おでん、すき焼き、鍋料理...、温かい料理が恋しい季節となりました。湯気が立ちのぼる料理の脇役のひとつに「こんにゃく」があります。長野県の北部、長野市の南西にある信州新町では、こんにゃくが旬を迎えました。
えっ、こんにゃくに「旬」があるの? 思わず、頭の中にビックリマーク「!」が浮かんだのではないでしょうか? スーパーへ行けば1年中、同じ形、同じ色で並んでいますから、いつが旬なのか、私たちに実感はないですよね。 ところが、産地で手作りするこんにゃくには、旬があるのです。 信州新町でこんにゃく芋を栽培して40年のベテラン生産者のひとり、松下正好さん(72)は言います。「10月から11月のこんにゃくは、みずみずしくておいしいんですよ」と。
こんにゃく芋の畑。9月頃(JAながの提供)
こんにゃくは「こんにゃく芋」というサトイモ科の芋から作られています。ジャガイモやサツマイモなど、多くの芋類と同じように、春に植えた芋の収穫は秋。やはり"新芋"で作るこんにゃくは、みずみずしさが違うというのです。
他の芋類と大きく異なるのは、こんにゃくが作れる大きさに成長するまでに2~3年もかかること。秋に収穫してこんにゃくを作る芋は、2年前に植え付けた芋というわけです。 こんにゃく芋の成長過程を紹介しましょう。 まず、1年目。だいたい5月上旬頃に、種芋となる「生子(きご)」を植え付けます。サイズはピンポン玉に満たないくらいの小さな芋です。やがて芽が伸び、6月下旬頃には葉が茂ります。 松下さんは言います。 「こんにゃく芋の栽培で一番気を遣うのは、葉の管理。葉が枯れてしまうと芋が育たないですからね。こんにゃく芋は、葉に傷がつけば病気になるほど弱いから10日に1度は消毒が必要なんです」
こんにゃく芋の葉
夏の間に葉の成長を促し、ひと夏が過ぎると芋は土の中でテニスボールほどの大きさに成長しています。 秋になったら、それを掘り出し、日なたで乾燥させ、貯蔵庫で越冬します。 こんにゃく芋は寒さに弱いため、氷点下になる信州では、貯蔵庫へ入れるだけでは凍ってしまいます。そこで電熱線などで暖房をして、室温を5度前後に保つのです。次の春に植えるため、大切に保管します。 そして春を迎えたら、再び畑へ植え付け、同じように秋に掘り出します。 2年目の秋には、またひと回り大きくなって、ソフトボールより少し大きいくらいに成長しています。 そして3年目。芋には、生子となる小さな芋が付くので、これを再び種芋として採取し、こんにゃく芋の"1年生"として育てていきます。
芋の成長過程。下から種芋となる「生子」、2年目、中央右側が3年目。上の一番大きい芋から伸びる角のようなものは芽
また、毎年同じ畑で栽培すると連作障害が生じるため、松下さんは地域に点在する畑を順番に変えながら、8aの畑でこんにゃく芋を栽培しています。 手間と時間のかかる農作物なのです。
収穫期には芋を傷つけないように掘り出す
松下さん
信州新町は、養蚕からこんにゃく栽培に切り替えた生産者が多い地域です。近年は生産者の高齢化が進み、こんにゃく生産組合の組合員も10人ほどに減少しています。それでも松下さんは「手作りのこんにゃくは、やはりおいしい」と胸を張ります。 砂を含んだ重粘土質の土壌は、こんにゃく芋の栽培に適しており、キメ細やかなこんにゃくができるのだそうです。
手作りこんにゃく
手作りこんにゃくの刺身
「さぁ食べて」と、おもてなし上手の松下さんに促され、ご自宅で作った手作りこんにゃくをいただきました。 ツルンとした舌ざわりと、柔らかな食感は、コシを強くした葛餅のよう。独特の生臭さもないので、醤油につけて、刺身のようにいただけます。煮物にしても味がよくなじみます。 「うちはいつも、こんにゃくを手作りしていますが、堀りたての芋で作ると、みずみずしさが違うね」と松下さん。 やはり、旬の芋で作るこんにゃくは味わいが違うのだそうです。
収穫を終えた畑に立つ松下さん。谷を挟んで奥に見える斜面にも畑がある
信州新町の「道の駅 信州新町」では、こんにゃく芋を買うことができます。もちろん手作りこんにゃくも売っています。 また、「道の駅」では、12月から3月にかけて「手づくりこんにゃく教室」を開催しています。 興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか。 ◆開催日:12月~3月の第3日曜 ◆時間:午前10時~正午 ◆場所:道の駅 信州新町 ◆参加費:1,000円(同伴の子どもは無料) ◆持ち物:エプロン、三角巾、ゴム手袋 ◆申し込み: 道の駅 信州新町 TEL 026-262-2228
こちらは 2016.10.18 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
関連記事
芋から作る「マイこんにゃく」に挑戦しよう
まさしくそれは「畑のさしみ」でありました
アツイぞ!手作りこんにゃく教室
みんなで楽しく!畑から始まるこんにゃくづくり
新着記事
ラディッシュの漬物サラダ
安曇野の畑から生まれるりんごを追いかけて~流通現場編~
粒がハート型!? その名は「マイハート」
いちじくのデザート