朝、薪ストーブを使わなくなってからそれほど間もないのに、ここ数日はすでに初夏の陽気です。毎年4月は冬と春とが行きつ戻りつの気候が続き、ゴールデンウィークあたりから急に夏がやって来るという、信州の「春らしい春」は案外短い印象です。特に今年の4月は寒かったのでなおさらです。
春の楽しみのひとつが山菜です。ウド、こごみ、たらの芽、フキ...。畑で穫ったり知人から戴いたり、今年も天ぷらなどで食し堪能しました。自分がこれほど山菜を好きになるとは、ここに暮らすまでは思いもしなかったことです。山菜に限らず、穫れたての野菜やくだものが、新鮮であるというだけでこれほどおいしいものなのかということも、この土地に来て農業をはじめるまでは、ほとんど感じることがありませんでした。
近頃は日中の作業で汗をかくことが多くなります。そうなると、とりわけおいしいのが夕食前のビールだったりしますが、水分を欲した身体に新鮮な野菜の水分がじわじわと染み込む感じもたまりません。
目の前にある自家菜園では最近様々な野菜が育ちはじめ、緑モノの乏しかった食卓を彩るようになりました。穫った野菜をすぐさま調理して食べられるのは、本当に有り難いことです。
それは、単に「おいしい」「安心」というだけでなく、ほんの少し前まで畑にあった命が体内に取り込まれエネルギーとなり、毎日生かされているということを実感できるようになったからです。
いつのころからか「鮮度」とはそのものの「生命力の尺度」と考えるようになりました。食べることはそのものの命を戴くこと。感謝の気持ちは、「おいしい」の根本にあるものを実感できてこそ生まれるものなのかもしれません。
ところで、新鮮な作物はたいてい瑞々しく甘みがあり風味も残っているため、調理方法はごく簡単で済みます。以前は、農家が作る料理は量が多くて大雑把な印象がありましたが、あれは単に大雑把なのではなく、これ以上味付けや調理方法に凝る必要がないという、そういう場合もあるのだと知りました。あれこれ調理を工夫することも楽しいものですが、できるだけ長く楽しめるようにたくさん作る手間も、素材を楽しむ秘訣なのかもしれません。
そして、身体を動かして汗をかくこと。それこそがおいしく食べることの最大の秘訣なのだろうと、この仕事をはじめてからわかったことです。例えば、暑い日に冷房の効いた場所で冷やした桃を食べるのと、汗だくになった後で桃を丸かじりするのとでは、味わいが全く違うと思うのです。
また、前述のようにビールの味も全然違ってきます。特に収穫期の頃は最高の味わいです(笑)。そんな時は、暮らしの礎となる農業がわたしにもたらしてくれたものに深く感謝し、また明日もがんばろうという気になります。
周辺では果樹の花が散りはじめ、1週間もすれば摘果シーズンへ突入です。慌ただしい中でも植物から学び、今年も誰かの「おいしい」のために作業ができたらと思います。
それでは、今回はこのへんで。