信州には、それぞれの地方にある豊富な素材を使った、ご当地独特の食文化が多くあります。その代表が漬物。漬物は、地域の気候・風土で培われた「味の文化財」です。 そこで今回は、今まさに旬(食べ頃)の「すんき漬」を使った、昔ながらの料理と現代風にアレンジした料理をご紹介いたしましょう。
初夏の御嶽山と御岳湖(提供:王滝村)
「すんき漬」は、木曽地方だけで作られてきた無塩発酵の漬物です。料理を作ってくださったのは、霊峰木曽御嶽山の麓に位置し、本場「すんき漬」の郷として知られている王滝村の栗空眞智子さんと松下由喜江さん。料理上手なお二人は、「すんき漬」の原材料である王滝かぶをはじめとするいろいろな野菜も作っています。
「すんき漬」の語源は、京都の酸茎(すぐき)。京都の伝統的な「すぐき漬」も、木曽の「すんき漬」も乳酸発酵漬物として注目されている漬物で、ほどよい甘味と酸味が魅力です。二つの大きな違いは、塩を使っているかいないか。木曽の「すんき漬」は、まったく塩を使っていません。木曽地方は海から遠い山国で、「米を貸しても塩は貸すな」という昔からの言い伝えがあるくらい、塩は貴重な財産でした。そのため、野菜の保存のために塩をふんだんに使うことは難しく、無塩発酵の漬物が生まれたのではないかと考えられています。木曽地方の中でも、寒冷地である旧開田村(木曽町開田)と王滝村では、300年前から作られ、伝えられてきました。
樽の中の「すんき漬」
長きに渡り各家庭で伝承されてきた「すんき漬」ですが、その味は、家庭やその年の気候、原材料である「王滝かぶ」の出来などによって異なるそうです。もうひとつ興味深い事実を教えてもらいました。それは、「すんき漬は手を嫌う」ということ。漬け込む人によって酸っぱくなる人とならない人がいるというのです。「男の手か、子どもの手がよい」という言い伝えもあるとか? 村内には、「すんき漬」が酸っぱくならない手を持つ人がいて、その人は一切「すんき漬」には手を出さないそうです。とても不思議ですね。 おいしい「すんき漬」は、大地の恵み、伝統、先人の知恵、手仕事とが織りなす様々な条件が重なりあって作りだされているのですね。 「すんき漬」の詳細は、「王滝村の『すんき』物語」をご参照ください。
それでは、「すんき漬」を子どもの頃から食べて育ち、自ら栽培した「王滝かぶ」を毎年漬け込み、それをいろいろな料理で楽しんでいる、お二人(栗空さんと松下さん)のおすすめ料理をご紹介しましょう。
出来立て「すんき汁」をいただきました。すんき漬のシャキシャキ感とさっぱり酸味がしっかり口の中に残るおいしい汁です。すんきを入れてから少し煮立てるのがポイント 「すんき汁は、酸味が苦手な人は"酸っぱい"とびっくりするかも。すんき好きにはたまらない一品。作り立てより翌日のほうが酸っぱくなるよ」と松下さんが教えてくれました。
素朴な味で、ご飯に合い、酒のつまみにもぴったりの一品です。
すんきの揚げ物三点盛り(上から時計回りにコロッケ、天ぷら、春巻き)
揚げたてコロッケは、表面サクサク、じゃがいもとすんきの酸味が絡まります。酸っぱさは、食べた最後にほのかに感じる程度で、子どもたちにも人気の一品です。
すんきの酸味が味のアクセントになり、塩やしょうゆをつけず、そのまま食べられます。身体にもやさしい天ぷらです。
コロッケでも使用しました、すんき漬とねぎ、じゃこの油いためが、今度は春巻きの具に。 この油炒めは、ピザやパスタにも使える優れモノで、子どもたちに人気の具。「すんき春巻き」はすんきの酸っぱさがしっかり残り、すんき好きにも人気の一品。なんといっても簡単に作れるのがいいですね。
すんきコロッケをつくる栗空さん
すんき天ぷらを揚げる松下さん
「昔は、冬になるとすんきばかり食べさせられていた(笑)」と昔を懐かしむ栗空さん。 発酵食品として、また味の文化財としても注目されている「すんき漬」ですが、原材料である「王滝かぶ」を栽培する人が高齢化し、年々栽培面積が減少。栗空さんと松下さんも一生懸命「王滝かぶ」を栽培していますが、これからは若い人に伝え、次の世代が守っていってくれることを期待していました。
JA木曽王滝支所製造の「すんき漬」と「赤かぶ漬」
塩を使わず食物繊維や乳酸菌が豊富な、ヘルシーな漬物「すんき漬」。本物は、塩・酢・しょうゆなどを一切使用しておりません。類似した名称の商品に注意ください。 本物の「すんき漬」をご希望の方は、JA木曽王滝支所まで(TEL 0264-48-2121)。 現在、2016年の「すんき漬」は完売しておりますので、2017年の「すんき漬」をお待ちください。
こちらは 2017.01.24 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
さくら
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