大樹の農事録
[大樹の農事録]

大樹の、安曇野うまい米づくり農事録 第10回

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

こんにちは。令和2年がスタートしたと思ったらもう1か月が終わってしまいました。

今年の冬は驚くほど暖かいですね。雪は降ってもすぐ溶けてしまうので、子供たちは雪遊びが出来なくて寂しそう。冬服も売れず、スキー場にも雪が少なく困っているようです。温暖化の影響なのでしょうか。こうなると自然相手の農業のあり方も変わってきます。今まで作れていたものが作れなくなったり、逆に作れなかったものが作れるようになったり。昔からのマニュアル栽培ではなく、気候に合わせて栽培方法をアップデートさせていく必要がありそうですね。
さて、年始から暗雲が漂う令和2年ですが、今回も冬の様子をお伝えしていきたいと思います。

 

大豆の選粒

前回、冬は概ね機械整備をしていると書きましたが、それ以外にも大きな仕事が一つあります。それが、収穫した大豆の選粒と出荷です。収穫した大豆は小さいものから大きいものまでごちゃ混ぜで、中には割れたものや茎などのごみも混ざっています。出荷をするにはこれらの異物や変形粒を取り除き、「大」「中」「小」にサイズ分けをしなければなりません。
そこで登場するのが大豆選粒機です。

安田さん農事録

 

選粒の仕組みはとっても簡単で、斜めにしたベルトコンベアの上に大豆を落とし、丸いものはコロコロ転がって下の製品口へ、茎や割れ大豆は転がることなく上に運ばれ不良品口へ出るといった具合です。
製品口に落ちたものは、サイズの違った穴から外へ出て「大粒」「中粒」「小粒」に分けられます。

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上は選粒前、下は選粒後の写真です。異物や変形粒がきちんと取り除かれていますね。

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不良品口からは割れた大豆や鞘や茎等が出てきます。これは凄くいい肥料になるのでフレコンバックに溜めておき、春先に田んぼに播いて地力を高めます。
今年は9月の干ばつで多くの葉が枯れ落ちてしまい、たんぱく質が豆に蓄えられえなかったため、小粒の割合が非常に多く、例年は全体の5%くらいなのですが、今年は約20%もありました。粒の数は変わらずサイズが小さくなるので、単純に収量も下がります。昨年は10アール当たり300kg取れたものが、今年は245kgでした。悲しいですが、中には例年の半分しか取れなかった農家もいたようなので、健闘した方だと言えるでしょう。
大豆は日本食の要ともいえる食材です。「なるべく国産で!」という業者さんの要望に応えるべく、安定して供給できるよう栽培方法を検討していきたいと思います。

 

無病息災、五穀豊穣を願って

話は変わりますが、皆さん「三九郎(さんくろう)」ってご存じでしょうか? 1月に竹等で塔を作って、しめ飾りやだるまを燃やすあれです。一般的には「どんど焼き」と呼ばれることが多いみたいですね。
安曇野では三九郎と呼ばれるのが一般的ですが、地域によって呼ばれ方はだいぶ違うようです。呼ばれ方は違っても、込める想いというのは同じのようで、年末に家に迎えた歳神様を、しめ飾りや門松などを燃やす神聖な炎に乗せて天へと見送ることで「無病息災」や「五穀豊穣」を祈ります。

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地元では公民館横の田んぼに三九郎を作るのですが、うちが耕作している圃場なので、ここの圃場は秋起こしはしません。さらに、稲刈りの時に三九郎に使う藁も切らずに落としておきます。これも田んぼの役割の一つ。
三九郎の日は朝から米粉で「繭玉」を作り、柳の木に刺して準備をします。基本は白の繭の形に作りますが、最近は子供の自由な発想に任せて形も色も様々。「あちっ!あちっ!」といいながら米粉粘土を楽しそうに形作ります。

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この繭玉を三九郎の神聖な炎で焼いて食べることで、1年間風邪をひかないと言われています。
でも今私は少し風邪気味(笑)子供と遊びながら繭玉を変な形にしたからかな。神様すみませんでした。もう繭玉で遊んだりしません。。。

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火を広げた直後は物凄く熱いので、子供も大人もみんな、火の反対を向かなければいられない様子( *´艸`)
1年の無事を祈る以上に、地域の人たちが集まって火を囲むというのはいいものですね。地域の行事は負担になるから、と色んな行事が縮小されていく時代ではありますが、そこに暮らすみんなが顔を合わせる場というのは、地域の未来のために本当に大事。これも広い意味で農業の役目だと思うので、地域の伝統文化と共に、継続できる環境もしっかり守っていきたいと思います。

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素晴らしき薪ストーブ

普通であれば雪景色の中の三九郎ですが、今年は本当に暖かかった。例年だと-10℃でもおかしくない時期なのに、足も全然冷えなかったです。冬、我が家で活躍する薪ストーブも、今年は薪をあまり使わずに助かっています。薪ストーブを使用している人はご存じかもしれませんが、薪って買うと高いんですよね。だからと言って自分で原木から作るとなると超重労働です。「アルプスの少女ハイジ」のおじいさんのイメージで「休日ちょっくら薪割るか」なんて考えている人がいたら、挫折は必至でしょう。

うちも昔は斧でせっせと薪割りをしていましたが、硬い木や節のある場所はどうしても斧では割れずあきらめたことがあります。でも薪ストーブの暖かさを一度味わってしまうと心地よさが忘れられません。そこで林業をしている知人から薪割り機を借りたのですが、もぅこれが凄く楽。節があってもなんのその! 20tの力でバキバキと割っていってしまいます。一度使うともう斧には戻れません。そんなこんなで5年前くらいから薪割り機での薪割りです。

安田さん農事録 安田さん農事録

 

原木を50cmに切って薪割り機で割っていきますが、木の中には虫も沢山。家の中で薪を保管しておくと虫が目を覚まして出てくるので、薪は外に保管しておき、使う分だけ家の中に持ち込むようにしましょう。クワガタならテンションも上がりますが、クモや蜂が出てくるのは勘弁してほしいですもんね。

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割った薪はパレットに積んで1年乾燥させます。これだけ薪を作っていますが売り物ではありません。全て自家用なんです。原木にこだわりは無いので杉や松等の針葉樹もガンガン燃やしちゃいます。

薪ストーブは暖かさの質が違う、とよく言いますが、本当にその通り。勝手口で薪ストーブを燃やしていると、隣の部屋の棚の食器まで暖かくなっているから凄い。体全体が温まり、遠赤外線の力は本当に凄いです。あと、火の揺らめきと木が爆ぜる「パチ、パチ」というBGMが何とも心地いいですよね。
子供が寝た後、火を見ながらウイスキーをちびっと飲んで「くふぅーー」とするのも最高でございます。

ただ空気は乾燥しやすいので、ストーブの上にはやかんを乗せて湿度を保つようにしましょう。そう! やかんを乗せて置けばいつでも「燗」がつけられます。やっぱ熱燗は湯銭が一番ですよねぇ。おでんなんかも隣で出来るし、やっぱり素晴らしき薪ストーブ!!!
これからも至福の時間の為に薪割り頑張るぞ!
これだけ暖かいと、来月には田んぼ仕事も始まってきそうです。冬場の空いた時間に、どれだけ職場環境をアップデートできるかが要。息抜きはしつつ、徐々にウォーミングアップを始めていきます。

 

農事録番外編
長野県のおいしいおつまみ:2月

本当に雪の少ない長野県。そして今年は暖かい。ということは、もう早ければ動き始めてるかなぁ。と思って子供と散歩がてら田んぼの畔を見て回ったら、やっぱりありました。

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フキノトウ!!!

まだ小さめですが、このくらいがお上品で食べやすい。

フキノトウは名前の通り大きくなったらフキになります。手がかり無しにフキノトウを見つけようと思ったらかなり大変ですが、夏に草刈りをしながらフキスポットを記憶しているので、見つけるのは簡単♪ 草刈り大変なんだし、畦からこのくらいの恩恵はあってもいいですよね。

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跳び箱で手を痛めた長男も表面の草をどかしては、フキノトウを発見するとテンションを上げて収穫していました。
さて、初収穫のフキノトウはいつも天ぷらでいただきます。

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個人的に、天つゆには大根おろしと生姜をたっぷり入れて七味を少々。揚げたてのフキノトウを天つゆに浸しつつ、おろしを乗せる様にして食べるのが好きです。
ただ、子供は採るのは好きでも食べるのはちょっと苦手な様子(;^ω^) 確かに、苦いもんな。エビ食っとけな。
でも「これは俺が採ったやつだ!」と少し食べては「にがい、、、」と再確認していました。

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苦いと知っていても自分で採ったもの、育てたものは美味しいと思うし、食べてみたいのが子供の心理。自分で作った米や野菜は、どこのものより美味いと信じている農家のおやじも一緒です。
好き嫌いを無くすには、できるだけ食卓に並ぶ前の姿に関わらせることが大事だなぁと、しかめっ面で「にがい、、、」と言いながらフキノトウを食べる子供を見て思いました。食育の神髄を見た気がします。

ところで、フキノトウは毎年同じ場所に出てくるので、中には場所を覚えてしまうと生えているフキノトウを根こそぎ採っていってしまう人がいます。基本的には田んぼは畦も含めて人の持ち物です。フキノトウってお腹いっぱい食べて美味しいというものではありませんよね。食べきれる分だけ少し採って、みんなで旬の味覚を楽しむようにしましょう。その心の豊かさが食卓でのフキノトウを何倍も美味しくしてくれるはず♪
そんなところでまた次回お会いしましょう♪

この記事を書いた人

安田大樹さん

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

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