果物

これを食べなくては信州のりんごは語れない

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ひときわ鮮やかに目に飛び込む収穫間近なりんごたち

ごらんください。たわわに実ったりんごの樹です。まさしく実りの秋ではありませんか。これらのりんごたちは「秋映(あきばえ)」という種類です。ひとつひとつがどっしりしています。じつはこの「秋映」を食べなくては、信州のりんごを知ったといえないといわれています。その理由を探るべく、秋映の産みの親である、中野市一本木地域の小田切知江(おたぎり・ともえ)さんのりんご園を訪ねました。

akibae.jpgりんごの色は寒さが決める
秋映は「千秋」と「つがる」の交配品種で、現在りんごシーズン真ん中の中生種を代表する品種。その味は、糖度14〜15%、酸度0.4〜0.5%程度で、甘味が強く、酸味は中ぐらいで、果汁がきわめて多いとされます。一度がぶりとかじっていただければよくわかります。さらに、完熟させると果色が暗紅色(ドス黒く)になるのが特徴でしょうか。

現在、秋映はいろいろな県で作られています。暖かい地域では、寒い地域に比べて着色が劣りますから、秋映のように着色に優れた品種の栽培が奨励されているのです。同じ熟度で秋映を収穫すると、暖かい地域のものは着色が悪く、普通のりんごのような赤い色に近くなるからです。

しかし北信の中野市のような寒い地域や標高の高い土地で収穫された秋映は、十分な冷気が表面にあたるために、完熟したときには黒っぽい色になります。

tomoesan.jpg100粒の種から歴史がはじまった
秋映の産みの親である、中野市一本木の小田切知江(おたぎり・ともえ)さんのお宅では現在、秋映・ふじ合わせ40aを息子さんとふたりで栽培しています。

小田切さんの家は昔からの農家で、きのこや蚕など信州中野の農業を担ってきました。施設の老朽化が激しいことや、冬に収入が減ることなどを考慮し、あるとき、きのこからりんご栽培へ乗り出しました。

「当時、まったく作ったことのないりんごへ品目を変えるのは一大決心だったんですよ」と知江さんは振り返ります。

その決心が、秋映誕生の第一歩となりました。じつは秋映を作ったのは、知江さんの旦那さんで3年前亡くなられた健男(たけお)さんです。人一倍努力家だった健男さんは昭和56年に「千秋」と「つがる」を始めて交配し、翌年には100粒の種をやっとの思いで完成させました。

育成を進めたものの、気を抜けない日々が何年も続きました。病気には強いものの、霜に弱く、まったく実がならない年もあったそうです。それから、さらに研究を重ねて約10年の歳月を経て、ようやく平成5年に種苗登録3411号として登録につなげたのです。

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秋に映(は)えるりんごたち
「秋映は色がつくのが多品種より早いのが特徴で、はじめは色がつくとすぐに収穫していました。しかし、木でもう20日ほど完熟させると色が一層見栄え良く、味も一段とおいしくなることがわかりました」。知江さんは当時を振り返り、その時のことを強く覚えていると言います。

「秋に映えるりんご」であることから秋映と名づけたのも健男さんでした。

「はじめは高社山(こうしゃさん)のふもとので誕生したので「高秋(こうしゅう)」と申請しましたが、ほかの商品で登録されていたためできなかったんですよ」と知江さん。

りんご3兄弟への道
市場に初出荷したのは平成6年で、当時人気の高かった千秋などのりんごに比べると色が黒かったため、東京では相手にされなかったそうです。しかし、九州の市場へ運ぶと、これがなんと、とても好評でした。全国的には九州地方から秋映の名が知られていったのです。その間も関東各地で健男さんは試食会を行い続けて、着々と秋映の輪を広げていきました。

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秋映は生まれながらに表面にサビが多い品種で、そのことで健男さんは非常に悩んだそうです。しかし春の花摘みの段階で早めに中心花だけにしてしまうことで予防するなど、技術の向上と観察を日ごろから怠りませんでした。

こうした努力と秋映の味が各地で認められ、現在では長野県では「りんご3兄弟(シナノゴールド・シナノスィート・秋映)」の愛称で産地化に取り組むまでに至ったのです。

「自慢のりんごたちをよろしく」と
健男さんが亡くなって3年。収穫量は減っているものの、現在もなお知江さんが中心になって息子さんと秋映を栽培しています。

知江さんは「この収穫期の直前の時期に一番気をつかいます。平成16年には台風で大きな被害に遭いました。今年は台風が来なければよいけど...」と話します。

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「でも、この収穫期に秋映をみるとうれしくなるんです。お父さんが残してくれた自慢のりんごを作り続けたいんです」と明るい笑顔で話してくれました。

そして「全国の若い人にりんごを食べてもらいたいです。秋映は酸味がほどよく、信州の若い人にも人気の品種です。おすすめの食べ方はアップルパイ! とってもおいしいですよ」と、秋映を知り尽くした人ならではの食べ方を教えてくれました。

今週から、いよいよりんごの中生種の出荷がはじまります。りんご好きにはたまらないこの季節。信州中野生まれの秋映を食べなくては、信州のりんごを知ることができませんよ。

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