すぐ西に日本有数の豪雪地帯のひかえる長野県北部は、飯山市坂井地区。稲刈りもすっかり終了し、田んぼにはただ、稲の根元だけが残された光景が広がっています。この平らな大地は、その昔、市の中央を流れる千曲川と、その支流にある樽(たる)川の決壊によって、幾度となく水害に悩まされてきた場所でもあります。しかしそんな環境下にあっても、水に強く栽培可能な作物があるはずだと、この土地で作られてきたのが"坂井芋(さかいいも)"です。
その歴史は江戸時代にまで遡るそうですが、最初に分かり易く言ってしまえば、「坂井芋」とは「里芋」のことです。でも今まで食べていた普通の里芋とはなにかが違います。粘りが強く、もっちりとした食感、そして味わいの濃さ。それが特徴で、「信州の伝統野菜」にも認定されている、今後も長野県が守り伝えていきたい味をだしてくれている「芋」なのです。
「坂井芋」という呼び名。それは「坂井のイモはひと味違う。ことのほか味がいい」ということで「坂井にイモ買いに行くか?」となるところから、いつ頃からか「さかいいも」と呼ばれるようになったんです。「だからそんなイモを買い求めにやってくる人々が名付け親です」と教えてくださったのは、木島里芋研究会会長の市川忠夫さん。
市川さんをはじめ地元でこの里芋を愛する人々は、その芋のことを「坂井芋」とは呼ばず、小柄な人ならすっぽりと隠れてしまいそうなほどに丈が長く、大きな葉を繁らす様子が特徴的だからでしょうか、昔から「葉芋(はいも)」と地元では呼び ― そしてそれは現在に至ってもそう呼ばれているのですが ― 県境を越えて多くの人々にも親しまれる特別な芋なのです。
なぜここだけでしかこの味が
なんでも「ここで作ったものしかこの味にはならないんだよ」と市川さんはキッパリ言いました。幾度かの川の氾濫によって運ばれた肥沃な大地を肥やしに、多湿で砂交じりの土質がこの里芋栽培には最適で、それが坂井芋と呼ばれるここにしか無い味わいに仕立てるのだそうです。
毎年、稲刈り作業も終わる頃には、ちょうど芋も大きくなっていて、そんなにうまいタイミングでやおら各地では芋掘りが行われます。けれどその日がくるまでは一向に面倒をみることなく、放っておくのも「この芋は構われるの嫌がるんです」と市川さんは話します。そして、信州のどこよりも早く北信濃に冬が訪れる前まで、出荷作業は続くのだそうです。
なにぶん、多湿地帯の土地で栽培される芋ですから、掘り起こした途端に土がゴッソリ付いてきて、収穫後は芋の間に付いた泥を落として根を切り落とし、良く洗ってと「この芋は収穫までは構われるのを嫌がるけれど、収穫後には手が掛かる」と市川さんは笑います。ここ最近購入した機械を使って掘り起こす以前には、スコップを使って80株を掘り起こす作業は1日がかり。それこそ重い土と格闘する重労働になっていたとか。
里芋にしては色白
見た目は通常ある里芋より肉質が白っぽいのが特徴の坂井芋。その栽培は深く土を掛けて作られるため、地中で育つ芋は上へ行こうと、出来た芋は反り返っているものも多く、そんな様子からある人たちには「エビ芋」とも呼ばれることもある坂井芋。料理は、塩茹でにしたり、豚肉と一緒に大きな鍋で芋煮にしたり、味噌汁やけんちん汁などに入れたりと、また煮っころがしにする際のポイントは、イカを一緒に入れて煮付けるのが通の隠し味。イカのエキスが、いい味わいになるのだそうです。
ぜひ召しあがって感想をお聞かせください
地元でも人気の坂井芋は、栽培地が限定されるため収量もそれほど多くないものですが、今回はとくべつに「チャリティーキャンペーン」にも「JA北信州みゆき」から「みゆきポークと坂井芋のセット」として登場しています。「坂井に芋買いにいきたい人」は、また飯山市の道の駅でも12月中旬頃までは販売の予定ですので、北信州の大地の精霊たちが育んだその味わいをお試しください。
【坂井芋】の入手先:
・JA北信州みゆき「千曲川」農産物直売所
(道の駅「花の駅・千曲川」 内)
住所:飯山市大字常盤7425
電話:0269−62−1887
【坂井芋】についてのお問い合わせ:
・JA北信州みゆき 営農部
住所:長野県飯山市大字常盤1496
電話:0269−62−0230
JA北信州みゆきホームページ