桃、梨、ぶどう、りんご…と、めぐってきた果物の季節もそろそろシーズンオフ。はあ…さみしいな…。
(ポテッ)「僕がいるよ」
ん?その声は…
ただの干し柿とは一線を画す、ぽってりフォルムともちもち食感、凝縮した自然の甘み。
そう、今年もやってきました!市田柿のシーズンが!
(ドンッ!)
長野県は干し柿の生産・出荷ともに全国第1位であり、そのほとんどを「市田柿」が占めます。市田柿は、現在の下伊那郡高森町の市田地域で栽培されていたことから名前がついた渋柿の品種名です。
干し柿は筆者の祖母も昔作っていましたが、黒くて固くてあんまりおいしかった記憶がなく…。しかし市田柿をひとたび口にすると、そんな干し柿のイメージがくつがえされます(おばあちゃんごめんなさい)。
このおいしさはどうやって作られるのか。今回は市田柿づくりの工程(収穫→皮むき→吊るし→硫黄燻蒸〈いおうくんじょう〉→乾燥→はざおろし→粉出し)の一部を取材しました!
一粒一粒、人の手で
訪れたのは長野県南部、下伊那郡下條村。のどかな道を走ると、オレンジ色の柿畑が目に入ります。
まるまるつやつやの柿の実。おいしそうだけど、渋柿です
この地で市田柿の収穫・加工を行う農家、田本寿夫(たもと・としお)さんの加工施設にお邪魔しました。到着して早速、専用の帽子・白衣・マスクを渡されて着替えます。取材といえども衛生管理はぬかりなく!(白衣を着せてもらってオラわくわくすっぞ!)
皮むき
さっそく見せていただいたのが、収穫した柿の皮むき。専用の皮むき機でむいていきます。
作業に集中する田本さん。テンポよく柿をセットしていきます
すごいスピードで皮がむけていきます!
こんなにうすーくむけています
吊るし
お次は皮をむいた柿を吊るしていく作業。こちらは田本さんの奥様・繁子(しげこ)さんが引継ぎます。
まるまるとした柿たちがかわいい!つい声に出して褒めてしまいます。
手元の写真一つずつフックにひっかけていきます
南信州の風物詩・柿のれん
吊るし終えた柿は、色上がりを向上させ、雑菌を防止するために行う硫黄燻蒸を経て、「干す」作業へ。見事な柿のれんにテンションが上がります。
軒先で干すイメージのある市田柿ですが、現在は品質及び衛生管理上、屋内で干します
生まれ変わったら柿になりたいと思わせる愛くるしいフォルム。「オラも仲間に入れてくれーーーッツ」と飛び込みたいのをこらえます。
「干す」といってもただ放置するのではありません。「温度・湿度管理が大変なんです」と田本さん。日中の室内の温度を15~20度、湿度を50~60パーセントに保つため、その日の天気を見ながら窓を開けて換気をしたり、窓を閉めて保温保湿を行いながら、約1か月間干します。
今さらながら筆者が「(おばあちゃんが作ってた)軒下に吊るした干し柿とはどう違うんですか?」と愚問をぶつけると、「単に手のかけ方が違うんだよ」と答えてくれました。ここまでご覧いただいたみなさまは、もちろんおわかりいただけたと思います。
家族みんなで市田柿づくり
田本さんは市田柿の農家になる前は農協の営農指導員をしていたそうです。農協退職後「(農家として)自分もやってみなければ」と始めました。
後継者不足が問題となるなか「やりたいと思ってもらえるよう自分が背中をみせなければ」
市田柿は栽培・収穫・加工・出荷の一連の作業を各農家が行うことが特徴。「今は孫たちも収穫の手伝いをしてくれるんです」と繁子さん。
田本さんの庭先に実る市田柿
「収穫が終わると、家族みんなで収穫祭をするんですよ、今年はお寿司がいいとか焼肉がいいとか言いながら(笑)。こうやって家族みんなで楽しく市田柿づくりができるのは尊いなと思います」
田本さんのお家では三男ご一家が後継者として共に市田柿づくりをしているそうです。
田本さんと奥様の繁子さん。ふたりのお人柄に筆者もすっかりファンになってしまいました
「農業が楽しくて、好きなんです」と田本さん。「その楽しさを自分自身の姿で伝えたいし、もちろん食べてもらう人には喜んでもらいたい」
農家さんの想いを込められて、今年も市田柿ができあがりました。
「楽しく」作られた市田柿は「おいしさ」も格別です。
この冬、みなさまの団らんのおともにいかがですか?