「平和」「昭和」「信州大実」「信月」「信山丸」「ハーコット(カナダ出身)」「ゴールドコット(アメリカ出身)」という名前を聞いてピンと来る人は、おそらくあまりいないはずです。もしそれらの名前に聞き覚えがあるなら、それはきっとあなたが日ごろから自身の健康管理に気を配っておられるからかもしれませんね。それらの名前は、新入り力士の四股名でもなければ、プロレスラーのリングネームでもありません。そのひとつひとつが、初夏を彩る果実あんずの品種名なのです。
「あんずはこれまでも季節ごとに当ブログ+メールマガジンでも取りあげてきていますが、それでもまだ、おそらく本物のあんずが実っているところを手にとってご覧なった方は、非常に少ないかもしれません。
「なぜなら、それは、あんずの収穫適期が極めて短く、採るタイミングが到来したらなにをおいてもまずは収穫作業をしなければならないからです。あんずはそれくらいデリケートな果物。春先には花を十分楽しませてくれたあんずが、初夏の今、まさに出荷の時期を迎えています。
まもなく出荷されますよ
今年のあんずの生育ですが、開花は昨年より2週間ほど早かったものの、途中4〜5月にかけての低温傾向でスピードダウンして――品種により収穫時期は異なりますが――おおむね現在6月下旬からの出荷開始見込みです。最近の天候も安定しませんが、出荷直前のこの時期を向かえて、あんず農家は品質安定に全力で取り組んでいます。
あんずは昔から薬でした
あんずの原産地はネパールから中国にかけての北部山岳地帯。日本にもそうとう昔に渡ってきたらしく、万葉集にも「加良毛毛(カラモモ)」として登場します。酸味が強くて当時は生で食べることはなかったようです。日本列島に暮らす人たちはもともとはあんずの種の中身の「仁」を乾燥させて、もっぱら「薬用(咳止め、風邪薬)」として利用しており、今でも漢方薬に「杏仁(きょうにん)」があります。
カラモモを「あんず」というようになるのは江戸時代になってからのことで、生食用で食べられるようになるのは、甘味のある品種が登場する明治時代に入ってから、そして栽培が本格化するのは大正時代になってからのことです。
長野県とあんずの深い関係
長野県での主産地は千曲市の森・倉科地区、長野市松代町東条です。千曲市があんずの里になったのは、松代藩主真田幸道侯に伊予宇和島藩より豊姫がお輿入れされた際にあんずの種子(苗木二本との説も)をご持参されたことに由来するとされます。あんずが薬とされていたことから、おそらくは娘を思う親心だったかもしれません。平安時代の古文書にはすでに信濃の国で中国渡来の「唐桃(あんず)」が薬用として栽培されていたと記されているとか。
疲労回復と健康増進に
もともと「あんずの林」を「杏林(きょうりん)」と書き、これはそのまま「医者」を意味しました。あんずの効能は甘味はブドウ糖、果糖。酸味はリンゴ酸で胃液の分泌促進で、消化を助ける働きがあります。これからは野外での活動も盛んになる季節ですので、疲労回復にもあんずはお役にたちます。
免疫作用や抗酸化作用のあるカロティンなど体にいい成分がいろいろ含まれており、種子から採る杏仁は風邪薬の「麻黄湯(まおうとう)」などにも用いられます。中華料理ではコースの終わりに「杏仁湯(きょうにんとう)」と呼ばれる甘酸っぱい飲み物が出されます。子どもたちが好きな「杏仁豆腐(あんにんどうふ/「きょうにんとうふ」が本来の呼び名)」もありますね。
品種ごとに異なる特徴
また、日持ちは良くないので、干しあんず、缶詰などの加工品も携帯の際には便利です。あんずジャム、シロップ漬け、砂糖漬け、干しアンズ、ゼリーもちろん旬の時期にだけ楽しめる生食を今年もお楽しみください。最後に生食・加工用にわけて、JAちくまの「あんず」パンフレットから、品種別の特徴を記しますので、参考にしてください。
◎:最適 ○:適
品種名 |
収穫時期 |
ジャム |
シロップ漬け |
砂糖漬け |
生食 |
平和 |
6月下旬 |
◎ |
ー |
○ |
○ |
昭和 |
7月上旬 |
◎ |
◎ |
◎ |
○ |
信州大実 |
7月上中旬 |
◎ |
○ |
○ |
○ |
信月 |
7月中下旬 |
◎ |
ー |
○ |
◎ |
信山丸 |
7月上旬 |
◎ |
◎ |
◎ |
◎ |
ハーコット |
7月上中旬 |
ー |
ー |
ー |
◎ |
気象状況で収穫時期が異なる場合があります
日本一のあんずの里を抱えるJAちくまでは、今月の6月20日まで、同JAのウェブサイトで、あんずの予約販売を受け付けています。また同じJAちくまのあんずブログでは、出荷日決定のニュースなどあんずの最新情報も確認できます。あわせてぜひご利用ください。