ハウスの中ではアスパラガスが旬を迎えていますが、収穫と荷造りの合間をぬって桃の『摘蕾(てきらい)』作業をしています。摘蕾とは読んで字のごとく、蕾(つぼみ)を摘み取ることです。蕾の数や位置などを考慮しながら、指で枝をなぞるようにポロポロと不要な蕾を落として行きます。蕾が膨らみかけた頃からはじめます。
アスパラや果樹、そして名の知らない草も萌えだす時「あぁ今年もこの時が迎えられて良かった」と思います。春になれば芽が動き出すことを誰もが知っていますが、そこに至るまでの確証はありません。なので、生命力溢れる春という季節は、農家にとって実は収穫期以上に悦ばしい季節ではないかと思います。
やっと迎えたこの春という季節に、作付けの延期を強いられている農家がたくさんあります。農業には常に何かを行うにあたっての「適切な時期」というものがあって、それを逃せば後々の作物の出来に影響を与えることになります。
農家にとって本来、作付けや作業に『延期』はありえません。基本的に農作業は太陽が昇っている間だけですので、作業が滞ったからといって徹夜をすれば間に合うというものでもありません。適切な時期にその作物に関われないという状況は、非常に苦しいことです。
そんな苦難に対し、人間の手で出来ることは限られていますが、農家なりにこの先の暮らしの在り方を手探りではじめることはできるのかもしれません。いつの日か、心から春を悦べる時がたくさんの人に訪れるために。そして、もっと先の世代のために尊い「地力」というものを残せるように。
これから桃、プルーン、りんごと開花が続き、慌ただしい授粉作業がはじまる予定です。この期間は果樹農家にとって飽きるほどに花・花・花の日々なので、お花見といった風流な気分になることは残念ながら少ないです。ここ須坂市には『臥竜公園』という桜の名所もあるのですが、気分次第で行ったり行かなかったり...。
ただ、庭にある1本の桃の樹だけは、今年も摘蕾をせずに花を愛でてあげたいと思います。来年咲くことも、その花を私が見ることも、いつだって確証はないのですから。
それでは、今回はこのへんで。