われらが長野県は、静岡県に次ぐワサビの産地。安曇野市や信州新町などで栽培が盛んで、安曇野市は水の中で育てる水ワサビ、信州新町は畑で育てる陸(おか)ワサビ(または畑ワサビ)で、知られています。
日本の食卓に欠かすことができないそのワサビ、4月中旬の今ごろになると、毎年白く可憐な花を咲かせてくれます。同じ頃地元ではワサビの花芽がスーパーに並ぶようになり、家庭ではおひたしにしていただくこともあります。また、根や茎を刻み、酒粕と和えたワサビ漬けは、思い出深い信州の味覚として土産品にもなっています。ときどき無性に食べたくなりませんか。
おろし金と共に全国に普及
フランス制作のアクション映画のタイトルになったとき「WASABI」は「ワザビ」と発音されていましたけれど、もともとワサビは日本原産で、学名を「ワサビアジャポニカ( Wasabia Japonica )」といいます。アブラナ科ワサビ属の常緑多年生植物で、独特の強い刺激性のある香味があります。
室町時代の中頃から刺身のツマとして用いられ、おろし金が普及してそばや鮨を食べるようになった江戸時代初期には、ワサビは盛んに食べられるようになっていました。辛味成分であるアリルイソチオシアネートは殺菌力が強く、腸内有害菌の繁殖を押さえる働きがあります。(写真はワサビの根)
信州安曇野の水ワサビ
安曇野市穂高でワサビの栽培が盛んになったのは、大正12年の関東大震災がきっかけでした。産地の静岡が被害を受けたため、穂高での栽培が拡大したのです。
水ワサビの栽培は、渓流を利用する場合が多いのですが、穂高は複合扇状地という特別な地勢から北アルプスの湧水を利用した平地式という栽培方法。ワサビは一定の水温できれいな水を好むため、穂高は栽培の適地となりました。15ヘクタールにも及ぶ大王わさび農場は、安曇野の観光スポットとしても有名ですし、黒澤明監督の映画『夢』のロケ地にもなりました。
信濃善光寺平の陸ワサビ
JAながのさいがわ営農センターでは、4月24日現在、陸ワサビの花芽が出荷盛期を迎えています。今年は暖冬から露地物は例年より10日ほど早く、4月初めから出荷。出荷はゴールデンウィークまで続く見込みです。JAわさび部会は会員数現在112人。陸ワサビは冷涼な気候と北向きで日陰、傾斜地が適地とされ、信州新町を中心に小川村、中条村などで栽培されています。
信州新町山穂刈の竹村彰弘さん、久子さん夫妻(写真下)は1966年、信州新町わさび部会発足当時から栽培し、40年以上になるベテラン。以前は養蚕業でしたが、輸入に押されて養蚕が衰退するのと平行して、陸ワサビの栽培をはじめました。
81年には最盛期を迎え、同町で300tの収量を挙げたものの、しかし、農業者の高齢化から生産高は年々減少。「自分の家でもピーク時には4tを出したこともあったが、今は現状維持で30aを耕作したい」と竹村さん夫妻。
花芽の出荷が終わった後は、茎の出荷が始まります。JA上条加工所で一次加工した後、業者へ持ち込み、地元土産加工品のワサビ漬けやもろみ漬けなどに使われます。ワサビの生根の出荷は6月初旬から7月中旬ごろまで行なわれます。
自家製ワサビ漬けの簡単な作り方
- 根ワサビは千切り、茎は5ミリぐらいの小口切りにする。
- 切ったワサビと茎は別々に塩をふり軽くもむ。
- すりこぎなどで軽くたたく。こうすることで辛さが引き出される。
- 根わさびと茎の余分な水分をクッキングペーパーなどでとる。
- 根わさび、茎、酒粕をボールに入れ、ツヤが出るまでよく練り込む。
- 空気を抜きながらラップに入れ、冷蔵庫でねかせる。