長野県北部、長野市松代町を中心に千曲川流域で栽培される長芋は、河川の肥沃な土壌で育つため、太くて長いのが特徴です。 長さだけでなく、味もピカイチ! 甘くておいしい長野市松代産の長芋をご紹介します。
訪れたのは11月下旬。収穫作業に追われるのは、長芋を作り始めて約40年という山﨑善文さん、純子さん夫妻です。山﨑さん夫妻の収穫作業は分担制。純子さんが重機を操作し、芋と芋の間に深さ1.2mほどの溝を掘り、それを追うように善文さんがスコップを持って溝の中を進み、芋の周りの土を崩して丁寧に掘り出していきます。
なるべく重機を追い、芋の位置を確認しながら進まないと、土が乾いて固くなった時に、芋が見つかりにくくなるそう。また、誤ってスコップで傷つけたり、途中で折れたりしてしまうと等級が下がってしまうため、夫婦の息の合った連携で慎重に作業を進めていきます。
長野市松代町では、昭和30年頃から長芋の栽培が始まりました。おいしい長芋が育つ理由は、千曲川によって運ばれ、適度に粘土質を含んだ砂壌土。畑などの土壌に比べてきめが細かい砂壌土には障害物となる石がないため、芋がまっすぐ伸びてくれます。さらに、千曲川が運んだ土には栄養もたっぷり。芋がこの栄養をしっかり吸って生長するため、重量があり、名前の如く「長い芋」が育ちます。いまでは千曲川河川敷で、多くの生産者が栽培するようになり、県内でも有数の長芋産地となりました。
松代町の長芋の収穫は10月から4月まで。10月下旬から12月中旬頃までが「秋掘り」、2月半ばから4月頃までが「春掘り」といわれています。秋掘りと春掘りの間、1月から2月半ばまでは農閑期。雪が積もり、長芋が掘り出せないため、農家にとってはつかの間の休息です。 この「秋掘り」と「春掘り」で味の違いを楽しめるのも長芋の魅力です。秋堀りは、新物らしく、みずみずしくて皮が薄く、春掘りは、芋が冬の寒さに耐えたぶん、秋堀りに比べて熟成された味わいといわれています。
「長芋はデカければいいってもんじゃない、太いのが良いんだ」と断言する山﨑さんに、ズバリ本年度産の仕上がりを聞いてみました。「夏が暑すぎると蔓に栄養がいってしまい、芋がただ縦に伸びてしまうだけだが、今年は夏にしっかり雨が降ったから、長くて太さのある良い芋にできた」と太鼓判をいただきました。
しかし、いざ収穫を目の前に控えた10月13日。「100年に一度の豪雨」といわれる台風19号により、千曲川が氾濫・決壊。松代町の河川敷(堤防の内側)の長芋畑は、水流で支柱や長芋が流され、上流からの多量の土砂により茶色一色に。跡形もないほどの被害を受けました。この地域を支えるJAグリーン長野によると、管内の長芋耕作面積の3分の2が被災し、山﨑さんも30アールほど持つ河川敷の畑が被災し、長芋の支柱や長芋が「土ごと」流され、残された長芋の上には多量の土砂が堆積し、収穫は困難に...。営農の継続に暗い影を落とします。 「河川敷は川の土が入ってくるため、肥沃な土地で(長芋が)おいしくなる。(水害によるリスクも)承知で栽培しているが、今回のような被害は初めての経験」とポツリ。畑だけでなく資材の被害も大きく、これを機に河川敷内での長芋栽培は諦めようと思うほどに、生産意欲をなくしたと言います。しかし、農業への支援の声や、行政やJAの補助等、農業再生に向けた支援策が打ち出されてきたこともあり、徐々に気持ちも上向きに。「これからも頑張ろうか」と、まずは被害のなかった畑から収穫作業に取り組んでいます。
山崎さん夫婦オススメの食べ方は、長芋をすって「とろろ」にし、それを温かいご飯に豪快に(たっぷり)かけた「山かけごはん」! とろろは一度にたくさんおろし、使いやすい量に小分けして冷凍保存しておけば、便利です。 写真は、純子さんの手作り「長芋の梅漬け」です。
梅干を漬け終った後の汁に、皮を剥いた長芋を1日ほど漬けるだけ。外側はピンク、中は白色と、見た目も美しい漬け物の完成です。梅漬けのほかには、奈良漬けの粕床に長芋を漬け直してもおいしい、とのこと。さらに、純子さんは「短冊に切って、もずくやナメタケと和えれば、ネバネバ同士でおいしいよ」と教えてくれました。 ちなみに、長芋特有の「ネバネバ」が苦手な方は、皮をむいた後の芋を茹でてみてください。粘り気が薄れ、潰しやすくなるのでポテトサラダに最適です。長芋はアレンジ次第で和風にも洋風にも活躍してくれます。 つかの間の休息で、羽を休めた山﨑さんに、いよいよ春掘りのシーズンがせまっています。「松代産の長いもは甘くておいしい。たくさん食べてほしい」と善文さんは笑顔を見せます。
こちらは 2020.01.07 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
ジャスミン
関連記事
松代では長芋の春掘りがはじまっていますよ
長いもの収穫はこのようにおこなわれていた
信濃町特産のとっくり芋は長芋を超えている
知ってほしい!お姫様が伝えた?信州のあんずのおいしさ
新着記事
ラディッシュの漬物サラダ
安曇野の畑から生まれるりんごを追いかけて~流通現場編~
粒がハート型!? その名は「マイハート」
いちじくのデザート