果物

あんずの季節はこれからのたった2週間ほど

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夏がすぐそこにいるのを感じるようになりました。先月300号を迎えた当ブログマガジンを長期間読んで頂いている方なら、例年6月末に必ず取りあげてきたあんずの特集が今年はまだないことにお気づきかもしれません。7月に入った今、ようやく今年も、短い短いあんずの季節の到来です!

あんずは手のかかる作物です。作柄が不安定で、収穫期もとても短いのです。今年の出来はどうなのでしょうか? 日本一のあんず産地とされる千曲市に、せかされるようにお邪魔しました。今回は、取材させていただいている「あんずの里」として有名な森地区ではなく、姨捨(おばすて)の棚田などで有名な更級(さらしな)地区にうかがいました。そこでは、更級地区ならではの話が聞けるかも知れません。

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傾斜地に広がるあんずの畑へ
更級地区は千曲市の西部に位置し、ここには名月の里として知られる姨捨があります。平安時代には紀貫之が「月影はあかず見るとも更科の山の麓になが居すな君」と謳い、江戸時代には俳聖の松尾芭蕉が「更科の里、姥捨山の月見んこと、しきりにすすむる秋風の心に吹きさわぎて・・・」と、『更科紀行』に残しています(「さらしな」の字が違いますが、地名としては「更級」となります)。見事な棚田が広がっていることからもわかるとおり、更級地区の辺りは、なだらかな傾斜地となっています。

今回はその傾斜地であんずを栽培する農家を訪ねました。出荷時期のお忙しい中取材に協力して頂いたのは、JAちくまであんず部会更級支部副支部長を務め、更級地区の傾斜地を利用して40年前からあんずを栽培している塚田勝寿(つかだかつひさ)さんです。

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今年は収穫量が多そう
JAちくまによれば、今年は気候の影響で春の時点で開花が10日ほど例年より遅れていましたが、出荷開始はほぼ例年通りとのこと。出荷のピークは少し遅れるようですが、昨年悩まされた霜害も少なく、収穫量は昨年比120%以上の出荷が見込めるとか。

取材にうかがったのは7月1日。週のはじめから、早生種である「昭和」「平和」といったあんずの出荷がはじまっており、生食用あんずのハーコットも、まもなくの出荷を今か今かと待っている時でした。とても忙しい季節ですが、この日はちょうど作業が少なく、快く取材を引き受けてくださいました。

ここであんずを育てるメリットは
塚田さんのあんず畑で、まずおどろかされるのがその場所です。細く曲がりくねった登り坂を慣れたハンドルさばきでどんどん進んでいく塚田さん。自分が運転してきたら恐ろしいことになっていただろうなあ・・・などと思っていると、いつの間にか車はあんずの木に囲まれていました。およそサッカーグラウンド半分ほどの大きさの畑であんずを栽培し、忙しい収穫期には家族総動員で収穫するといいます。平らな土地と比べて傾斜地での農作業はやはり大変ですが、傾斜地ならではのメリットもあるようです。

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そもそも傾斜地に農地を持ったのは、塚田さんのご先祖が養蚕をはじめる際にエサとなる桑畑を作るためでした。もともと平地にあった自分の土地を、今の傾斜地にある土地とわざわざ交換したのです。それは農作物栽培にとって難題だったある問題に対抗するための知恵でした。それは、霜害です。

霜害とは、主に天気の良い春の夜から早朝にかけて、放射冷却により気温が急激に下がることで霜が降りてしまって生じる被害です。特に晩霜(春から初夏にかけての霜)の被害は、年によっては台風などの激しい自然災害よりも多くの被害をもたらします。それは農家にとってはとても気がかりな問題なのです。

これまで一度も霜害の被害はない
では傾斜地に畑を作ることで、どうして霜害に対抗できるのか。霜は、簡単に言ってしまえば地表に冷気が滞留することで発生します。そのため、空気の流れを作るために、霜対策として送風機を回す場合もあります。傾斜地では、斜面に沿って夜は山風(山から降りてくる冷たい風)が、昼には谷風(山を登ってくる暖かい風)が吹くので、冷気が滞留しにくく霜害に強いのです。塚田さんも、傾斜地での作業は大変なこともあるけれども、今まで一度も霜害の被害に遭ったことは無いと、ご先祖に感謝されるように話してくださいました。

農家が闘う相手はもちろん霜害だけではありません。いきなり木が枯れてしまう病気や、細菌性の障害には、塚田さんも注意して対策をとってきました。とりわけあんずにとって最大の問題は、雨で実が割れてしまうことでした。サクランボなどでもそうですが、特に柔らかい生食用あんずのハーコットなどは、しばらく雨が降らず乾いていたところに突然雨が降ったりすると、実が割れて出荷できなくなってしまうのです。収穫の時期が、折あしく梅雨の季節と重なるので、毎年あんず農家は空をにらみつつ収穫のタイミングを計るのです。

今は寝る間もないぐらい忙しい
あんずは収穫期の短い作物。何種類か品種があるのですが、一品種の出荷のピークは1週間もありません。そして早い品種のピークから一番遅い品種のピークまでが3週間もないのです。いやはや、品種をまたいで3週間、ずーっと寝る間も惜しんで収穫・出荷作業を続けなければなりません。あんずは日持ちしないため、旬のあんずを全国のあんずファンに届けるには、とにもかくにも大急ぎで作業をする必要があります。

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このおいしさをどう伝えればいいだろう?
当然ですがあんずでやはり一番気になるのはその味です。さっそく収穫間近の生食用あんず、ハーコットテイスティングをさせて頂きました。味見ですね。ざっくりとふたつに割って・・・(まだ完熟じゃないですけどね)・・・かぶりつくんです。うーん、うーん、うなり声が出ます。やっぱり美味しいですね。出荷されてあんずファンの手元に着く頃にはちょうど熟していて、もっと美味しいんだろうと思うと、楽しみがふくらみます。ハーコット種を初めて生で食べる人は、
「ええ、これは桃? ビワだっけ? なに? あんず?! 生で?!」

といった反応を示す方が多いのもわかります。小生も初めてハーコットを食べたときは、まさにそうでした。ドライアプリコットやあんずジャムとはまた違ったおいしさ。いまだ体験したことがないあなたにも、是非味わって頂きたい!!

あんずのシロップ漬けという誘惑
現在は、手軽に食べられるということで、生食用のハーコットが人気。ですが、塚田さんの一番好きなあんずは信山丸(しんざんまる)だそうです。この名前も覚えておきましょう。プロが好きなものはほんとうにおいしいのですから。信山丸というあんずは、生でも食べられますが、とにかくお勧めはシロップ漬けとのことでした。

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それぞれの家庭ごとにシロップ漬けのレシピがあるほど、地元では人気の食べ方(食後のデザートとして最適)なのですが、数あるあんず種類の中でも信山丸のシロップ漬けが、とりわけ人気だといいます。外部からのあんずファンで、信山丸を購入していく人は地元の人から「おいしいあんずのことを知る人間」と一目置かれる存在だとか。

一番おいしいあんずを食べれるか
今回の取材で、生産者だから知るとても耳寄りな情報を教えて頂きました。それは「出荷はじめのあんずが一番おいしい」ということです。なぜかというと、一番はじめに収穫出来るくらいまで熟したあんずは、畑のなかでも一番良い場所で太陽の光を思う存分浴びて育ったあんずだからです。同じくらいまで熟したあんずでも、熟すのが遅かったものとはひと味違うそうです。とにかく一番美味しいあんずを手に入れるには、短い旬の中でも本当に限られた一瞬を狙うしかないのです。

塚田さんは言います。「都会の人は、本当に美味しいあんずをあまり食べたこと無いんじゃないかと思う。特に生ではね。でも今はインターネットで注文を受けて、出荷後すぐに配達できるでしょ。だから都会の人にも是非おいしいあんずを食べて欲しい」

しかし同時に、あんずは収穫直前でも雨でだめになる可能性もあり、あまり注文を受けすぎるのも心配なのだそうです。ですが、あんずのおいしさを知ってもらうために、可能なかぎり対策を立て天気に気をつけて頑張ると話していただきました。

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これからの2週間があんずの季節
JAちくまのあんずは、 JAタウンの全農長野「僕らはおいしい応援団」で購入できます。塚田さんたちの想いがこもったあんずは、まさにこの2週間が旬。是非ご賞味下さい。

今週末7月9日の土曜日には、JAちくまは全農長野と共催で、毎年恒例の『ハーコット試食即売会』を、軽井沢プリンスショッピングプラザで開催します。遠方からのリピーターもいるというこの試食即売会。産地以外でハーコットの試食が出来る数少ない機会です!! 生食用あんずの味を確かめたい方は、初夏の軽井沢に足を運んでみてください。


参考サイト:

 ・ショッピングモール JAタウン 全農長野「僕らはおいしい応援団」あんず販売予約サイト (ハーコットの発送日は7月6日から4日間)

 ・軽井沢プリンスショッピングプラザ

 ・JAちくま

こちらは の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

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