大樹の農事録
[大樹の農事録]

大樹の、安曇野うまい米づくり農事録 第11回

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、イベントというイベントがことごとく中止になっていく今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
今年の冬は異常高温で本当に暖かい安曇野です。例年なら2月なんて、朝一でスパナ持ったら、気温が低すぎるために手に張り付いてしまい、仕事にならないのが普通です。一方の今年は朝からサクサク仕事ができます。

そろそろ花粉も飛び始めている様子。マスクの品薄は全国的なものでしょう。開店前のマスク行列を見る度、相田みつをの「うばいあえば足らぬ わけ合えばあまる」という言葉が頭をよぎります。中にはマスクの転売屋まで出てくる始末。「金の為なら何してもいいのか(-"-)」と、本当にモラルの欠如が悲しくなります。抱え込むのではなく、みんなにいきわたるようにするのが一番の感染拡大防止になるはずなのに。
一経営者として、お金をもらう対価としてはやはり幸せを提供したい! と、強く再確認した次第です。

安田さん農事録

 

雪のない冬。夏の水不足も心配の種です。

 

たまに冷えると

暖かいとは言っても-10℃近くになることは数回ありました。前日の夜に風が吹いて翌日冷え込む、という日がくると気を付けなければいけないのが、水路からの水漏れです。風で少しでもゴミが水路に引っかかった状態で強い冷え込みが来ると、ゴミが凍り流れを堰き止めます。
冬場は日常的に田んぼを見回ることが無いため、気付かずにいるとこの通り。

安田さん農事録

 

安田さん農事録

 

上のように何も植わっていなければ良いですが、下のように麦の圃場に水がついてしまうと湿害で収量を大幅に落としてしまいます。早急に排水を切って水を圃場の外に出さなければなりません。
理想は作業が無くても3日に一度は全ての圃場の様子を見て回るべきでしょうね。反省点です。

 

職場環境の改善

さて、冬場の時間の使い方としては「機械整備」「大豆の選粒」「確定申告」「経営勉強」といった感じなんですが、今年は決算も1月には問題なく終わり、機械整備も順調に処理出来ていたし、大豆の収量が少なく選粒も早く終わり、各種セミナーも軒並み中止ということで冬場にまとまった時間が取れました。そこで思い切って職場環境の大規模な改善作業をすることにしました。
私が就農した当初から整理整頓を少しずつ進めてはきていたのですが、規模拡大に伴い機械は増えるし資材も農薬も増え、色々と置場に困った状態が続いていました。
そこで「いつか使うかもしれない...」で捨てられないでいたものを全て捨てて、よく使うものは近くに、あまり使わないものは奥の方にと使用頻度に合わせて資材を再配置しました(現在進行中)。
「蚕室(さんしつ)」と呼ばれる、蚕(かいこ)を飼って糸を取っていた建物の一部が老朽化で腐ってきていたのでその部分を解体し、新しく車庫と倉庫にすることにしました。因みにこの蚕室は昔寺子屋として使われていたようで写真もまだ残っています。筆塚も現存するのでどうやら昔は学校みたいなこともしていたようですね。

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片付けていると出るわ出るわ。時代劇に出てくるような一人ずつのお膳セットや昔の農具、着物やキセル。はい、もう全部捨てました! 結構勇気がいりましたが勢いでガンガンとダンプの荷台へ投げ入れ処理業者へ。

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色々なものの節々に何やら大層な文章が。「久保田伊賀守」という人物は実在したようで。我が家の性は「安田」、そして住んでいるのは「久保田」という地籍。古文書から17代前までは遡ることが出来たようなのですが、こういう文章も紐解けば我が家のルーツが分かるのでしょうか。歴史って面白いですよね♪

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老朽化が進んで崩れそうだった廊下部分は解体し、単管で骨組みを作ります。
屋根は明かり取りも兼ねてポリカーボネート波板にしました。耐用年数10年ということですが、北側の日陰だしもう少しは持ってくれるでしょう。

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外壁はガルバリウム角波の落ち着いた色で違和感なく仕上げます。

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使わないであろう農薬の在庫は全て適正な処理業者で処分し、使う農薬は鍵のかかる保管庫へ収納しました。この物置は展示品処分で半額購入できたので凄くお得でした。
農薬保管庫の周辺にはそれに付随する道具を置くようにして作業の効率化を図ります。

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作業場の整理をし始めると止まらなくなるのですが、3月はいよいよ外仕事が本格化してくるので、どこかで区切りをつけて水路修理や畦の修理を始めていかなければなりません。この記事が掲載されている頃には麦の追肥もしているでしょう。
さぁて、今年も助走の時期だぞ!!

 

農事録番外編
長野県のおいしいおつまみ:3月

農作業の方は程々に、今回は我が家の絶対に外せない恒例の冬のおつまみ作りを紹介しようと思います。

今回はいぶし系!「燻製」でございます。

燻製という調理法は世界中で行われていて、地域や文化によってその特色は様々です。知れば知るほど奥が深~い神秘的な調理法なのです。

ここ信州でもイワナやヤマメといった川魚を始め、鹿やイノシシ等のジビエ肉も広く燻製にされて食されています。個人的には軽井沢、蓼科、安曇野等別荘地が多くある所にはソーセージやベーコンを扱う燻製店が多いように思います。中には燻製を手作りしたおつまみを出すワインバーもあったり、自家製燻製ピザを提供する店があったりと、燻製文化が身近に感じられる環境にあります。高原=燻製のイメージなんでしょうか。
信州に燻製の有名店は沢山ありますが、一般の人が燻製を行う風習も多くあるのも事実です。鳥獣害駆除のため、長野県には猟友会がまだ多く機能していることも理由の一つでしょう。
山間部の農家の中には農家兼猟師になる人が多くいます。そういう人たちと知り合うと、よく熊肉や鹿肉を貰うことがあります。中でも鹿を捕ったら燻製にする人が多く、私もレジ袋に入った鹿肉のジャーキーを何回か貰いました。
燻製の神髄は保存性にあります。貴重な食材をいかに長く保存するかという科学に裏付けられた生活の知恵。そして、いかに美味しい状態で長持ちさせられるかという数多の試行錯誤によって生み出された調理法。日々進化を続ける燻製文化ですが、野外で火を使いにくい都市部では気軽には出来ないでしょう。そんな意味でも田舎ならではの調理法なのかもしれません。

で、我が家は燻製で何を作るかというと

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「ビーフジャーキー」↑&

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「ベーコン」↑!

これが、自慢でしかないけど美味すぎるのです!!! というか、たぶん本来はこういうものなのでしょう。
低コスト大量生産の味に比べると、その味わいの深さと複雑さ、そして何といっても煙のワイルド感は一度食べたらやみつきになります。
私が小学生の頃からやっているので少なくとも20年以上の恒例行事です。

≪ビーフジャーキー≫

簡単に作り方を説明しましょう。ビーフジャーキーは牛モモブロックを5mm厚にスライスし(凍る寸前くらいが切りやすい)、

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赤ワインや玉ねぎの香辛料の付けダレに浸けて1日寝かせます。
そしてしっかり水分をふき取って1日風乾させた後、6時間程度燻煙します。

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燻製に使うのは200Lのドラム缶をDIYした燻製機。改良点は多々ありますが、その伸びしろも今後の楽しみの一つとして、今ある機械で最大限の能力を引き出します。
燻製成功の一番のポイントは温度を一定に保つこと。温度が高すぎると油が溶け出してカピカピに。逆に低すぎると生っぽい上に殺菌効果が不十分で食あたりの原因になります。
燻煙の日は仕事をしながら付きっきりで温度管理に当たります。
ビーフジャーキーは特に仕上がりの状態が難しい。切った時の厚さや燻煙の温度によって時間を調節しなければなりません。燻煙時間が長すぎてせんべいのようになった時の喪失感はヤバいです。
そんな中、今年の仕上がりは90点の及第点。1枚食べたらやめられない味!

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これは薪ストーブでジャーキーかじりながらウイスキーやるやつや!

 

≪ベーコン≫

ベーコンは豚バラブロックに串でまんべんなく穴を空けて、

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各種スパイスをたっぷりとまんべんなく揉み込み数日寝かせます。

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そして塩抜きをして1日風乾させたものを↓

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50~60℃で様子を見ながら8時間じっっくり燻煙すると↓

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ワイルドスパイシーベーコンの完成でございます!

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このベーコン。市販品に比べるとかなりスパイシーなので、細切れにしてチャーハンにいれるだけでしっかり味が付きます。油も出るのでサラダ油などひかなくても料理ができます。

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ベーコンポテトにすればベーコンの溶け出した旨味をポテトが吸って最強の味付けに。ホウレンソウとの相性も抜群です。赤ワインとビールに合わないわけがない!! 日々の暮らしがなんと贅沢になることでしょう。

そんなわけで今年の我が家の1年の保存食づくりも大成功の中無事終わりました。
最近は手軽に燻製を楽しめる機械も多くあるようです。自分なりの燻製おつまみを試行錯誤してみるのも楽しいと思います。卵とかチーズとか。

そして信州に来た際は、それぞれの個性と哲学が詰まった燻製料理に舌鼓をうちつつ、美酒に酔いしれるひと時を堪能してみてはいかがでしょうか。
新型コロナウィルスで外に出にくい状況ですが、これを機にじっくり何かを作ってみるのもいいかもしれません。早く事態が収束しますように。それではまた次回!

この記事を書いた人

安田大樹さん

北アルプスをのぞむ安曇野市は、1等米比率日本トップクラスの長野県を支える米どころ。25歳でお米農家を継いだ安田大樹さんは、おいしいお米を作り続けることが「ふるさと安曇野の景観を守り、地域を楽しくしていくことにつながる」と考えました。

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