日本酒ブームが訪れています。国内では女性ファンが増えているのに加え、海外でも「SAKE」として知名度が上がっているそうです。 なんでも、日本酒に含まれる成分は、コラーゲンやヒアルロン酸の生成を促したり、血流を良くして冷えやむくみを解消してくれる他、ストレスを軽減する物質が他のお酒より多く含まれているんだとか。
さて、日本酒の原材料といえば「お米」ですが、いつも私たちがごはんとして食べている主食用のお米とは違う品種で、「酒造好適米」(酒米:さかまい)と呼ばれています。 今回は、そんな酒米の中でも、長野県内だけで生産され、"幻の米"として人気が高まっている「金紋錦」に注目。金紋錦の伝統産地である、長野県北部の「木島平村」まで、試飲取材に出向き、酒米農家と地元の酒蔵からお話をうかがってまいりました。
木島平村
「今年が勝負の年です」。こう力強く話すのは、JA北信州みゆき酒米部会員の男前、小池雅章(こいけ・まさあき)さん。 木島平村では、これまで40年以上金紋錦を生産していますが、コシヒカリの人気や新品種の開発などにより、1980年代後半に金紋錦の作付けが大きく落ち込んだ時期もありました。しかし、老舗酒蔵の「福光屋」(石川県金沢市)が一手に契約栽培の形をとって産地を支えてくれたおかげで、生産は1度も途絶えることはなく、時を経るとともに、地元の酒蔵も金紋錦に注目するようになり、今では県内多くの酒蔵で金紋錦を取り扱うようになりました。 特に今年は、昨年から比べて契約酒蔵の数も契約量も倍増するなど、これまでになく金紋錦の需要が高まっています。
JA北信州みゆき酒米部会に所属する小池雅章さん
その背景には、木島平村ならではといえる、金紋錦の栽培方法と生産者の努力があります。 木島平村では、ブランド米の生産・販売を行う研究組織として、生産者などによって「木島平米ブランド研究会」が組織されています。「有機の里」をキャッチフレーズに、減農薬・減化学肥料の「特別栽培米」づくりを奨励しており、過去には環境保全型農業コンクール農林水産大臣賞を受賞したこともあるそうです。より安全・安心なお米を作るために、研究会として栽培基準を統一。なんと、長野県慣行基準と比較して農薬成分数50%減、そして全量無化学の有機肥料を使い、栽培に取り組んでいます。 JA北信州みゆき酒米部会では、部会として統一してこの基準を採用し、農薬や化学肥料にできるだけ頼らない金紋錦づくりに取り組んでいます。 しかし、こういった栽培方法は簡単なものではありません。高温多湿な日本では病害虫が発生しやすく、雑草や虫を取り除く手間と時間がかかります。さらに、金紋錦は、コシヒカリ等と比べて、根っこの部分が弱いため、育苗段階から温度管理に気をつけなければいけない他、虫やスズメによる被害も起こりやすく、管理が難しいデリケートな品種とのこと。 手間と時間を惜しまず、丹精を込めて栽培を行ってきた個々の生産者のたゆまぬ努力と、部会として統一した基準を遵守することで規模の効果につながったことが、今日の金紋錦の人気の伸びに結びついているのでしょう。
昨年、木島平で開かれた「金紋錦サミット」。生産者や蔵元、日本酒愛好家が金紋錦の日本酒を楽しんだ
「需要の伸びに供給が追いつかず、現在は県内の他の産地でも金紋錦の栽培は行われています。でも、本家本元として、さらに"木島平独自の色"を追究し、木島平のブランドとして守っていきたいです」 勝負の年ーー。数量のみならず、高い品質も満たす必要のある契約栽培の増加にプレッシャーを感じている、と話す小池さんですが、同時に希望と自信も感じられました。
続いて訪れたのは、飯山市内の酒蔵、田中屋酒造店さん。こちらは明治初年創業の老舗で、木島平産の金紋錦や、飯山産のひとごこちなど、地元米を100%使用した「水尾」を醸造しています。 店内に入ると・・・わ~お♪ 見渡す限りの水尾ワールド。お酒好きの筆者にとってはたまりません。瓶には、「金紋錦100%使用」のシールが。
早速、金紋錦100%使用の純米大吟醸を試飲してみました。ゴクリ。うん! 水尾ならではのさらりとした透明感のある飲み口の中に、深みのあるコクが感じられる! おいしい! ※もちろん、車は運転していません。 そう、まさにこの深みのあるコクが金紋錦の特徴。山田錦がすっきりとした都会風味とすれば、金紋錦は、味わいのある田舎風味。そして醸造の過程でキレの良さも加え、飲みやすさとコクのある味わいを両方感じられるようにしたのがこのお酒。今の時季なら山菜など、苦うま味のある食材にピッタリだそうです♪
田中屋酒造店の田中隆太社長
試飲はそこそこに、一升瓶と法被の似合う田中社長にお話をお伺いしました。 「当酒造では、原料と工程にこだわることは勿論、"土地の味"も大事にしていきたいと考えています。原料の酒米は、ほぼすべて蔵から5km圏内で栽培されている契約米を使用していますし、仕込水も15kmほど北にある水尾山の湧水を全量使用しています。また、醸造は、基本に忠実に手造りにこだわっています。これに加え、これまで地域で培われてきた"味"も表現していきたいと考えています」
栽培と同様、金紋錦は、酒造りの過程でも、蒸し米への水の吸わせ加減や麹造りにおける水分と菌のバランス等の調節が難しく、手間がかかるとのことです。 それでも、地元の味を大切にし、地元米である金紋錦100%で酒造りを行っていこうとしている酒蔵、そして、高い基準をクリアし、同様に手間をかけながら金紋錦の生産増大に取り組む生産者。その両者が地域ぐるみで"ブランド化"の良い循環を起こしているなあ、と感じます。 これからの金紋錦にますます期待をしましょう。ぜひ一度、ご賞味ください。
仕込みタンク
瓶詰め作業
【酒造りの豆知識】 仕込蔵の中にある緑色のタンクに、蒸したお米、麹(こうじ)、水、酒母(酵母を培養して大量に増殖させたもの)を入れ、温度管理に気をつけながら、約20~30日間かけて発酵。発酵中の状態を「モロミ」といいます。この間、アルコール度数や酸度等を分析し、モロミ管理に絶えず反映させます。 発酵が終了したら、熟成したモロミを搾り、酒(液体)と酒粕(固体)に分離します。搾ったお酒は、生酒を除き火入れが行われ、貯蔵をした後、瓶詰めされ、製品となっていきます。 モロミ分離後の酒粕はさまざまな料理に活用することができますし、酒瓶もリサイクルのため、実は、日本酒製造は廃棄物が少なくクリーンなのです。
■お問合せ 株式会社田中屋酒造店 長野県飯山市飯山2227 TEL 0269-62-2057 FAX 0269-62-1203 e-mail info@mizuo.co.jp Webサイトに「水尾」取り扱い店リストあり
こちらは 2016.05.24 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
グァルネリ
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