長野県が特産のオレンジ色の果実が、まもなく旬を迎えようとしています。それは春、桜より少し早く開花して見る人の心を和ませたピンク色の花が、日毎にその実を膨らませてきたアンズの果実です。
長野県千曲市には"ひと目十万本"と称され、毎年4月にたくさんの花見客を引き寄せる「アンズの里」があり、7月になるとここはそのまま日本最大級のアンズの産地となるのです。
ところで、甘酸っぱいアンズのジャムは好きだけど、ジャム以外のアンズは食べたことがない、という方も多いのではないでしょうか。様々な種類のフルーツが並ぶスーパーでもあまりアンズを見かけません。なにせアンズの実は"足が早い"(=傷み易い)ものですから、店頭に登場しても、いっときだけというレアな果物なのです。
アンズをガブッ!と丸かじり
熟れるのが早く、一気に収穫される大量のアンズは、昔から、ジャムや干し杏などとして食べられることが多いものでした。もともとアンズが持っている酸味の強さが加工品に適していたという事情もあります。 でも今は、昔からある酸味の強いアンズ以外にも、生のままガブリッ!とかじるのが美味しい生食用アンズまで、様々な種類が作られていてます。お好みに合わせて初夏の信州の味覚を味わってみてください。信州ではこのアンズが、露地モノ果実で一番最初に店頭に並ぶものといわれているんです。
全国的にみるアンズの生産量は、年によって1位を青森県と競い合うという状況で、長野県内において圧倒的な産地は千曲市です。
「今年は遅霜もなく、また陽もあたって雨もほどほどにあるから、豊作が期待できそう」と頼もしい言葉が、JAちくま あんず部会の部会長を務める島田忠明さんから返ってきました。千曲市を包括するJAちくまでは、あんずの部会員306名が50ヘクタールもの畑でアンズを生産しています。
20もの品種があるアンズ、このうち千曲市で主に生産されている6種類のアンズを簡単にご紹介しましょう。
6月下旬、まず最初に登場するのが「平和」という品種で、これはジャムにするのが一番。続いて7月頭から出荷される「昭和」もシロップ漬けやジャムに適しています。「信山丸」や「信州大実」も7月上旬からで、信山丸は生で食べても、シロップ漬けにしても両方おいしい万能選手でファンも多いようです。続きまして生食専用の「ハーコット」が7月上旬〜中旬に登場します。ちなみにこのハーコットは「甘くて最高においしい」と島田さんも自慢する逸品。果肉が厚く香りもいいのが特徴ですが、裂果し易く栽培はとても難しいのだそうです。そして最後に「信月」が7月中旬頃から登場します。
これらのアンズが1ヶ月弱の間に次々と入れ替わっていくのです。なお収穫期はその年の天候などによって変わりますので、あくまでもご参考まで。
アンズの旬は2〜3日・・だから大変、だから待ち遠しい
このようにいろいろな品種があるアンズですが、その一つひとつの品種をとってみれば「本当の旬は2、3日なんです」と島田さんは言います。熟していないと収穫が行われないアンズ、けれど熟し始めるとその進行も早いものですから、「今だ!」となったら朝から晩まで、そして雨が降ろうが、休む間、寝る間を削っての収穫、そして出荷作業に"おおわらわ"となるのです。また地面に落ちたものは出荷できないため、それこそ忙しい中にも気を抜けないのがアンズの収穫です。大変なのは収穫ばかりでなく、花が咲く時期には蜂を放して授粉させ、また連休明けからの摘果では、ボロポロと自然落下することも多いことを考慮しながら、ひと粒ずつ実を手で間引いていくという地道な作業がすべての樹に対して行われ、それはおよそ一ヶ月間続きます。
時期ともなれば短期間に作業が集中して襲ってくるアンズ栽培、現在では高齢化や後継者不足も伴ってその栽培農家は減少傾向にあります。そんななか千曲市森地区では伝統のアンズを守ろうと、昨年からNPO法人「あんずの里振興会」を立ちあげて、人手の足りていないアンズ農家の手伝などを行っています。60〜70代を中心とした69名の登録会員がいて、今後の活動の期待が持たれるところです。
このアンズの里で生まれ育った人にとっては「生まれた時からもうどこの家にも在った」という慣れ親しんだアンズの樹。現在では栽培がし易いように短い丈に切られているものがほとんどですが、屋根より高く見上げるようにそびえる樹々もまだあります。そんな昔から在る在来種のアンズの樹を千曲市では後世に残す取り組みとして、「あんずの里景観指定木」として大切に保存活動も行われています。
今年のアンズのできはどんなでしょうか。収穫するまでの間人間の力ではどうすることもできない自然の影響など心配事はあるものの、それでも今年ならではの天候によって育まれ、また生産者の汗とミツバチの活躍によってもたらされた自然の恵みの美味しさを是非とも味わってください。今月1日からインターネットでのアンズの注文の受け付けも始まっていますので、ついつい買い忘れてしまいそうという方は予約をどうぞ。
千曲市では6月24日から7月15日頃まで、毎年恒例のアンズの収穫体験のほか、シロップ漬けやジャム作り体験など、フレッシュなアンズに親しみ、味わってもらうイベントも開催される予定です。詳しくは千曲市観光協会のホームページ をご覧ください。
またJAちくまでは、"ニコニコット"や"サニーコット "など、ハーコットに続く生食専用の新品種の試験栽培も現在行われているところですので、どうぞお楽しみに!!
【アンズに関するお問い合わせ・お申込み】
JAちくま 営農経済部
電話:026−261−0180
【参考】
アンズのレシピ