新型コロナウイルスの広がりで畜産部門も業務用を中心に需要が低迷するなど大きな影響を受けています。同時に豚熱や高病原性鳥インフルエンザなど家畜たちの感染症の脅威も続いています。長野県の畜産を支える若手畜産農家を訪ねました。異口同音に強調するのが丹精込めた肉や卵を地元でもっと味わってほしいという願いでした。産品に込めた思いとともに紹介します。
豊丘村の吉川秀之さんは、和牛の繁殖から成牛に育てて出荷する肥育まで一貫飼育する農家です。父・俊男さんから受け継ぎ、10年ほど前から本格的に取り組んできました。当初は「(子牛は)買ってきたほうが安い」と言われるほどでしたが、近年の価格高騰で報われた形です。 その子牛の飼育も吉川さんは、生まれてから3カ月間、1日2回、人手をかけてミルクを与える人工哺育を続けるなど手間を惜しみません。「はじめの育成がよくないと出荷時の重量や肉質などに最後まで響く」ためです。 赤ん坊や小さな子供が病気になりやすいのは人と変わりありません。吉川さんも「始めたころは子牛がよく病みました」と打ち明けます。人工哺育で子牛の状態をよく観察することに加え、牛舎の換気に気を使い、わらなどを敷いた床を絶えず乾かすなどきめ細かな管理を徹底しました。結果、「風邪もひかなくなりました」と吉川さん。「とにかくよく牛を見て、異常があったら早めに対策を取れるようにすることです」とも。 昨年は71頭出荷して肉質の最高ランク5等級が63.4%。各種コンクールでも入賞の常連です。そんな吉川さんが闘志を燃やすのが来秋、鹿児島で開催する和牛のオリンピック・全国和牛能力共進会への出場です。県代表2頭は来夏に決まります。 【主な受賞歴】 ・第30回信州和牛枝肉共励会「最優秀賞」(2018年4月京都食肉市場開催) ・第33回信州和牛枝肉共励会「最優秀賞」(2021年4月京都食肉市場開催) ・第73回長野県畜産共進会和牛肥育の部 黒毛和種雌肥育「優秀賞」 (2020年12月大阪市食肉市場開催) ・第69回長野県畜産共進会種牛の部 種雌牛若雌2「特別優秀賞」※農林水産省生産局長賞受賞(2016年11月 長野県中央家畜市場開催) 【信州和牛・信州プレミアム牛肉】 南信州牛を含む信州和牛は兵庫県北部の但馬地方で飼育されてきた黒毛和種の和牛・但馬牛がルーツ。1955年に導入され、県内各地の実情に合わせ、大麦、トウモロコシ、ふすま、大豆などを中心とした飼料を与えることで肉質に優れた、まろやかなおいしさを実現しています。信州プレミアム牛肉は、脂肪交雑(サシ)の等級と、脂肪の風味や口溶けに影響を与えるオレイン酸の含有率をおいしさの基準として、信州和牛の肉質を選別する長野県独自のブランド牛肉です。南信州牛も多くが信州プレミアム牛肉の認証を受けています
上田市の久保田聖さんは和牛と乳用種を掛け合わせた交雑牛の肥育農家。上田市北部、下室賀の自宅に隣接して牛舎を構えています。意外なほど人家に近い場所です。 幼いころから肉牛を育てる両親の姿を見て跡を継ぐことを決め、高校、大学と関係する専門を学んできました。卒業と同時に就農して9年目になります。 当初は飼育でも地元JAの巡回指導で水飲み場の環境に始まり「ダメ出しばかりをもらっていた」と振り返ります。が、地道に改善を続け「ここ5、6年はよくなってきた」と胸を張ります。各種コンクールでも目覚ましい活躍ぶりです。 「できるだけきれいな環境でストレスなく育てる」のが信条。肥育農家のため、素性の良い子牛を仕入れることを前提に、「毎日よく見て、病気や異常があればすぐに対応できる態勢で、きれいに飼う」ことを心掛けています。 「換気が悪いと肉も黒っぽくなってしまいます。床が濡れたままでは牛も気分はよくないでしょう」。臭い対策を兼ねて、こまめに牛舎の床に敷く堆肥を入れ替え、おがくずも定期的に入れています。 現在飼育しているのは90頭。環境を優先して一時期より減った頭数を120頭まで増やすのが当面の課題です。同時に「地元でもっと食べてもらいたい」と独自の仕組みづくりを考えています。 【主な受賞歴】 ・第15回信州アルプス牛共励会「優秀賞1席」(2018年9月長野県食肉公社開催) ・第17回信州アルプス牛共励会「優秀賞1席」(2020年9月長野県食肉公社開催) ・第72回長野県畜産共進会肉用牛交雑牛の部 交雑牛雌肥育「特別優秀賞」※長野県知事賞受賞(2020年12月長野県食肉公社開催) 【信州アルプス牛】 主に、父親に黒毛和種の和牛、母親に乳用種をかけ合わせた交雑牛。和牛の霜降り肉の良い点と、乳用牛の短期間で大きくなる性質を利用し、値頃感のあるおいしい牛肉に仕上げられています。
塩尻市洗馬岩垂原地区。果樹園や野菜畑に囲まれて山本公利さん(写真右)、守さん(同左)兄弟の豚舎があります。二人の父が長野県内で初めて取り組んだSPF豚の飼育を受け継いで22年。今や高品質の豚肉として定着したSPF豚を1年間で3700頭(2020年実績)出荷する有力生産者です。 親豚の種付けに始まり、1回当たり10~20頭生まれる子豚を育てて6カ月。1kg余の子豚が120kgに成長したところで出荷するのが基本サイクル。しかし「生き物ですから、思った通りにはいきません」と公利さん。守さんも「分娩(ぶんべん)一つとっても、まだまだ謎が多く、今でも素人という感じ」と謙虚です。 養豚の世界では国内では途絶えていた伝染病・豚熱(CSF)の再発が問題になっています。人には感染しませんが、豚には致命的です。山本さんの農場でも一昨年、近接の農場で感染が確認された際には「最悪の事態も覚悟」したそうです。 もともとSPF豚の飼育には持ち込む資材の殺菌や、餌の管理、人の出入りなど厳格な管理基準があります。「あっさりしていて食べやすい」山本さんの豚肉は「岩垂原SPF豚」のブランドで地元の直売所「ファーマーズガーデン」、「信州Aポーク」として長野県A・コープの一部店舗を中心に定着しています。「店頭で見かけたら生産者の顔も思い浮かべてくれるとうれしい」と二人は語っています。 【主な受賞歴】 ・第68回長野県畜産共進会肉豚の部「特別優秀賞1席」※農林水産省生産局長賞受賞(2015年10月長野県食肉公社開催) ・第71回長野県畜産共進会肉豚の部「優秀賞」(2018年10月長野県食肉公社開催) ・第73回長野県畜産共進会肉豚の部「優秀賞」(2020年10月長野県食肉公社開催) 【信州ポーク】 県内で育てられ、JAグループに出荷・販売された豚肉の総称。特に豚赤痢など特定の疫病が存在しない豚をSPF(Specifc Pathogen Free)豚といい、地域、JAごとにブランドがあります。
飯山市で養鶏業を営む吉越洋治さんは、数少ない県内養鶏家の一人です。生まれたばかりのひなから育て、採卵から包装、出荷まで、手作業をいとわず、すべて自前でこなすのが最大の特徴。高校卒業と同時に父が営んでいた養鶏に携わり、今年で30年になります。 鳥インフルエンザの流行、飼料価格の高騰...、厳しい状況の連続でした。「よく今日まで乗り越えてこれたなぁ」と吉越さん。盆暮れなく続く作業に付き合ってきた妻・多津子さんをはじめ「人に恵まれてきました」としみじみ。 夏場の高温の一方、冬は1.5mほどの積雪にも見舞われる飯山は、鶏たちにとっては厳しい気候です。生まれたてのひよこを引き取り、最初の餌やりまでの3日間でその後の産卵成績まで決まってしまう、というほど微妙な"子育て"。十分なスペースを取った育雛舎(いくすうしゃ)でひなたちがリラックスして寝ている様子は「黄色のじゅうたんを敷いたよう」で「見るたびに幸せな気分になる」と言います。 健康な鶏から生まれた卵は、黄身はもとより白身もプリっと弾力に富み「おいしい」と評判。「菜の花 みゆき卵」の名前で地元のA・コープをはじめ、飯山名物になったバナナボードなど、地元の菓子店や飲食店のメニューを支える原材料として定着しています。 【主な受賞歴】 第12回鶏卵品質共励会 最優秀賞(長野県知事賞):主催・JA長野県養鶏部会協議会
■関連リンク JAタウンの全農長野ショップ「僕らはおいしい応援団」
こちらは 2021.06.22 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
昭和人Ⅱ
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