徳川家康の愛した「一富士 二鷹 三茄子(なすび)」。初夢の縁起物としてもすっかり定着した「なす」は、日本人が昔から愛してやまない野菜のひとつ。 信州の伝統野菜としては、北は小布施町の「小布施丸なす」、南は阿南町の「鈴ヶ沢なす」に天龍村の「ていざなす」などがあるほか、県内各地で夏野菜として栽培され、お盆の天ぷらや郷土食のおやきにも欠かせない食材となっています。 そこで今回は、県内でも知る人ぞ知る、幻の! といっても過言ではない「両島なす」のご紹介です。
「両島なす」は、松本市両島地区を中心に栽培される「なす」で、生産者は松本平の4軒のみ。しかもすべてが松本市内の市場にだけ出荷されるというもの。市場には専用コーナーがあり、両島なす目当ての買い付け人も多いとか。そう教えてくれたのは、生産者の鎌倉八郎さん。両島地区で昭和30年代から先代が栽培をはじめ、以降 奥様の明子さんと自宅隣の畑で守り続けています。
鎌倉八郎さんと奥様の明子さん
支柱の上まで背丈が伸びる(7月14日撮影)
8月中旬には支柱まで育つ 写真提供:JA松本市
早速、収穫のため畑に行くと、普段見慣れたなす畑とは違う2メートル以上もあろうかという支柱がずらり!「...???」と思いながらも近づくと、つややかな濃紺のスラッとした長なすが収穫を待ちわびていました。
大きな葉を広げた、つややかな濃紺の両島なす
そのフォルム自体、もちろん美しいことは美しいのですが、パッと見は普通の長なす(失礼しました!)。一体「両島なす」とは、どんな「なす」なんでしょうか? 「苗自体は一般のなすと変わらない。この辺りは高い地下水のおかげで成長が早いから皮がやわらかいんだよ」と鎌倉さん。「あと育て方が特徴的。この支柱まで上へ上へ枝葉を高く伸ばしていく。こうして1枝で70~80本収穫できる」と続けます。奈良井川の豊富な伏流水が、水分を多く含んだジューシーな「両島なす」に育て上げるんですね♪ その証拠に、隣ではこれまた豊富な水分が必要な里芋も栽培されていました。
手前から里芋、トウモロコシ、両島なす
見落としがないように収穫
5月末頃の定植から、ひと月ほどで収穫を迎えます。最盛期は8月中旬から9月、そして驚くべきことに、11月の霜が降る頃まで収穫は続きます。この時期、熱帯夜で寝苦しい...なんて日もありますが、なすにとっては、それが最適なんだそう。一晩で一気に倍から1.5倍にもグンと成長することも。大きな葉でたっぷり栄養や水分を蓄えます。その成長の速さが皮のやわらかさにつながるんだとか。注意点としては、皮がやわらかいので風によって枝葉が擦れ傷をつけやすいこと。そのためテープで留めたり、風除けネットで畑を囲って大事に大事に大きく育てます。
なすを軽く握った時に手のひらより大きいものが収穫時。皮も実もやわらかなため、丁寧に収穫し、やさしく籠に置いていきます。そおっと置かないと皮に籠の跡がついてしまうとも...。他にはトゲが大きく立派なので、指先に要注意!!
左からS・M・Lサイズ
その後、濡れ手ぬぐいでやさしく泥はねなどを落とし、等級A(形きれい、傷・スレなし)・B(形きれい、スレあり)・C(傷・スレあり、曲がりあり)とサイズ(2L~SS)に選別されます。奥様の明子さんが瞬時に判断してそれぞれの箱に入れていくのですが、素人目には十分Aに見えても、明子さんは、わずかなスレや曲がりも見逃しません。「出荷組合統一で、きちんと厳しく判断・選別し、地域ブランドを守っていく」と、穏やかな笑顔の中にも自信をにじませる鎌倉さん。
「嫁いでからずっと両島なすと一緒」と笑う明子さん
ここまで見てきたらぜひとも味わいたい! 奥様の明子さんが自慢の両島なす料理を振る舞ってくれました。生でもおいしいそうですが、まずは、とれたて両島なすの素揚げから。「これはぜひ揚げたてを」とヘタをとり、縦四つ切にしてそのまま油で揚げてくれました。
縦に4つ切り
皮目から揚げると色味が鮮やかに
こんがりきつね色に揚げる
すりおろしショウガをたっぷり乗せて
高温の油に皮目から入れると鮮やかな色味になるそう♪ ひっくり返してほんのりきつね色に揚がったら油を切って大皿へ。そこに豪快にショウガをすりおろして醤油をまわしかけたら完成☆「簡単でしょ」と笑う明子さん。熱々をふぅふぅしながら頬張れば、驚きのやわらかさ!! 簡単にサクッと皮を噛みきることができます。やわらかく甘~いなすとショウガ醤油が絶妙☆ おいしすぎてとまりません...。どんどん揚げてくれたものの、あっという間に完食♪
ほかにも浅漬け、てっか(甘味噌炒め 北信地域では油味噌とも)、煮浸し、ピーマンとひき肉の味噌炒め、味噌汁(写真は中央の浅漬けから時計回りに)と、どんな料理にもあう「両島なす」を思う存分、堪能させていただきました。油との相性抜群なのは言うまでもありませんが、皮のやわらかさとみずみずしさが際立ったのは浅漬け☆ またひとつ、忘れられない味となりました。
中央の浅漬けから時計回りに、てっか、煮びたし、ピーマンとひき肉味噌炒め、味噌汁
地域固有の風土の中で育て、その地域固有の食文化として歴史をつむいでいく...。まさに地産池消の姿がそこにありました。
ちなみに、こちらの「両島なす」は信州の伝統野菜に申請していないとのこと。接木するため固有の品種特性とされないことと生産量の兼ね合いでしょうか...。風土と育て方の違いが、なす自体の違いにこんなに影響するものなんだと、つくづく実感。この美しさとおいしさを味わいたい方は、ぜひ松本市へおこしください。地元の旅館や小料理屋、料亭などでいただくこともできるそうですよ。 ※両島なすのお取扱いについては各店舗へ直接ご確認ください。
ポイントは「新鮮なものを選ぶこと」。 新鮮な証は、 (1) トゲが痛いくらいピンとしていること (2) ヘタ付近に白いスジがあること(成長期の印)
JA松本市
こちらは 2017.07.25 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
まちゃ
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