「子牛のセリ市場」。一般の方はなかなか目にする機会がないのではないでしょうか。 良質な子牛を求めようと目を光らす購買者がいる一方、生産者は、育てた子牛が評価される重要な収入機会であるとともに、家族のように愛情をかけて育てた子牛を手放さなければならないという切ない気持ちが入り混じり、複雑な心境で当日を迎えます。 今回は、子牛たちの親離れの場であり、新しい「育ての親」との出会いの場でもある「子牛のセリ市場」に行ってきました。
やってきたのは長野県木曽郡にある「長野県中央家畜市場」。この子牛のセリ市場は年に6回開催されており、今回は約320頭の子牛(素牛)が出されました。 素牛とは、生後9ヶ月前後の子牛のことを指します。 しかし、子牛といえども体重は300キロ弱。生産者や職員が牛をトラックから会場まで運び出すだけでも一苦労です。
肉牛の生産者は、「繁殖農家」と「肥育農家」の2種類に分けられます。 繁殖農家とは、母牛を飼育し子を産ませ、生後9ヶ月前後になるまで手塩をかけて育て上げた子牛を素牛としてセリ市場に出荷する農家のこと。 対して肥育農家とは、繁殖農家が育てた素牛を引き取り、立派な大人の牛になるまで大きく育てる農家のことを指します。 つまり「子牛のセリ市場」は、繁殖農家が育てた子牛(素牛)を購買者が買い取り、買い取った素牛を肥育農家に引き渡すという目的のもと行われているのです。「生みの親」「育ての親」のように、農家はそれぞれの役割を分担しています。
セリ市場に出る子牛は、会場に入る前に既に定められている番号順に体重を計り、会場へ向かいます。会場に子牛が入ったらいよいよセリ市場がスタートです。
子牛のセリ市場では、購買者は、「将来大きく育つかどうか」といった観点から良質な子牛を探し、買い取りたい子牛がいれば座席下にあるボタンを押します。ボタンを押した購買者が1名だけであればその場で買い取りが確定しますが、重複した場合は1,000円ごとに価額が上がっていきます。ここではおよそ30万~60万円程度で子牛が買い取られていきます。
セリ市場が始まれば、生産者の皆さんは自分の子牛がどうなるのか見守るのみです。 生産者の方に話をお聞きすると、「比較的高値で買い取ってもらえてよかった」という気持ちの一方で、「愛情をもって家族のように育ててきた」と、子牛を手放す寂しさも語ってくれました。
また、子牛のセリ市場とは別に、牛の品質を競う「子牛の共進会」も行われました。 審査員の中から「毛並みが綺麗」「体のバランスが良い」といった声が多かったとして最優秀賞に選ばれたのは、田口周治さん・美恵子さん夫妻の子牛でした。 母牛も含めて8頭近くもの牛を育てているという田口さん。1頭に1冊ずつ用意している飼育日誌に毎日の体調変化をチェックし、牛たちに「おはよう」「おやすみ」の挨拶は1日も欠かしたことがないそうです。田口さんの子牛もセリ市場に出しており、無事引き取り先が確定。「セリ市場の前日は必ず赤飯を炊いて子牛に食べさせている」と牛への愛情を話してくれました。
子牛の共進会で最優秀賞に選ばれた田口周治さん
こちらは 2015.04.14 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
あぐり君
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