところは機械が壊れてしまうため刈れません。また、擁壁の際や杭の周りは草が残ってしまいます。
そんな時登場するのが皆様お馴染みの「刈り払い機」通称「ビーバー」というやつですね。最後はビーバーで残った草を刈り取りながら仕上げをして終了!! 機械で刈るとはいえ、人間が動かさなきゃいけないものばかりで重労働なのです。しかも長野県は畦畔率が全国2位!! 全国で2番目に単位面積当たりの畔の面積が多い県なのです。標高差の大きい内陸特融のデメリット。家は標高600mくらいのところですが、ちょっと登ればすぐに山です。そうなると1反部の田んぼでもこの畔↓
もう見るだけで嫌になりますわ。田んぼは作れるけど畔草は刈れないというのはよく聞く話です。全ての圃場の草刈りを終えるのに最短で10日くらい。そして1ターン終われば最初に刈った畔草はもうしっかり伸びています。特に7月からのイネ科雑草の伸び方がエグイ。1日毎に目で見て伸びているのが分かるので、他の作業と並行して見ていると急かされますね。そんなわけで、草刈りなんてやりたくないわけですよ。しかしまぁ追々書こうかと思っていますが、これだけ畦畔管理コストがかかっても長野県で農業が盛んなのは、それを補って余りあるフィールドポテンシャルがあるから。私は新規就農したとしても長野県で農業をすることを選ぶと思います。
大豆の芽の出かた、知っていますか?
雨の合間を縫って6月に播種した大豆は現在こんな感じ。
ん~元気元気♪ これだけ見ると「ふ~ん。そうなんだ。」で終わってしまうと思いますが、皆さん大豆の芽の出かたって知っていますか? 何となく大豆から芽が出て双葉が開くと思っていませんか?
この写真で分かりますかね。左の端のやつを見てもらえると分かるように、豆そのものが地上に持ち上がって、真ん中の様に豆自体が開いて葉っぱになるのです。このような葉の開き方を「地上展開型」と言います。私は就農当時この発芽の姿を見て驚きました! 「蒔いた大豆が緑になって持ち上がってきてるけど、え? 種が開いて葉っぱになるの?」って。
この種が葉っぱになったものを「子葉」と呼びます。私たちの頃は「双葉」って習いましたが、今は「子葉」という言葉を使っているみたいですよ。そして子葉の上に出た葉っぱが「本葉」です。私たちが普段目にする大豆って葉っぱに栄養が詰まったようなものなんですね。水と空気と温度でちゃんと発芽するんだなぁ。1年間紙袋の中で変化無く止まって見えたけど、しっかり生きてるんだなぁ。栄養満点なわけだ! 植物って凄い!!
ということで今月の作業の様子はこの辺で。これからは暑い夏になりそうですが、皆様熱中症には十分注意してお仕事頑張って、遊びを楽しんで下さい(^^)
農事録番外編
長野県のおいしいおつまみ:7月
夏だぜ !暑いぜ! ビールがうまい!!
7月の最高のおつまみはこれだ!
夏と言えば夏野菜! 今回はシンプルに夏野菜攻め!
もう冗談抜きに野菜自体がつまみになる! 強いて言うなら採れたてより冷やして食べる方が好き。
スーパーに出回っているものは早採りしているので、野菜の旨味は少なくなりがちですが、だからこそこの時期に長野県に来たら樹上完熟の野菜を食べてほしいです。トマトはしっかり冷やして冷やしトマト。玉ねぎスライスをのせてもいいですね(食べるのに夢中で写真撮り忘れました)。
キュウリとナスは浅漬けでいただきましょう!
写真は家で流しそうめんをやった時のものなので食べかけです(笑)。でも美味しそうでしょ?
下の写真は「パプリカと豚肉炒め」「ズッキーニのベーコンチーズ」「オクラの豚肉巻き」「キュウリの味噌マヨ付け」。
この為に作ったものではなく普段の食事で出てきました。思わず撮影して今回のつまみに紹介しました! 「居酒屋か!」
今回夏野菜を紹介したのは、美味しいだけじゃなく、熱中症や夏バテの予防になるからです。
日本は高温多湿の夏ですよね。知らず知らず体に負担がかかり自律神経機能が低下します。暑いので当然冷たいものを飲みたくなる。しかし冷たいものを急に胃袋に流し込むと胃腸の活動が低下して、その際消化酵素の働きも低下してしまう。結果食欲不振の夏バテ状態になるというのが夏バテまでの流れらしいです。そこで消化酵素の働きを補給するのが新鮮な生の野菜というわけ。できれば旬のものがいいですね。トマト、キュウリ、ナス等の夏野菜であれば体温を下げる効果があるように、その時の季節に応じた効果や栄養も補給してくれるからです。
また、オクラのネバネバには胃の粘膜を保護して、健康な胃の状態に導いてくれるパワーがあるらしい! オクラと豚肉には夏バテの疲労回復に良いビタミンB1も含まれているので、オクラの豚肉巻きなんて夏には最高じゃないですか。難しいことはさておき、家で採れた旬のものを食べていれば、自然と元気に健康で暮らせるってことでいいのかな。
1年を通してどんな野菜でも手に入るのは上手く産地リレーをしたり、農家や流通に携わる方々の工夫と努力のおかげ。しかし、いつからかそれが「当たり前」になってしまい、「旬の食材」が分らなくなってしまってきているのではないでしょうか。
是非皆さん、毎日の食卓に少しだけ「旬」を意識してみて下さい。「お。新じゃがの季節か♪」とか「そろそろ桃が出るころかなぁ。」とか、きっと今まで以上に食に楽しみが生まれてくるはずですよ(^_-)-☆ 旬の食材でお酒を美味しく飲みましょう!
それではまた次回もこうご期待。