野菜

大豆の発酵食品「テンペ」で中山間地農業に光を

テンペ

長野市西部に広がる山間地帯、通称「西山地区」の一角、小川村で農業を営む大沢収さんから、地元の特産・西山大豆を使った発酵食品・テンペの試食会の案内をいただきました。
テンペはインドネシア発祥の発酵食品。近年は日本国内でも作られるようになり、低脂肪でミネラル豊富なうえ、現代の食生活に不足しがちな食物繊維を多く含むなど健康効果が注目され、認知度も上がってきているそうです。
一体どんな食べ物なんでしょうか。
10月10日、同村のコミュニティー施設・バスティ高府で開かれた試食会をのぞいてみました。

さっぱりした大豆の味

受付を済ませると、最初に配られたのが当日の主役・テンペでした。
そのままスライスした生と素揚げに塩を振ったお試しテンペです。
生はしっとりとした大豆の練り物のような食感と味、素揚げはフライドポテトのような雰囲気でした(味見するのに気をとられ、写真を撮るのを忘れてしまいました。スミマセン)。
一般的な発酵食品のイメージとは違い、あっさりとしていて、大豆の素直な味わいが楽しめました。後で説明してくれた製造担当の「もたいテンペ」さんによれば、本場インドネシアのテンペは乳酸菌発酵も加わることなどから、日本で一般的に作られているテンペとは違い、それなりのクセがあるそうです。今回いただいたのは日本独自のテンペなんですね。

加工品という選択

テンペ

いよいよ試食会です。
最初に主催の大沢さんが熱く語りました。
大沢さんは東京都東村山市出身。2009年に小川村に移住。研修を兼ねて3年間中野市の有機農家に通いアルバイト。2012年に村で就農して8年になります。現在はズッキーニ、インゲンなどの夏野菜を手掛け、テンペの原料となる大豆は3年前から栽培を始めました。
販売期間を延ばし、定期的に収入を確保することを考えた場合、加工品を手がけるのが一般的です。大豆の場合、既存のみそやしょうゆでは競合品が多く、太刀打ちできそうにありません。10~20代のころはインド、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドなどを渡り歩いた、という旅好きの大沢さんが行き着いたのが、テンペでした。
「知ってはいましたが、改めて食べてみるとすごくおいしい。何とか商品化できないか、と考えました」
安曇野市でテンペの製造販売を手掛けていた「もたいテンペ」を知ったことで、栽培している西山大豆を使ったテンペが実現しました。

自立の手がかりに

テンペ

試食会を主催した大沢収さん

大沢さんは、山あいの小川村で就農するに当たっては、周りから何度も農業の厳しさを指摘されていたので、覚悟はしていたものの、実際に取り組んでみると「大変さが身にしみる」と打ち明けます。
実際、散らばる農地は30数カ所。あぜの草刈りだけでも大変な手間だそう。しかも、そうして草を刈っても伐採されずに放置された杉林が、やっとのことで再生した農地の日差しを遮ります。シカ、イノシシといった動物たちの被害も深刻です。
小川村は「日本で最も美しい村」連合に加盟し、北アルプスを背景にした里山の風景が大きな自慢です。しかし、こうした風景は地元の人が入り、耕しているからこそ。耕す人の多くは70、80代の高齢者です。
「10年後はどうなってしまうのだろう」
大沢さんは心配しています。打開の一歩は「僕らの世代が自立して、農業で"食える"ようになること」。
今回のテンペには、そんな強い願いが込められています。このテンペをいただくことで地域の応援につながるとしたら、より味わいも深くなります。

微妙な調整を経て製品に

テンペ

続いて製造を担当している「もたいテンペ」の甕和恵さんと耳塚沙紀さん母娘が説明してくれました。
テンペは、バナナやハイビスカスの葉裏に着くクモノスカビの一種「テンペ菌」で、大豆を発酵させた食品。
インドネシアでは熱帯の安定した気温、湿度のもと、蒸した大豆を24~36時間発酵させることでできますが、四季がある日本では同じようにはできないそう。
「豆によって浸水時間、蒸し方から発酵まで、微妙な調整が欠かせない」とのこと。
栄養面や健康効果から、日本のみならず世界中で注目されており、まさに「テンペの時代が来た」雰囲気だといいます。
このあたりはもたいテンペさんのホームページに詳しく紹介されています。 研究者や製造企業などによる「日本テンペ研究会」の専門サイトもあります。

イタリアンに変身

テンペ

テンペのカツレツ

最後は、長野市で今年1月イタリア料理店「Ambrosia(アンブロジア)」をオープンしたばかりという永岡夫妻が考案したメニューの試食会。
夫の祐二さんがテンペの「オーブン焼き」と「カツレツ」を、夫人の佳奈さんがチョコレートとバナナを使った「タルト」と「かりんとう」を紹介してくれました。
シェフとパティシエの手になる作品とあって「こんな立派な料理になるんだ」と参加者は目を見張っていました。クセが少なく、どんな料理にも合うテンペの面目躍如、といったところでしょうか。

テンペ

テンペのオーブン焼き(手前に少し写っているのが「テンペとバナナのタルト」)

「村のお土産やトップセールスに使いたい」「さまざまな料理に使えるアイディアを参考にしたい」「肉代わりとしてベジタリアンの需要に応えられるのでは」「いい具合に食べ応えがあり、応用範囲が広い素材。村の特産品として期待したい」「トレッキングやハイキングを楽しむ人にとって、手軽に良質なたんぱく質が摂れる"山の友"のような形にできれば喜ばれるのでは?」「何にでも合い、変われるのが(テンペの)強み。可能性を確かめることができた」・・・。
役場関係者・村会議員にはじまり、地元や近隣の飲食店経営者ら、大沢さんの声がけで集まった50人近い参加者は、それぞれに思うところがあったようです。

大沢さんのテンペは「道の駅 おがわ」の「農産物直売所 さんさん市場」で販売中(100g入り280円、500g入り900円)。通信販売もしています。
問い合わせは大沢さん(TEL/FAX:026-269-2612 Eメール:mugidance2012@gmail.com)へ。
大沢さんの熱い思いはホームページ「麦ダンス農園」に詳しくつづられています。

こちらは の記事です。
農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。

この記事を書いた人

昭和人Ⅱ

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