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信州には地大根が数多くあるじゃないか

ねずみ大根.JPG「大根」と言われてほとんどの人が思い浮かべるのは、上の方が青く、均一の太さで伸びたスーパーなどで必ず見られる「あの大根」だと思いますが、あれは「青首大根」といって、数ある大根のなかの品種の1つにすぎません。しかし日本で生産されている大根の95%は、この青首大根だといわれています。でも、縄文時代以来もともと大根は一種類ではありません。大根ほど地域に応じて多様なものはなく、日本列島の各地で青首以外の地大根が、伝統的に生産され続け、わずかな量でも着実に時代を超えて受け継がれてきました。そして、県内各地に縄文時代の遺跡がたくさんあるように、長野県にはこの地大根の宝庫というほどさまざまな種類の大根があります。そこで、今月は信州の大地に深く根を生やした県内各地の地大根をご紹介します。

大根はアブラナ科の野菜で原産地は地中海沿岸の甘口大根といわれていますが、中国原産とする説もあります。福井功著『知っているようで知らない大根の話??そのル?ツ、栽培法、料理と漬けもの』(1984年 蕗出版刊)によると、古代エジプトではピラミッド建設をする労働者に大根を食料として支給したという記録もあるとか。また、日本列島には縄文時代にはすでに渡来していて、古くは日本書紀に大根を意味する記載もあるそうです。

そもそも、なぜ青首大根ばかりに?
大根という植物は栽培される土地の気候に適応性が強くて、作る場所・環境によって大きな違いが出てきます。日本列島でもさまざまな土地でさまざまな形や色の大根が長い栽培の歴史のなかで生まれ育まれてきました。では、なぜ現在のように市場で流通し、一般に見かけることのできる大根が青首大根ばかりとなってしまったのでしょうか? 青首大根とは愛知県が原産地の「宮重(みやしげ)大根」の改良品種で「耐病総太り」という種類です。その特徴としては、辛味が弱く調理したとき煮崩れしにくい、太さ・長さが均一なため収穫しやすく、流通時も扱いやすい、といった点があげられます。このため栽培農家、流通業者、消費者それぞれから好まれ、一気に市場は青首大根一辺倒に傾いていったのです。

たくさんある信州の地大根
にもかかわらず、列島各地で地域の伝統的な大根の栽培がしっかりと守られ、また、今では地域興しとして、伝統の大根の復活に力を入れているところも少なくありません。そのひとつが埴科郡坂城町のねずみ大根です。以下は埴科郡坂城町の「ねずみ大根推進協議会」の会長成沢明雄さんにうかがった話です。

ねずみ大根は坂城町のなかでも中之条・南条という地区が発祥の地といわれています。詳しい来歴は分かりませんが、地元の口伝えでは長崎県から来たのではないかといわれています。長い歴史の中で生産量は減少し、ごく一部の人による栽培となっていましたが、今から6年ほど前にねずみ大根推進協議会が設立。地元の伝統野菜をブランド化し、地域興しに役立てようという動きがはじまりました。
現在、町内20ヘクタールで20トンほどが栽培されています。うち地元の JAちくまを通じて10トン強が県内や関東地区に出荷されています。栽培の中心は在来種を品種改良して出来た「からねずみ」という品種です。

 

種まきは8月の頭から始まり、8月下旬〜9月頭がピークとなります。今年は少雨の影響で例年より少し生育が遅れているそうです。早くに蒔いたものは収穫がはじまっていますが、10月下旬〜11月頭が収穫のピークとなりそうですね。形がとても特徴的でお尻がふっくらと丸く、ねずみのような細長いしっぽが印象的です。味は辛味が非常に強く、口にすると鮮烈な辛味が鼻を抜けていきます。しかし、その辛味の奥に大根自体の旨みと甘さが隠れており、これを地元の人は「甘もっくら」と表現しています。

 

しぼって食べる「おしぼりうどん」
ねずみ大根は、その辛味を生かして、うどんのつけ汁として使われます。名物「おしぼりうどん」です。そのうどんが「おしぼり」と呼ばれるわけは、大根をすりおろし、布やガーゼで搾り、その搾り汁にうどんをつけて食べるから。これがまた、漬け物にも良くあい11月〜12月に漬け込んで、2〜3カ月もすると辛味がまろやかになり、旨みと甘さが増してきます。ここまで読まれた方は、きっとそのうどんをいちどは食べてみたいものだとお思いになったことでしょう。この「おしぼりうどん」は、坂城町のほか、隣の千曲市でも数店で食べることができますが、今回は坂城町の千曲川西岸のびんぐし山にあるびんぐし亭をご紹介します。

このお店は、同町の「びんぐし公園」内にあります。農家女性を中心とした女性たちが運営しています。「おしぼりうどん」は大根の絞り汁にうどんをつけて食べるものですが、強烈な辛味をやわらげるため、かならず味噌が用意されます。つけ汁にこの味噌を入れて、好みの辛さに調節してください。びんぐし亭では、地元の女性たちが豆から作った自家製の味噌を使っています。麺は手打ち、付けあわせの果物や漬け物もすべて自分たちの家で収穫したものを使っています。

お店の人の話によると、今の大根はまだ辛味が際立っているそうで、11月を過ぎて収穫されたものになると、大根の辛さに旨みと甘味が加わってくるのだとか。ちなみに写真の天ぷら付きは、今年からの新メニュー。もちろん天ぷらに使う野菜も自家製ですが、価格はまだ未定。おしぼりうどん(果物・漬け物付)は600円(税込)です。10月中は収穫量が少ないため、1日限定5食となっていますが、11月はじめからは一般販売となるそうなので、あなたもぜひ、「甘もっくら」という感覚を味わってみてください。

 びんぐし亭 長野県更級郡坂城町網掛3000びんぐし公園内
       電話:0268(82)0567

ねずみ大根の収穫体験に参加しませんか
現在、ねずみ大根推進協議会では誰もが参加できる収穫体験を企画しています。今年は11月12日に予定されており、収穫した大根を袋一杯(約5〜6キロ)まで持ち帰ることができるとか。定員は150〜200人程度で、参加費はまだ未定とのことです。興味のある方は坂城町役場農林課(電)0268(82)3111までお問い合わせを。

ねずみ大根だけではない地大根
ねずみ大根の他にも、信州にはまだまだ、数多くの地大根があります。いくつかご紹介しましょう。

  • 上野大根 9月のブログでもご紹介しました諏訪地区の上野大根。300年以上の歴史を持ち、元禄時代には地元の高島藩主に献上されたという大根です。詳しい歴史はJA信州諏訪のホームページで確認できます。
  • 山口大根 上田市の山口地区で作られている大根です。消えかけた伝統野菜になりつつあった山口大根をこのほど地域の農家らでつくる「山口大根の会」の皆さんが復活させようと努力しています。
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  • 親田辛味大根 長野県の南部、下條村で栽培されているのが親田辛味(おやだからみ)大根です。下條村のホームページによると、蕪のような扁平の球形で、肉質は緻密、水分が少なく貯蔵性に優れているのが特徴で、一般に大根と呼ばれる青首大根に比べ、辛味成分イソチオシアネートを4倍近く含んでいるとのこと。イソチオシアネートは殺菌・抗菌作用を持ったアブラナ科の植物に含まれる成分です。同村のホームページで注文も受けつけています。収穫のピークは11月に入ってからで、4月頃まで注文を受けつけるとのこと。

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農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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