花井さんの農事録
[花井さんの農事録]

須坂の4つの季節を巡る農事録 




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昼間の気温はまだ上がるものの、
時折さらさらと
心地良い風が
吹くようになりました。

冷たい朝露と
明け方の暗い空は、
私にとって
秋のサインです。
黄昏時の空には

筆でなぞったような雲が漂い、
ぼんやり見つめていると
遠い誰かに会いたくなるような、
そんな郷愁にかられるのも
秋ならではです。



 

 

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よいよというか、ようやくというか。わが家のプルーンも最終品種の収穫を迎えました。今年のプルーンは収穫期が例年より大幅にずれ、出足が遅れました。その上、少雨の影響により熟すまでの期間が長引き、かと思えば連日の雨で裂果が多発しました。裂果した実は核果類特有の菌が繁殖し、やがて腐敗し落果します。そのおびただしい数のプルーンの実をひとつひとつつ拾い、土に埋めました。なんとも虚しくて悲しくて、ため息が出る行為でした。




天候の影響が大きい今年


えば今年は摘果のシーズンからてんやわんやでした。収穫が始まっても想定していた順序は狂い、桃とプルーンの収穫が重なる状態が当たり前のようになり、以来ずっとそんな調子で来ました。適期に収穫することを大切に思えば、たとえ次の収穫が迫っていても未熟のまま収穫することはできません。天候の影響が大きいとは言え「収穫ってこんなに苦しいものだろうか?」「こんな苦しいことのために作業してきたのだろうか?」と、今年ばかりは農家の在り方に疑問を持たざるを得ませんでした。

 

農家の真髄を求めて

家にとって楽な収穫などはありえないと思っていますが、でももう少しだけ、日々に余裕を持ちながら暮らせたらどんなにいいかと思います。収穫は農家にとって集大成です。その年々の実が樹から離れて行くのを見届けた後、味覚を味わい、今年を思い返し、充足感を得ることこそが農家の真髄ではないかと思うのです。


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培品目や品種構成の見直しは必須ですが、天候による受難はこれからも続くでしょう。極端な気象条件の下でもおいしいものがこの地で作れるのであれば農家を続けたいと思う反面、そんな気持ちが揺らぐような今年の夏でした。

来年のための作業

ころで、収穫が終わればその果樹の作業はすべて終了のように思われる方もいますが、そうではありません。桃やプルーンには『秋季剪定』という大切な作業があるのです。剪定と言えば冬に行うものが一般的ですが、今の、葉の茂っている時期だからこそできる剪定というものがあります。

たちが行う秋季剪定での第一の目的は、充実した花芽(来年の実がなる芽)を育てることです。そのためには陽当たりを良くして、樹に糖分を充分に蓄えてもらわねばなりません。樹幹内部の日照を確保するとともに、枝の素質を見ながら樹形を整えます。こうして、来年のための花芽や葉芽を樹が準備するように、果樹農家も来年に向けての作業がはじまっています。

反省と準備の季節へ

い先日まで、たわわに成った実で枝をしならせていた樹も、今はそよそよと風に揺られています。『兵どもが夢の跡』ではありませんが、この光景にはいつもホッとしつつもどこか淋しい気持ちになります。どんな収穫になろうとも、樹に対する「おつかれさま」という感謝の気持ちだけは忘れないようにしたいものです。

ほどの秋季剪定では、養分の蓄積に必要な葉(枝)を落としすぎないよう気をつけなければなりません。私もこの後に訪れる休息で何かを落としすぎないよう、来年のための反省と準備をしておきたいと思います。



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それでは、今回はこのへんで。



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この記事を書いた人

花井かおりさん

花井かおりさんは長野県北部の須坂市で、ご主人とその両親との4人で農園を営みます。就農したのは6年前。もも、プルーン、りんご、ぶどう、そしてアスパラガスといった果樹や野菜の多品目栽培です。「地に足をつけた暮らし」をいとおしみ、母屋のそばに建つ小さな家とともに「生活の延長線上に仕事がある生き方」を楽しみつつ、農とそれにかかわる自己を見つめるかおりさん。彼女の4つの季節を巡る農事録です。

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