おかげさまで長野県も入梅です・・・。これから1ヶ月もジメジメ・ジトジトした日々が続くと思うとユウウツ。遊びに出るのも(仕事にも)おっくうになるわ、プロ野球は中止になるわ、部屋はカビ臭くなるわ、洗濯物は乾かないわ、長靴が足にあわないわ・・・。梅雨が嫌な理由なんて数えあげればキリがありません。きっと野菜たちも、病気にかかりやすくなるこの梅雨はきっと大嫌いなハズ。でも、チョ、チョット待ってください。人の好みは十人十色と申します。ひょっとしたら野菜の中のヒトにも「梅雨好き」がいるかもしれないではありませんか。そんなことを思って、いろいろな野菜たちにリサーチした結果、いました、いましたよ! インタビューに対し「乾燥嫌い、湿度大好き!」とこたえた野菜が。で、このたび編集部が勝手に「第1回・梅雨にメゲナイ野菜大賞」に選んだのが『キュウリ』くんなのであります!
キュウリはクールなやつ
まずはそのプロフィール。キュウリはウリ科の一年生植物で、原産地ははるかインド西部のヒマラヤ山麓とか。和名は胡瓜(キュウリ)、漢名は「胡瓜」または「黄瓜」。黄瓜(キウリ)と呼ばれる理由は、実は普段見慣れた緑色のキュウリは未熟果で、完熟すると黄色に変化することからきています。胡瓜の「胡」の字は、『西方の国から渡来したもの』を表す字で、他の野菜・果実にもついていることがあります。例えばコーカサス・ペルシャ地方原産の胡桃(クルミ)やインド原産の胡麻(ゴマ)がそうですね。名は体を表す、ではなくて、「名は出生を表す」といったところでしょうか。ちなみに英語では「cucumber」といいまして、これは「なにごとにもあわてないクールなやつ」を意味します。
唐から来た瓜はカッパの好物
キュウリは紀元前から食用や特に「皮膚をなめらかにする」として美容に利用されていたらしいのです。中国では唐の時代に玄宗皇帝が、かの世界3大美女の一人、かの楊貴妃のために取り寄せたという説もあります。(くしくも本日6月14日は楊貴妃が死んだ日――756年――に当たります)ちなみにこのときのキュウリ、促成栽培だったとの話も(要するに、自然に採れたモノではないということですが)。いくら皇帝とはいえ、当時とすれば手に入れるのに結構苦労したのかも・・・と思われますが、相手が肌すべすべの楊貴妃じゃミエも張りたくなるのもわからないではありません。男のサガってやつでしょうか。
日本列島に伝来したのは古くて、大和朝廷時代だとか、奈良時代だとか諸説あります。ま、ハッキリしているのは、仏教以前に朝鮮半島を経由して大陸(唐・から・加羅・韓)からもたらされた古顔の野菜だということで、その昔は「加良宇利」(カラウリ)と記されて、やんごとなきお方の食べものだったらしいのです。朝廷や神祇の帷幕に瓜の紋を描いたものが少なくなく、京都の祇園神社の氏子がキュウリを食べると祟りがあると言い伝えられていたりするのも、キュウリが仏教以前に日本列島に伝来したことのあらわれだという学者もいます。また徳川時代にはこれが「カッパ」の好物と信じられていて、雨乞いのために初物のキュウリを川に流して川の主であるカッパに供する不思議な習慣があり、これがために今もキュウリの海苔巻きのことをカッパ巻きと称したりもします。
野菜としての評価が定まったのは昭和時代
今では一年中見かけるキュウリですが、やっぱり旬は夏! 平安朝のみやびな貴族も冷たい水で冷やしたキュウリに味噌をつけて食べていたんだろうな・・・なんて想像していたら、古顔のくせに実は最近まで野菜としての評価はあまり高くなかったという、驚くべきカミングアウトがあったりして。なんとなんと食材として評価されて、広く使われはじめたのは昭和以降になるのだそうですから、驚いちゃいけません。でもその後は、たくさんの品種が生まれ、地域色の強い栽培方法の検討も進んで、現在では食卓を飾る野菜の最も重要な品目のひとつにまで成長してきました。ウーン、まさに人に、いや、野菜に歴史有りといった感じですなあ。
キュウリは水分が多くて、栄養的には特にズバ抜けているという点は実はあまりありません。でもビタミンB・ビタミンCを含み、苦味成分のククルビタシンはガン予防、イソクエルシトリンは利尿作用、カリウムは高血圧予防、芳香成分ピラジンは心筋梗塞・脳梗塞予防とたくさんの機能性成分と期待される効果を持っています。なにより、そのみずみずしい香りと歯ざわりが食欲をそそり、これから夏に向けて清涼感のある食材として大いに活躍が期待されるところです。あまり太くなく、キュウリのお尻の部分(花が付いているところ)が膨らんでいないものがおすすめ。イボイボがトゲトゲしているものの方が新鮮なんです。保存は、乾燥を避けて低温になり過ぎないように注意し、冷蔵庫の野菜室で。
ブルームレスからブルームへの潮流
よく、「今のキュウリは昔のキュウリの味がしなくなった」という話を聞きます。特にご年配の方々は遠い目をしてそのように語られます。実は現在一般的に手にとるキュウリは「ブルームレスキュウリ」といって、トゲトゲというかイボイボのない新しい品種がほとんど。作りやすさや、食べやすさなどからブルームレス化が進んだキュウリの勢力地図ですが、その過程で古い品種にみられた独特の香り、歯ごたえや食味が失われて淡白になったとの声もあって、消費がやや低迷しているとの内部情報も寄せられました。こんな声を受けて、ブルームキュウリも少しづつ作られてもいるようです。これからどんどんおいしい仲間が増えるといいですね。
映画『ALWAYS 三丁目の夕日』で最近ブームになったあの昭和30年代。日本の夏の風景というと、井戸水でよく冷やしたキュウリやトマト、スイカをおもむろにガブッと食べる麦わら帽子の子供たちが浮かびあがります。あー、お母さん、やっぱり野菜は丸かじりがいいですね。今夜はテレビで野球を見ながらキュウリに味噌をおつまみに、ビールをキュッといこうかな。