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千曲市・森周辺に広がっている麦畑 |
信州には、粉物(こなもの)に分類される伝統食があります。おやき、おしぼりうどん、すいとん、にらせんべいなどがその代表です。
粉物とは小麦粉を主に使用した食事のことですが、昔から農繁期には手間のかからない粉食が家庭の味として受け継がれ、それが信州の文化にもなっています。
長野県の粉物文化
総務省の家計調査(平成20年3月)によると、都道府県庁所在地別にみた小麦粉の一世帯あたり年間購入量は、全国平均の約2900グラムに対し、長野市では約5200グラムと群を抜いていて、全国1位です。信州には、そばだけでなく、小麦粉を使った粉食の伝統があるのです。
かつては水稲の裏作として栽培されていた小麦粉ですが、現在は水田の転作としての生産が主となっています。
長野県産の小麦粉の味を求めて、千曲市、JAちくま管内の女性起業グループが運営している「千曲うどん」製造販売の手作り工房「夢麺(ゆーめん)」を訪れました。
滑らかななかにも粘りとこし
千曲市は、善光寺平の南端に位置し、一目十万本のあんずの里、田毎の月(棚田に月が映る様子)の姨捨の棚田などの名称地として有名なところ。このあたりで栽培される「ユメセイキ」という小麦は、長野県農事試験場で育成された長野県生まれの品種で、100%長野県産です。県内の作付面積はおよそ320ha、ここ千曲市のほかに、長野、松本、上田、上伊那地区で栽培されています。
食用作物登録品種データベースの「ユメセイキ」のなかには「粉の明度はやや高、粉の赤色みは中、黄色みはやや低、吸水率はやや高、生地の力の程度は小、伸長抵抗は弱、伸長度はやや短、形状係数は小、最高粘度は大」などと記されています。
「ユメセイキ」は、前年10月に播種(種もみを土にまく)して、越冬をし、新緑の5月に出穂、そして6月には収穫を向かえます。
「夢麺(ゆーめん)」の「ユメセイキ」100%の石臼びき小麦を使った手打ちうどんは、小麦粉の澱粉中のアミロース含量が低く、うどんにするともちもちした弾力性やのど越しの滑らかさのなかにも粘りとこしがあり、そばの麺に近い色をしています。
おしぼりうどんください、釜揚げで!
釜揚げうどんの太麺、ざるうどんの細麺を使っておしぼりうどんを作っていただきました。おしぼりうどんは、江戸時代から受け継がれる伝統食のひとつといわれ、うどんのつけ汁としてこの地域で栽培される辛味大根を絞り、信州味噌を加えて、釜揚げうどんとしていただくのが定番。
辛味のある地大根は形状がしもぶくれで短く、ねずみのような尻尾がついていることから「ねずみ大根」といわれています。ねずみ大根の収穫時期は11月頃なので、土中を掘って「室(むろ)」と呼ばれるわらを敷いた中で春先まで保存できるそうです。
つけ合せは、地元のアスパラ、人参、たまねぎのかき揚げで、こちらもてんぷら粉にユメセイキを使用しているので、サクサクともちもちした食感が同時に味わえます。
にらせんべいは大人も子どもも大好き
にらせんべいは、小麦粉とにらを練ってフライパンで焼いたもの。和風ピザ、和風チジミ、信州風お好み焼きといったようなイメージです。「うすやき」ともいいます。これは砂糖醤油や味噌をつけて食べます。
にらには疲労回復などに効果のあるというビタミンB1が多く含まれていますし、そのビタミンB1を体内にとどめて効果を長続きさせる働きのある硫化アリンもたくさん含まれているので、体に元気が必要な時にはうってつけ。
いまでも子供のおやつや農作業の休憩(おこびれ)、食事代わりにこれを食します。にらは1年中ありますが、春のにらは格別に柔らかくておいしいので、にらせんべいはまさしく今が旬の食べ物です。
ユメセイキの粉を使用したにらせんべいの味は、もちもちした食感と信州みそとの相性が最高なのです。