今月は桜、ワサビ、アンズと信州の花を巡ってきました。4月最終週となる今回は、「いろいろな花が見たい!」と、長野県果樹試験場を訪ねました。
県北部の須坂市にある長野県果樹試験場では、栽培方法の研究や新しい品種の開発などが行われています。広い畑には、区画ごとにリンゴ、ブドウ、モモ、ナシなどのいろいろな果樹が整然と植えられていました。
品目ごと生育段階には差があるため、花は満開のものもあれば、まだ1つ2つしか咲いていないものもありました。花を求めて歩いていると、授粉作業や交配作業をしている方にもお会いできました。それでは、 長野県果樹試験場の花ツアーへ出発〜♪
フルーツハリウッド・須坂へ
長野県果樹試験場のある須坂市は、平均気温11.8℃と比較的冷涼で、年間降水量は約970ミリと少なめ、果樹の生育には恵まれた環境です。なお、平成24年度の東京の平均気温は、16.3℃、年間降水量は約1570ミリです(参考:東京都統計年鑑)。
リンゴ「ナガサキズミ」
試験場に入ってまず出会った花は、「ナガサキズミ」という野生のリンゴの仲間の花で、他の品種より少し早く咲きます。つぼみの濃いピンク色が印象的で、花びらとの濃淡のコントラストが素敵です。
スモモ「ハリウッド」
続いて、スモモです。ハリウッド、太陽、貴陽、大石早生がありました。ピンクや白など品種によって花の色は違うものもあります。花の形はよく似ていて、見分けることはなかなか難しいです。
スモモ「太陽」
スモモ「貴陽」
スモモ「大石早生」
南水と二十世紀のナシの花が咲いていました。ミツバチたちがせっせと花の蜜を集めていました。
ナシ「南水」
ナシ「二十世紀」
蜜を集めるミツバチ
続いて、モモの花をいっぱい集めてみました。
お好みの品種のモモは、どの花か分かりますか? 色の濃淡や形に、若干の違いがあるようですが、どれもよく似ています。
モモ「あかつき」
モモ「あぶくま」
モモ「なつき」
モモ「なつっこ」
モモ「伊達白桃」
モモ「川中島白桃」
モモ「白鳳」
これは!? 桃畑の不思議な光景
モモの樹が、一方向に向かって傾いています!? これは、幹の日焼けを防ぎ、葉や果実には良く日が当たるように、太陽(南)に向かって樹を傾けているんだとか。なんと、モモ農家の中では、常識なんだそうです。植物は、太陽の日差しが良くあたった方がいいように思ってしまいますが、幹は日焼けし過ぎると表面が荒れてしまうそうです。日焼けは肌荒れに良くないとよく言いますが、モモの樹も人と同じなんですね。
果樹の花は、形だけではなく花の着生位置が樹種ごとに特徴的です。
リンゴやナシなどの仁果類は、枝の先端に花が咲きます。これを、「頂生花芽(ちょうせいかが)」といいます。
モモやスモモなどの核果類は、枝の先端ではなく枝の側面に花が咲きます。これを、「側生花芽」といいます。
両者の違いがわかりますでしょうか? これから、みなさんの花を見る目が変わるかも!?
子孫を残すため精一杯の養分を使って咲かせた花が、太陽に向かって伸びた幹に沿い、どれもキレイでした。
花をめぐりながら出会ったものたち
受粉用の毛バタキが掛けられていました。このような道具を使って受粉することによって実がつきます。毛バタキに棒をくくりつけて長くして作業をしていました。
ナシの区画には、マメコバチの巣箱がありました。巣箱の横には、ハチが巣を作りやすいように、掘って湿った土が用意されています。ハチたちの花粉集めによって、受粉を手伝ってもらいます。マメコバチは、ミツバチと違って、花粉のみを集めて、筒状の巣の中に産んだ卵と一緒に入れ、土で仕切りを作ってフタをします。そして、翌年の春に卵が孵ると、再び飛び回って花粉を集めます。
プルーンの区画では、品種育成試験のための交配作業が行われていました。プルーンなどは自家和合性といって、同一品種の花粉で受精する性質があります。開花前のめしべにも受精能があるので、自家受粉する前におしべを取り除いて、一つひとつ手作業で交配させたい品種の花粉をつけます。交配後は、他の花粉がつかないようにネットで覆います。新しい品種を育成するには、気が遠くなるような、丁寧な作業が必要なんですね。
他の花粉との受粉を避けるため、ネットを被せる(プルーン)
害虫対策として、フェロモンを利用した交信かく乱剤が木にかけてありました。これは、昨年使用したものだそうですが、シンクイガ類など害虫のメスのフェロモンを浸み込ませたトラップを仕掛けることで、オスがメスを見つけにくいようにして、交尾行動を阻害し、卵を産みつけられないようにしています。