いよいよお盆になりますね。県北部のお盆に欠かせない郷土料理が「おやき」ですが、そのおやきに欠かせないのがナスです。ナスは品種が多くて、世界には1,000種、国内だけでも200種ほどあるそうです。そのなかでも最も大きいとされるのが米ナス系の「ていざなす」。長野県最南端の小さな山間で脈々と作り続けられています。同じ県内でも、産地以外で実際にていざなすを見たという人にはほとんど出会わず、「すごく大きいらしいよ」と噂だけが飛び交う「幻のナス」です。
人口1,300人、愛知県と静岡県に隣接する天龍村は、その温暖な気候から県内でも最も早く梅や桜の開花が伝えられる場所。村のほぼ中央を南北に天竜川が流れ、面積の9割は山林が占めますが、残りの耕地で作られるお茶やていざなす、柚子が特産です。
畑に整然と植えられた苗。その大きな葉っぱをめくった奥には、何とも堂々とした存在感のナスが現れました。片手で1個持つのがやっと、インパクト大の巨大なナスです。その名の由来はーー、およそ130年前、この地に暮らしていた田井澤久吉さんが東京から種子を取り寄せ栽培を始めたナスが、その名にちなんで「たいざわなす」と人々に呼ばれており、後に「ていざなす」になりました。
大きいものでは30cm(A4用紙の長辺の長さです!)、重さ450~650g前後ですが、なかには1kg以上になるものもあるそうです。
水分をたっぷり含んで甘味があり、加熱することでとろ~りとしたまろやかな味わいに。アクもなくて果肉が軟らかいことから、ナス嫌いの子どもや大人でも「このナスなら食べられる!」という声が多いのだそう。
右から、生産者組合理事の板倉貴樹さん、生産者組合会長の野竹正孝さん、天龍農林業公社(ていざなす事務局)清水さん
この伝統のていざなすの種採りから育苗までを一身に背負い、地元の人に苗を供給しているのが、天龍村ていざなす生産者組合理事の板倉貴樹さん。「信州の伝統野菜」にも認定されるていざなすは、長年地元の人々に愛され育まれて、この地域の人にとっては欠かせないナスですから、「ていざなすは全部地元のもので作りたいんです」と板倉は話します。
種苗づくりと共に行っているというナスの栽培について、板倉さんにお聞きしました。ナスの周囲に生える大麦は土に巻き込むために栽培したもの。また、周りの山々から集めた落ち葉や、伐採した竹をパウダーにして土に混ぜ込み乳酸発酵させるなど、自然の恵みあふれる土地を生かして、村にあるものを肥料に使い、土の中の微生物の働きが活発になるようにと利用するなど、炭素循環型の農業を目指しています。
ナスとは思えないさわやかな香り。生でも食べられる
そんな土壌で育てた野菜は「味が濃い」と言われることが多いそうで、ナスにアクを感じないのもそのせいでしょうか。また、野菜に与える水は人間も飲用可能な湧き水なのだそう。「ここでしか作れないものを売りにしています」と板倉さんは言います。
ナスは連作が難しいとされる作物ですが、研究を重ね試行錯誤の結果、通常より高い位置での接ぎ木によって、有機物を含む土壌のもと、病害や収量の減少を抑えて連作を可能にし、村の限られた農地を最大限に活用しています。「高接ぎで育ったていざなすは、形も安定してきたように思うなあ」と、生産者組合会長の野竹正孝さんも出来栄えに満足そうです。
ていざなすを収穫する板倉さん
30代から80代の組合員18名がいるていざなす生産者組合では、栽培方法を皆で研究して高めながら、品質の向上に努めています。そして、板倉さんのような若い生産者への期待も大きいと言います。以前は愛知県で花の関係に携わっていたという板倉さんは、Uターンをきっかけに、今では種苗会社の代表としてさまざまな野菜の苗を作っています。就農して17年、そのうち、ていざなすづくりは11年。「野菜のなかでもナスが一番楽しい!」と目を輝かせます。
「ていざなすの苗は、みんなが植えたのを見て、自分の畑は一番最後に植えますが、地元の人が栽培を楽しみにしているので、もうプレッシャーで緊張の連続なんです。村内の生産者や住民には、毎年苗があってそれが実ることは当たり前ですからね。実ったのを見ると責任を果たしたという思いでホッとします」と話す板倉さん。ていざなす専用の畑をつくり、種が混ざらないこと、種が変化しないことに特に注意しているそうです。
今では東京の豊洲市場でも取り引きされているというていざなす。板倉さんのもとには、都内からの学生が今年の夏の数日間研究のために訪れ、熱いていざなす談義が繰り広げられたのだとか。
「ここで作ることに自信を持っています」と話す板倉さん。ていざなすは、天龍村の環境と人々の努力が作り上げた、この土地でしか存在しない地域の宝です。しかし、高齢化が進み生産者が減少していくなか、「産地だけで囲うのではなく、他の地域でもこのナスをどんどん作ってもらうことで、多くの人がていざなすの存在を知ってもらえればいいと思っています。おいしいものは名前を変えて必ず出てくるものですから」とも話してくれました。
「ていざなす定食」。ていざなすを食べる専用のスプーンが付いてくる
ていざなすを食べたい方は、JR飯田線平岡駅1階レストラン「ふれあいステーション龍泉閣」で「ていざなす定食」が食べられます(期間限定)。肉みそがたっぷりかかった大きなナスは、トロリと軟らかく、甘くておいしい。ただし、たっぷりの油を含んでいるナスは、できたては熱々ですから、ほおばって口の中を火傷しないようにご注意くださいね。
また家庭では、3cm位の輪切りにして衣をつけてフライにすれば、外はカリッ! 中はトロ~リと、おつまみにぴったり。大人はもちろん、子どもにも大人気の逸品だそう。網で焼いて、外側の皮を剥いて焼きナスとしてもまた美味。水分がたっぷりのナスですから、熱通りが早いのもいいです。
秋頃には実が黄色くなることから「黄金ナス」と呼ばれる(写真提供:板倉さん)
ていざなすのお求めは、7月頭から11月頭までになります。保存は涼しい場所に置いて、早めにお召し上がりください(冷蔵すると色が黒くなります)。
【ていざなすの注文・お問合せ】◇天龍農林業公社TEL 0260-32-1160(平日8:00~17:00)【買える場所】◇道の駅 信州新野千石平 蔵長野県下伊那郡阿南町新野2700TEL 0260-24-2339◇ふれあいステーション龍泉閣内2階売店(JR飯田線平岡駅構内)長野県下伊那郡天龍村平岡1280-4TEL 0260-32-2220【食べられる場所】◇おきよめの湯 レストラン湯とり長野県下伊那郡天龍村神原5786-14TEL 0260-32-3918(レストラン湯とり) 0260-32-3737(おきよめの湯)定休日 火曜日(祝日の場合は営業、翌日休業)ふれあいステーション龍泉閣1階(JR飯田線平岡駅構内)長野県下伊那郡天龍村平岡1280-4TEL 0260-32-1088
こちらは 2021.08.11 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
すし☆すぶた
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