まだ11月なのにもう「お正月」の話なの? と思わず口にした方もいらっしゃるかと思いますが、そうなんです、すでにお正月の準備ははじまってるんですよ。長野県の最南端、飯田・下伊那地方では、10月の稲刈りが終わる頃になると、オレンジ色に色づいた柿が伊那谷をおおいます。市田柿の収穫のはじまりです。味の良い干し柿を作るための重要な条件がすべてそろっているこの地域。今回は信州銘品市田柿のアラカルトをご紹介します。
市田柿誕生までの長い歴史
市田柿は「山紫水明」の地、伊那郡市田村(現在の高森町)が誕生の地とされていて、天竜川のほとりで生産された良質な柿を原料として作られます。しかし、その発祥については諸説さまざまで、約600年前から伊那谷には多く在来の渋柿見られてそれが使われたとか、飯田城主が柿の木を植えることを勧めたとか、伊勢神社の焼き柿から広がったとか言われています。
いずれにしても、江戸時代のはじめにはすでに504本の木があったことが古文書に記されていて、当時から信州伊那谷では柿の生産がされていたようです。時代が変わって大正10年にそれまでの「焼き柿」を「市田柿」に改称し、栽培方法から加工方法について長年に渡って研究・改善が重ねられ、昭和20年代にようやく干柿として商品化されました。肉質が緻密で、実に気品のある干柿に仕上がるようになるまでには、長年の苦労があったのです。現在、この地区には江戸時代の10倍以上もの柿の木が植えられています。
とにかく手間をかける
良質の肉質と、気品すら感じさせる丁寧な仕上げ。長野県を代表する高級干柿「市田柿」は、生産者の手間と恵まれた自然環境の賜物と言えるかもしれません。10月、稲刈りが終わった飯田・下伊那地方では、抜けるような秋の青い空のもと、たくさんの柿が伊那谷をオレンジ色に染めています。そうなると、いよいよ市田柿の収穫のはじまりです。
しかし収穫してもすぐには皮をむくわけではなく、まずは3日〜5日追熟して熟度をそろえます。そして大・中・小に選別して、それから皮むきのはじまりです。むく皮の幅が狭いほど仕上がりがきれいな干柿になるので、とにもかくにも丁寧に丁寧にむくのがコツです。今では自動皮むき機を使う生産者も増えました。
皮むきが終わった無数の柿は、今度はお互いに触れ合わない間隔でつるし糸に掛けられてから硫黄燻蒸にかけられます。この燻蒸作業は、干している間にカビがつかないようにするために必要不可欠な作業です。
偉大な自然の御働き
無数の柿を干す作業は、かつてはどこの農家の軒先にも『柿すだれ』として皮むきされた市田柿が並んでいるのが、この土地の秋の名物として有名でした。しかし今では、食品衛生の観点から、室内やビニールハウス内で乾燥されています。
飯田・下伊那地方は、中央アルプスと南アルプスに挟まれていて、その間を天竜川が流れています。霜がおりる頃になると川面(かわも)から毎朝のように『朝霧』が発生します。この地区の冬はとかく乾燥しがちなのですが、この天竜川から湧きあがる霧が、市田柿を一気に乾かさないように調整する自然の『加湿器』となって、じっくりゆっくりと市田柿が干し上がっていくわけです。
この朝の霧がおいしい干し柿を作るための重要な条件のひとつになっていて、他の産地で同じようにして市田柿を作り上げようとしてもなかなかうまはいきません。正しいときに朝霧に包まれることがないかぎり、緻密でおいしいお菓子のような干し柿は生まれ得ないのです。
自然と人の共同作業が作る
皮むき後のおおむね35%の重量となったところで、柿たちは柿すだれから下ろされます。この段階ではまだ果実に水分を含んでいます。
今度は「柿もみ」の作業です。穴のいっぱい空いたドラム缶のような柿もみ機に入れた干柿を3分〜5分回し、果芯に残っている水分が表面に出てきたところで天日に干します。表面の水分が消えたら再び柿もみを行い、再度天日干しです。
この作業を2〜3回繰り返していくうちに干柿の表面に白い粉(果糖です。決してカビではありません)がじょじょについてきます。ひとつの市田柿が収穫されてから商品として市場などに出て行くまでの過程で、生産者がその柿に触れる機会は実に15回〜20回を数えます。それほどまでに生産者の愛情がこもった市田柿は、まさに『手間』の結晶と言えるでしょう。これがおいしくないはずがありません。
この地区のJAみなみ信州では平成15年より市田柿の集出荷貯蔵施設『柿の里』を稼動しました。そこでは、バラ詰めで集荷してきた市田柿を選別機で規格ごとに振り分け、スーパーの要望する容器に包装したり、ギフト向けの化粧箱に詰めたりする作業がおこなわれています。このように高齢化の進む産地実態も考慮した干柿を生産する施設は、全国でも初めてです。
市田柿の人気の秘密
天然乾燥により、美しいレンガ色に仕上がった極上の干柿「市田柿」。健康に意識が向きはじめた今、干柿は食物繊維が豊富な食品としても注目されています。干柿の表面に付いた果糖による白い粉は、主としてブドウ糖。また、干柿にはビタミンA、C、ミネラルが多く含まれ、甘さは砂糖の1.4倍でハチミツに似た成分からできていて、非常に栄養価の高い健康的な食べ物です。
一面白い果糖の粉におおわれ、果肉はきれいなアメ色で、食べた時の羊かんのような柔らかさと郷愁を誘う香りは、まさに干柿の王様といえるでしょう。これだけの手間がかかっているために、お値段は少し高めかもしれませんが、食べてみれば納得していただけることでしょう。リピーターの多さが品質を物語っていると言えます。下伊那の特産品「市田柿」づくり・出荷は、このようにして年の瀬まで続きますが、人気が高く、ほぼ年内で完売します。
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市田柿を確実に手に入れたいみなさんのために、市田柿の産地として知られるJAみなみ信州では、今年も「市田柿」販売をいたします。販売情報も含めた詳しいお問い合わせは、下記まで。
JAみなみ信州 農産物直売所 りんごの里
電話 0265-28-2770(代)
JAみなみ信州 「およりてふぁーむ」
電話 0265−56−2822
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