竹村ちと志さん(85歳)は、長野市信州新町の山穂刈(やまほかり)地区で陸ワサビ(おかわさび)を栽培して約30年。急峻な山間地で、毎日元気に畑仕事をしています。しかも陸ワサビの畑は、見るからに歩きにくそうな斜面にあるんです!w(*゚o゚*)w
花から茎、芋(根茎)とすべて食べられる陸ワサビの、花の出荷が終わってもうすぐ茎と芋の収穫が始まろうという6月初め。雨の中の取材となってしまいましたが、竹村さんは電動スクーターに乗って畑まで案内してくれました。
こちらが陸ワサビの畑。山間の斜面に作られています。「こっちのワサビは、もうすぐ収穫するんだよ」と言って、竹村さんは一面に生い茂るワサビの葉っぱをかき分け畑の中へ。足場の悪い斜面で農作業をする元気にはびっくりです。健康の秘訣をたずねると、「いいワサビを作りたくて、毎日世話しに畑に出てるからね。急な斜面だから足腰も鍛えられるし」とのこと。やっぱり目標を持って毎日身体を使う農業は、健康維持に最適! なんですね。
陸ワサビは沢ワサビと同じ種類です。
そもそも「陸ワサビ(畑ワサビ)」とは何でしょう? 「ワサビ」と呼ばれるものには大きく分けて3種類あります。まずは最もイメージされるであろう「沢ワサビ(水ワサビ)」。信州では安曇野穂高のものが有名で、澄んだ水が常に流れている場所で育ちます。主には芋(根茎=地下に潜った茎の部分)をすりおろして蕎麦や刺身の薬味に利用します。
「陸ワサビ」は「沢ワサビ」ともともと同じ種類で、畑で育ちます。生育環境の違いにより、芋が大きく育ちません。そのため、茎や芋が加工用に利用されます。陸ワサビも沢ワサビも、花、茎、芋と無駄なく食べられ、すべての部位でワサビ特有の風味を味わえるのが特徴です。
収穫直前の陸ワサビ
もうひとつが「西洋ワサビ(ワサビ大根、ホースラディッシュ)」。こちらは全く別の野菜で、根茎は無く、白い根っこを食用とします。すりおろすとワサビに似た辛味成分が出るため、ワサビの代用として緑色に着色され、チューブワサビの原料となります。
チューブワサビでも陸ワサビや沢ワサビを使ったものの多くには、西洋わさびと区別するために「本わさび入り」等の標記がありますので、チェックしてみてください!
畑のいたるところにある
不思議な形の木は?
話を竹村さんの畑に戻しましょう。ワサビの葉っぱに囲まれて作業する姿はどこか幻想的です。そういえば、畑の中に木が何本か立っていて、これが「森の中」のような印象を創り出している気がします。
畑にあって邪魔そうだなあ......、なんて思うことなかれ。この木、実は桑の木。信州では昭和30年代まで養蚕業が盛んで、信州新町も例外ではありませんでした。その後、輸入品に押されて養蚕業が衰退すると、信州新町の生産者は、冷涼で水はけの良い環境を利用して陸ワサビ栽培に転換しました。その時、桑の木をすべて伐採してしまうのではなく、日陰を好む陸ワサビのために何本か残して、わざと日陰を作ったのです。現在、長野市の信州新町や信更町、中条村、小川村など「西山地区」では80人ほどの生産者さんが陸ワサビを生産しています。
種から大切に育てているから
丈夫で元気な、いい苗です。
苗から育てる生産者さんが多い中、竹村さんは種から自分で育てています。「10月頃に種をまくと、3月の雪解けと一緒に芽が出るんだよ。土の中で冬を越えさせるといい苗ができるんだ」と竹村さん。長い間芽を出さないんですね! しかも、苗用の畑も結構広いので大変そうです。しかし自分で種から苗をつくることで、病気にかかりにくい苗を計画的に作ることができるのだとか。
陸ワサビの種
育てた苗は秋頃に本畑に植え替え、4月に花を、6月に茎と芋を収穫します。花はおひたしなどにして食べられます。地元の直売所に出したり、料亭などで出すために出荷したり。茎と芋は近くの加工場で裁断・冷凍して加工業者に販売します。
陸ワサビの苗
みんなでわいわい収穫します。
「6月半ばから茎と芋を収穫するんだけど、そのときは親戚とかがたくさん来てねぇ。みんな手伝ってくれるんだよ。わいわい仕事してお茶を飲むのが楽しくて」と竹村さんは笑顔で話します。農業をやっていると一人の作業も多いですが、ここぞという時にみんなで集まって協力しあえるのも魅力。そんな楽しみも、竹村さんが元気に陸ワサビづくりを続ける理由の一つなんですね。
竹村さん直伝
花(茎)ワサビのおひたしの作り方
1.食べやすい長さに切って、水で洗う
2.塩と"たくさんの"砂糖で強く揉む
3.ボウルなど(耐熱タッパーが便利)に入れてお湯を回しかける
4.ひたひたになるくらいで一度お湯を捨て、もう一度お湯を回しかける
5.お湯に浸した状態で空気を抜いて密閉し、冷めるまで置くと出来上がり
6.鰹節やしょうゆなどをかけていただく
※塩と砂糖で揉んでから、2回お湯をかけるのが竹村さん流。こうすることで辛味が増しておいしいのだとか!(´∀`)