今から５００年以上も昔の、戦国の武将である武田信玄の時代から、現在の長野県下伊那郡高森町の市田地域で栽培されていた渋柿の品種名を「市田柿」といいます。そしてその柿を干し柿にしたものだけが、生粋の「市田柿」となるのです。
きれいなオレンジ色のボディを、きめの細かい白い粉が覆っているシルエットには、見るものをうっとりさせる不思議な力があります。口に入れた瞬間、もっちりとした食感と上品な甘さが口いっぱいに広がり、その味を知ったものをたちまちトリコにしてしまいます。
自然なスイーツの女王であるこの市田柿は、まさに今この時に最盛期を迎え、今月いっぱい次々と各地へ運ばれていきます。あなたも目の端で特別扱いされて棚に飾られている市田柿の姿をきっとご覧になったことがあるでしょう。
正しい市田柿の柿の作られ方
「市田柿」は、古くから冬の保存食として用いられ、お正月の「歯固め」として食べられていました。栽培と加工技術は伝統的な手法にとどまることなく、近年では価値とブランドが認められて、より安全で品質の良い干し柿が消費者には求められるようになりました。
そのためには、加工技術はもちろん、原料となる柿も、当然良い柿であることが重要です。良い原料柿には、
（１）柿自体に糖度と大きさをつけるために、樹に応じた適切な施肥とせん定、摘果などの管理を行うこと
（２）病気や虫の発生で、葉が痛むと糖度があがらないので、果実を健やかに育てるための最低限度の、そして適量の薬剤防除
（３）渋味が残ったり品質低下につながるため、適熟収穫（しっかり熟すこと）を行うこと――
などが良い干し柿づくりの第一歩として求められます。
収獲にあたっては、全体が濃いオレンジ色になり、よく熟した柿だけが選ばれます。収獲した柿は皮むきをし、つぎにのれんを作ります。当然のれんごとに乾燥の仕上がり時期も違うため、ひとつひとつの柿のれんの重量を事前にチェックし「はざおろし」（のれんから柿をおろすこと）の目安とします。
全体が３５％程の重さまで乾燥させる
さらに、ハウスや家の２階などで、４週間程乾燥させます。乾燥期間中、湿気が多いとカビが発生しやすく、乾燥しすぎても渋味が抜けにくくなってしまうので、この期間は少しも気がぬけません。
農家は天気をうかがいながら窓を開閉したり、のれんの間隔を調節したりと、適切な温度と湿度を保つよう工夫します。
皮むきをした時から３５％程の重さになるまで乾燥してきたら、のれんから下ろして、今度は１個１個の乾燥程度を見ながら柿をもみます。３〜４回程、ていねいな柿もみと寝せ込みを繰り返すと、全体がブドウ糖（白い粉）に覆われた干し柿が出来上がります。かくして収穫から約１ヶ月、さまざまな手間を経て、市田柿は完成するのです。
今年の出荷は平年並み
出荷までたどり着いた「市田柿」は、基本的に出荷農家が荷造りを行ないます。今年ＪＡでは、８月に降霞害があったものの、豊作に恵まれ平年並みの１４００トン（出荷量）を見込んでいるそうです。
完全な衛生管理の選果作業
今回その市田柿のできを確認するために訪れたのが、ＪＡみなみ信州の干柿集出荷施設「柿の里」。全体出荷量の２０％ほどを、選果員のみなさんで出荷作業を行ないます。市田柿は、完全な衛生管理のもと、選果機にひとつひとつ乗せられて、等階級別に審査・選別されていきます。出荷先は主に、中京、東京、関西の市場やスーパーなどへ、贈り物用や家庭用として、個別包装のうえ運ばれて行くのです。
頭脳の栄養として理想的
先人たちの知恵が創りだした天然のスイーツ「市田柿」。古くから干し柿は砂糖の代用甘味料として煮物の甘味として利用されたり、最近では細く切ってサラダのトッピングにも重宝されています。脳の唯一の栄養源であるブドウ糖をそのまま摂取できる市田柿は、頭を使う受験勉強や現代人の仕事のお供に最適です。寒さが厳しくなる冬に、手のひらにのる幸せの甘みを、みなさんも味わってみてください。
信州の冬の贈り物・市田柿のご購入は：
市田柿についてしばしば質問されること
表面の白い粉はなんですか？
白い粉の正体は、ブドウ糖の結晶です。柿の皮をむいて、のれんで乾燥させた柿をよくもむと、中の水分が出てきます。水と一緒に、果実の中の糖分が外へにじみ出て結晶となるのです。「柿霜」といわれ均一に薄く粉に覆われた市田柿は極上とされます。安心して召しあがってください。
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