リンゴとひとことで言っても、信州にはさまざまな種類のリンゴがあります。とりわけ今の時期は「秋映(あきばえ)」「陽光(ようこう)」「シナノゴールド」「ジョナゴールド」「紅玉(こうぎょく)」「早生ふじ」、そして忘れてはいけないのが最も人気の高い「シナノスイート」という名前のリンゴです。
長野県北部にある高山村の高山共選所は、リンゴ大好き人間ならいちどは訪れなくてはならない場所。ここでは各種とりそろえられたリンゴが試食出来るのですが、なかでも食べた人の多くが「美味しい!」と声に出して叫び、一人、また一人とお買い上げのご指名の多い種類が、このシナノスイートなのです。
シナノスイート、その名前でおわかりのように、長野県のオリジナル品種のりんごです。
それは幸せを感じる味
人気の理由は、かじった時にほのかに幸せを感じる甘味と、果汁が多いジューシー感。糖度は他のリンゴと同じくらいなのですが、このシナノスイートは酸味が他のリンゴより少ないために、甘味を多く感じるのです。
ただしこのリンゴが出荷されるのは10月のひと月だけということで、今月上旬からはじまった出荷は、はやくも終盤に差し掛かっているところであります。
紅葉にも負けない鮮やかさ
シナノスイートは、丁度今、錦絵のような光景が広がる県北部で紅葉の名所として知られる松川渓谷のある信州高山村で作られていました。緑の葉に真っ赤な実をたわわつけて、紅葉に負けないほどの色鮮やかな色彩を放ち、まるでグリム童話の絵本から飛び出てきたような夢溢れる光景を一面に広げています。
標高610メートル。高山村ではこれほどに標高の高い場所でシナノスイートは作られています。このリンゴは標高の低いところも含めて、今県内各地で盛んに栽培が進められているのですが、やはり標高が高い場所の方が色つきがいいということで、ここJA須高管内においては、標高500メートル以上にある高山村を適地として、もっとも多く生産しているのです。
ここまで生産を拡大するためには、苗木を安く販売して大勢の生産者に作ってもらう取り組みがありました。今年高山村でのシナノスイートの生産量は1万2千ケース(10キロ入)。品種では「ふじ」の生産が半数を占め、シナノスイートはまだ全体の8%と少ないですが、年々生産量を増やしている状況です。
お話をうかがったのは、シナノスイートを作り始めて7年目の山粼長生さん。山粼さんのお宅では、以前からリンゴづくりは行っていたものの、勤めがあったために栽培はもっぱら奥様に任せっきり。休日の草刈りを担当するくらいであって、本格的に開始するのは職場を退職してからで、ようやく今年で10年目ということです。
満開から150日目が収穫の日
山粼さんのお宅では、このシナノスイートだけを専門に栽培する3反部の畑に、100本の苗木が整然と植えられていました。
「とにかくシナノスイートはお気に入りのリンゴ。また"ふじ"に比べて果肉が軟らかいため、年配の方にも抵抗無く食べられ易いので、大勢に人に食べてもらいたいなぁ」山粼さんは言います。
しかし口にしたその味わいは、標高の高い場所で作られただけあって実が締り、シャキッとしてとてもジューシーなものでした。
「出来ることなら、"ふじ"が各地に出回るようになる前までに、もう少し早い時期から収穫を行って少しでも長い間みんなに食べてもらいたいところだけど、花が満開になってから150日で収穫を迎えるこのシナノスイートは、このような標高の高い場所では花の開花が遅く、色つきもゆっくりで熟度も遅れるため、どうしても収穫が遅くなり、みなさんに味わってもらえる時期も限られてきてしまう」
そのため高山村のシナノスイートを堪能してもらえるのは、10月だけのたった1ヶ月という、あまりにも短い期間なのです。
味に外れがないのが強み
かつてテレビで紹介されたこともある山粼さんのシナノスイートは、とにかく人気で、毎年この季節になると贈答用にと、北海道から九州まで全国各地から申し込みが殺到し、配送作業だけで忙しく、本業のリンゴ作りがおろそかになる恐れもあるほどの人気ぶり。
「みなさんに食べてもらえるのは嬉しいが、リンゴは重いので、膝に負担がかかる。今のところ母ちゃんと2人で頑張っているが年々体に応える」と山粼さん。
このシナノスイート、美味しさの見分け方を尋ねると「このリンゴは、表面の色付きがイマイチでも味には変わりがないのでハズレなく味わえる」ということです。「でも、やっぱりリンゴらしく赤く色付いたものを届けたい」と、高山村の生産者はこだわりをもって取り組んでいるとのこと。主な出荷先は中京や大阪ということですが、ここ高山共選所でも2割ほどを販売しています。
また山粼さんを始めとするJA須高りんご部会高山支部の部会員240名は、全員が「エコファーマー」を取得するなど、会員が一体となって減農薬など環境に配慮した取り組みを行っています。そしてそんな減農薬栽培で出来たリンゴを「信州高山さわやかりんご」と名づけ、販売を行っているのです。
目と舌を喜ばせにいらっしゃい
山粼さんが出荷されている高山共選所では、12月中旬まで品種を代えていろいろなリンゴを楽しめますが、さらに10月いっぱいまでなら、ブドウも楽しむことが出来ます。長野県オリジナル品種で、県内でも食べたことがある人はまだそう多くないと思われる「ナガノパープル」。そして「ピオーネ」や「巨峰」、「ルビーオクヤマ」などバラエティー豊かで珍しいブドウの味見が出来る試食コーナーもあります。
すばらしい紅葉を堪能したあとは、自然溢れる高山村でリンゴやブドウを味わい、お気に入りの一品を見つけてくださったら嬉しいです。山粼さんを始めとする高山村で作られたジューシーなリンゴのお求め・お問い合わせは、「高山共選所」へ。
JA須高 高山共選所
長野県上高井郡高山村大字高井528−1
電話026−245−2348
JA須高(すこう)ブログ