大樹の農事録
[大樹の農事録]

大樹の、安曇野うまい米づくり農事録 第8回

朝の冷え込みが厳しくなってきました。今年は紅葉をゆっくり楽しむ間もなく秋が過ぎて行ってしまいました。北アルプスは薄っすらと雪化粧をし、冬の訪れを告げています。

安田さん農事録

 

 

農ボラに参加してきました

大きな爪痕を残した台風19号。農業も深刻な被害を受けました。同じ農業者として少しでも力になりたいと思い、「信州農業再生復興ボランティアプロジェクト」通称「農ボラ」に参加してきました。
千曲川の決壊場所は広大な果樹地帯になっており、決壊により大量の泥とゴミが園地に流れ込みました。重機では果樹園の中に入っていくことができない場所は、人の手で泥を運び出さなければなりません。私が参加したのは決壊場所のすぐ横の果樹園で、木の周り半径2mの泥をどけるという作業を行いました。

安田さん農事録

 

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堆積物は泥と砂が混ざったようなもの。しっかり締まっていてとても重いです。深いところでは40cm程積もっており、1本の木の周りの泥を除けるのにも大変な体力を使いました。更に泥の中にはビニールやタイヤ、瓦などのごみも紛れていてスコップが思うように刺さらず、作業を手こずらせます。水は私の身長付近まで来たようで、目線の先には茶色いりんごとゴミがかかった枝が目につきました。

 

人の温かさに触れて

一緒に作業したボランティアグループの半数以上は県外の方でした。ニュースを見て、いてもたってもいられず有休を取って作業に来てくれた人。大阪から車中泊で駆けつけてくれた人や、出張中だけど帰りの日を1日伸ばしてもらってボランティアに参加してくれている人等、様々でした。
被災してこれを機に離農を考える農家が多いことを知り、長野県のりんごが好きで「自分の力で離農する農家が少しでも少なくなるなら」と汗を垂らしながら話してくれる人。「自分のところが被災したときに、長野県の人にとても助けられたから恩返しがしたい」と話してくれた人。本当に温かい人の心に触れて幸せな気持ちになりました。
実際、離農を考えていた農家さんも「全国からこれだけ沢山の人たちが助けに来て励まされたら、弱気になっていられない!」と復興に向けて歩き出しているようです。

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しかし、現実はまだまだ人の手が足りません。信州の冬はそこまでやってきています。雪が降る前にどれだけ作業を進めることが出来るかが復興の要だと思います。泥だらけの果樹園で、流されてきたピアノを見ながらの昼食は忘れられません。県内県外に関わらず、お手伝いに来てくれている皆様、本当にありがとうございます。

 

今年最後の収穫作業

自分のこともしっかりと、ということで、農作業の方はというと、例年より大分遅れてしまいましたが、麦まきが終わり、無事発芽も確認できたのでほっと一息です。
次に控えるのは大豆の刈取り。我が家は大豆の刈取りをもって一年の収穫作業を締めくくります。

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今年の大豆は9月の雨不足&台風による熱風で多くが枯れあがってしまいました。雨が降らない風だけの台風があったため、言うなればドライヤーで煽られた状態で、水不足だった大豆の葉は殆ど枯れ落ちてしまいました。ちょうど種子肥大期だったため、葉が落ちた大豆は超小粒。生き残った大豆はその後順調に生育したので、大粒と超小粒の両極端になりました。しかしこのくらいなら良い方らしく、風をもろにくらった圃場はほぼ壊滅状態だったらしいです。

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大豆収穫に登場するのは写真の「汎用コンバイン」。名前の通りこれ1台で米、麦、大豆、そばの全てが収穫出来る汎用性があります。前方のロールがゴロンゴロン回りながら刈り取った大豆を掻き込んでいきます。

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収穫後はスタンドバックに入れて乾燥させます。

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収量は選粒と計量をしてみないとまだ何とも言えませんが、品質は悪くないと言えるでしょう。

 

大いなる豆

大豆といえば別名「畑の肉」と言われるほど豊富なたんぱく質を含んでいます。しかも肉より低カロリーなので余分な脂質は控えつつ、高品質なたんぱく質を摂取することができます。低カロリーの赤身肉ブームですが、健康のことを考えるなら大豆を食べた方が余程良いでしょう。長くなるので書きませんが、その他にも大豆の栄養素は沢山。豆腐と油揚げの味噌汁なんて、もはや大豆を食べてるようなもんですよね。健康面で評価されている日本食は、大豆食品が豊富に含まれていることも、その理由の一つとしてあるのではないでしょうか。

更に大豆には凄いパワーがあります。生育期の大豆を抜いてみると根っこにコブが沢山ついています。これは根粒という器官で、この中には根粒菌というものが住んでいます。この根粒菌が凄い役割を果たすのです。

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赤丸のコブが根粒菌。なんとこの根粒菌は大気中の窒素をアンモニアに変換し、大豆に供給する働きをしているのです。このことを「窒素固定」といいます。で、だから何が凄いの? って感じですよね。
まず、窒素は植物の生長に欠かせない重要な成分です。通常、化学肥料のアンモニア窒素は、1000気圧で500℃の超高気圧高温の元、化学反応をさせてやっと作ることができます。空気中に大量に含まれる窒素を肥料にする技術は、まだ確立されていません。それを常温でいとも簡単にやってのける根粒菌は、まさに自然界のスーパー化学工場なのです。
この根粒菌は大豆以外にもマメ科植物と共生して窒素固定をするので、マメ科の植物を植えて根粒菌を使って空気中の窒素を土壌に固定してから鋤きこむことで、化学肥料を撒かずに空気中の窒素を肥料にすることが出来ます。これを「緑肥」と言います。皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。

味噌、醤油、豆腐、納豆等、日本食には欠かせない大豆ですが、実はその多くを海外に依存しているのが現状です。ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」を本当の意味で和食とするために、素材も全て日本産でありたいものです。

 

冬支度

安曇野の冬ははっきり言って厳しいです。寒いときは最高気温が0℃という日もあるので、水を使った外仕事は12月上旬には終わらせておきたいですね。まあ、その寒さがあるからこそ美味しいりんごや野菜が出来るわけですが(#^^#)
私の大好きなセロリも霜に当たって美味しくなる野菜の一つ。霜に当たって柔らかくなったセロリを株ごと味噌マヨネーズでボリボリ食べるのが最高です。
そして長野県の漬物と言えば「野沢菜」。これも霜に当たらないと柔らかくなりません。なのであえて何度か霜に当ててから収穫して漬物にします。

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冷たい水で綺麗に洗ってお漬物に。冬の行事の一つです。野沢菜やたくあんはこちらではポピュラーな家庭の味で、近所では各家で違った味があります。近所でお茶を頂くと、必ずお漬物が出てきて、少し甘かったり、逆に唐辛子を多めに入れて辛くしていたり、醤油の味が違ったりとそれぞれの「家庭の味」があって本当に面白いです。ですが、実際漬物を自分の家で漬ける人も少なくなってきました。今のジジババ世代からパパママ世代になると、わざわざ漬けるより買う人の方が多くなるでしょうね。レシピの無い口伝の味は無くなってからじゃ二度と取り戻せません。それぞれの家庭の味も守っていってほしいものです。

 

自分の欲しいもの

屋敷林の落ち葉もあらかた落ちて、先日庭師さんも入って庭の掃除も終わりました。今年はダラダラ落ちずに一気に葉が落ちたという印象です。

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我が家の坪庭におられます「天神様」も紅葉の時期はいつもよりどこか優雅に見えます。
さて、年に一度この時期に庭師さんに庭木のお手入れをしてもらっているのですが、休憩中一緒にお茶を飲んでいるときに、30代の庭師さんから明言を頂きましたので紹介させて下さい。

農業や庭師に限ったことではないんですが、慢性的人手不足で後継者や従業員がいないから仕事が出来ない、といった内容の雑談をしていた時のことです。
庭師A「どこも若者は都会に出てっちゃいますからね。」
 私 「給料や仕事の選択肢でいえば都会の方が仕事に困りませんしね。」
庭師A「今は仕事はいくらでもあるんで、好待遇のところへの転職も珍しくなくなりましたね。やっぱりパソコン上で条件絞って検索しちゃうと、都会に人が流れていっちゃうんですかね。」
 私 「なんでAさんは若いのに庭師の道を選んだんですか?」
庭師A「僕の欲しいものはこっちにしかないんで。」

「僕の欲しいものはこっちにしかないんで」

はい、名言きた、これ圧倒的名言!!サラッといった言葉とその奥にある生き方に、ゾクゾクッと鳥肌が立ちました。
本当に色んな意味で考えさせられた一言。同じ安曇野で暮らしていても見えているものは多分違くて、私が気付けなかった色んな素晴らしさが、まだ沢山散りばめられているんだなと痛感しました。
「僕の欲しいもの」はネットの条件検索では絞り込めない仕事内容以外の「生活」であったり「趣味」であったり。大抵の場合「仕事をする≒そこに暮らす」ということですよね。仕事に重点を置くか、暮らしに重点を置くか。私が就職活動をしたときは暮らしのことなんて二の次でした。でも今33歳になり子供も3人いる生活を送ってみて、暮らす環境も大事だなと心から思えます。

皆さんにとっての「僕の欲しいもの」はなんですか?

寒空の下、仕事終わり、見上げればオリオン座が冬の到来を告げています。
皆様、「インフルエン座」には十分注意してこの冬を乗り切りましょう。では良いお年を!

 

農事録番外編
長野県のおいしいおつまみ:12月

寒い中、お仕事本当にお疲れ様です。季節野菜のおでんと熱燗で身体の芯からあったまって下さい。

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というわけで、今回のおつまみはおでんです。写真が美味しそうに撮れなくて残念ですが、これは我が家の素のおでん。大根、人参、椎茸の季節野菜を軸に、ロールキャベツが入っています。このロールキャベツが意外といい味出すんですよね。

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そして、長野県特有なのが「ねぎだれ」をかけて食べること。この「ねぎだれ」、長野県南部では一般的に食べられているようです。安曇野は南部ではないのですが、私の母が高森町という下伊那地域(南部)出身のため、物心ついたときから「おでんにはねぎだれ」が我が家の家庭の味でした。
でもそれを知ったのは大学で金沢に行ってから。「ねぎダレ? 普通からしだぜ」という友人の言葉を聞いた時でした。だがしかし、この「ねぎだれ」は超絶美味しい。もう私の語彙力では上手く説明できないので、写真から感じ取ってほしい! からしは少しでいいですが、是非ねぎだれはおでんにたっぷりかけて召し上がって下さい。おでんにねぎの風味と甘みが絡み合って至福です。
しっかりと味が染み込んだ柔らか大根を箸でほぐして、ねぎだれをたっぷり絡めて口に運ぶ。だし汁と素材の余韻がまだ口に残る内におちょこの熱燗をくいッと!

「ほふぅー。幸せしかない!」

ってなわけで、長野県でおでんを食べるなら是非ねぎだれで! おそらく南部地域の居酒屋ならあるんじゃないでしょうか。ねぎだれの味も様々なので、そんな違いも楽しみの一つかと思います。心も体もあったかく過ごしましょうね。

ではまた次回!

この記事を書いた人

安田大樹さん

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

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