野菜

諏訪湖姫という名の大根はなぜ愛されるのか

master_kasahara.jpg大根は大根でも「上野大根」、またの名を「諏訪湖姫」――それは、約50ほどもある信州伝統野菜の代表的なもののひとつです。今回は、信州の中腹部に位置する諏訪市豊田上野地区で栽培されるこの上野大根を、紹介させてください。

上野大根の特徴は、なんといってもその固さと独特の辛みにあります。シャキシャキとした歯ごたえと、生で食べると、そこらの大根との違いが一口でわかるほどの「自然の辛さ」。記者もついさきほど、蕎麦の薬味として頂いて、目に涙をためたほど。

この上野大根は、太陽光で干せば干すほど甘みが増し、漬け物に向いていて、古くから信州諏訪地域で愛されてきたもの。歴史を紐解くと、江戸は元禄時代までさかのぼり、今から300年程前より上野大根は特産品としてその名が知られてたといいます。

この諏訪地域一体をおさめていた高島藩主にも献上されたと言い伝えられていますし、また、昭和の初期には諏訪・岡谷の製糸工場にも多く出荷され、働く人々に親しまれてきました。

その上野大根が、今年も間もなく収穫を迎えようとしています。

上野大根に地域の夢を託す生産者、笠原芳晴さん(83)のダイコン畑が広がる、諏訪市の西、有賀峠の標高900メートルに位置する諏訪市豊田上野区を訪ねてみました。


daikon_field.jpg危機のときもあった
上野大根は、昭和初期から付加価値を高めて販売しようと、大根漬けとして加工販売も計画され、大根漬加工販売がはじまりました。しかし昭和30年頃になると、消費動向の変化、形のバラツキによる不ぞろいの大根、採種量の極端な減少や種子販売量の減少といった、それぞれの問題に直面することになります。

大根を栽培をする上野大根組合は、これらの課題に危機感を抱き、農業改良普及センター・諏訪市農林課・農協(現JA信州諏訪)等の協力連携のもと、採種体系の徹底的な検討が行われました。その後、信州大学農学部大井美知男教授のアドバイスにより「F1育成法」と呼ばれる育種に取り掛かることになります。

育種は、大根組合の役員が中心となり、大井教授指導のもと、地区内の畑で試行錯誤することおよそ7年間。根気良く続けられた結果、ようやく13年前の平成6年に「F1種子」という実用化できる大根に目処がつきました。

諏訪湖姫という名前で品種登録
現在では、種子から加工まで一貫した生産販売に取り組み、地区内に加工施設を建設して、漬け物のパック販売もはじまっています。さらにその後、地域活性化への夢を託された上野大根は、平成10年には「諏訪湖姫」として品種の登録がなされ、現在に至っています。

同地区は今年、これらの取り組みが非常に高く評価されて、長野県の信州伝統野菜認定委員会で「信州の伝統野菜」伝承地として認定を受けました。

daikon_harvest.jpg大根はこの土地の土を好む
「当時は必死だったよ」と上野大根組合に属する笠原さんは昔を振り返ります。

現在、この地区の生産者は笠原さんを含め19件で、昨年は、作付けを面積228.5アール。今年の生の上野大根の予定出荷数量は約7万本です。加工を行なう上野大根加工組合では、9件が一丸となって予定ケース1750ケース・約3万5000本を漬け込む予定となっています。

「上野大根も生き物だから、天候に大きく左右される」笠原さんは続けます。「今年の暑さ、特に雨が降らなかったたのが心配だね。でも先日雨も降ったし、ようやく寒くなってきたから、大根も大きくなるでしょう」とにっこり。

上野大根とこの土地の土との相性が抜群なのだと笠原さんは言います。「葉が大きいですね?」と感心して聞くと「実は、本当はこんなに大きくなっちゃダメなんだ。土が肥えてて窒素が多すぎるからだね。この栄養が大根にいかなくちゃね」と大根名人の笠原さんは応えました。

「よい上野大根は、土から5〜6センチ頭が出てくる。これを見逃して、大きくなりすぎると割れてしまうから注意が必要なんだ。今年は11月に入れば収穫できるかな」

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おいしいものは鹿も食べに来る
笠原さんの畑の周りには、ぐるりとネットが張り巡らされています。よく見るとそのほかの畑も、同じようにネットに囲まれています。

「ネットをしておかないと鹿が食べてしまうんだよ。山間の畑だからね。鹿は賢いから美味しいものを知っているんだな」と笠原さんは、幾分厳しい表情で山間地の実情を教えてくれました。

上野大根の今後について話をうかがうと笠原さんは、

「生産者としては、もっとたくさんの人に食べてもらって価格があがれば、そりゃうれしいよ。でも、出来れば消費者が喜ぶ上野大根『諏訪湖姫』をたくさんつくりたいね」

そして笠原さんは上野大根のいちばんの食べ方を、

「漬物にするとシャキシャキとした歯ごたえとその大根本来の甘さがたまらないよ。これが日本茶によくあうんだ」

と笑顔で教えてくれました。上野大根が地域になくてはならない存在なのだと言うことが痛いほどよくわかった瞬間でした。さらに、笠原さんのお宅では「たくあん漬け」の他にどのようにしてこの大根を食べますかとたずねると、「切り干し大根」という答が返ってきました。大根の性質上、煮物にも相性がよく、その味は調味料がよくしみて、大根本来の甘さがさらにひきたつのだそうです。

daikonsudare2006.jpgまもなく収穫の時期を迎えます
地域に愛される上野大根「諏訪湖姫」は、まもなく11月上旬から収穫が予定され、下旬には季節の風物詩である「大根すだれ」が同地区で見ることができるはずです。(右写真は昨年のもの)

乾燥した空気のなか秋の太陽をいっぱい浴びた大根は、漬け物となって来年の3月までじっくり漬け込まれることになります。地域全体で守られてきた信州の伝統の味を堪能できる贅沢な季節が、すぐそこまできています。


上野大根「諏訪湖姫」の予約販売等のお問い合わせは、信州諏訪農協文出広域営農センター電話0266‐57‐2218(土日曜日除く)、お申し込みはFax0266‐57‐2214まで、お気軽にどうぞ。

 

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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