暖冬ともいわれた今年の冬。冬にも関わらず、例年にない暖かさが日本列島を包み込みました。
また、全国的な降雪量の少なさから(一部の地域を除く)、オープン日を例年より遅らせるスキー場が多発しました。そんななか、梅の花や草木はひと足早く春を感じているそうで、芽や花が出てくるのが例年より早い傾向にあるようです。
雪国長野県には、雪の中で野菜を保存する「雪中野菜」や、低温を利用して作られる伝統食・伝統農産物が存在します。これらの影響はどうなのでしょうか。早速話を聞いてきました。
雪国ならではの保存方法・雪中野菜
雪の中にリンゴを保管。JAグリーン長野の「雪中りんご」
雪中野菜とは、野菜を雪の中に冬眠させることで、野菜の糖度をさらに高める雪国ならではの保存方法の1つです。長野県特産のリンゴも、雪中埋蔵することで甘みが凝縮され、シャキシャキとした歯ごたえとジューシーさを長く楽しむことができます。
雪の中での保存には以下のようなメリットがあります。
(1) 温度・湿度が常に一定"天然の冷蔵庫"
雪の中では、常に0℃の気温と90%程度の湿度を保持することができます。
それゆえ、気温が氷点下であっても、安定した気温・湿度を保つことができ、野菜を凍らせずに保存することができるんです。
(2) 雪の中で糖度がアップ!
雪の中にある野菜は、凍ってしまわないようにアミノ酸を糖分に分解して寒さをしのごうとします。その結果、通常の野菜よりも糖度の高い野菜へと変わっていくんです。
雪の下から収穫される熟成キャベツ「雪中甘藍」
生産者からお話を伺ってきました。
小谷村に住む雪中キャベツ(雪中甘藍)の生産者・細澤洋一さんのお話です。
「今年はなかなか雪が降らず、出荷の時期が例年よりも1カ月近く遅くなってしまいました。また、本格的な寒さがくる前にキャベツを雪の中に埋めないと、キャベツが凍ってしまいます。今年は雪が遅かったので、本格的な寒さが先にきてしまい、凍ってしまうキャベツが目立っています。凍ったキャベツは、表面の皮をむけば通常の雪中キャベツと同じ品質・糖度となるので問題はありませんが、すべてのキャベツの表面をむかないといけないので、手間はかなり増えてしまっています」
小谷村は雪中キャベツの名産地。雪中キャベツは出荷すればあっという間に売れ切れてしまうブランド野菜です。小谷村役場特産推進室の石川雅宏さんによると、「今年は昨年より数を増やし、約1万4,000玉のキャベツ(雪中用)の生産に成功しました。今年の雪事情で例年よりも出荷のタイミングは遅れてしまいましたが、現在、7,000玉の雪中キャベツが売れており、例年通りあっという間に完売してしまうと思います」と話してくれました。
■雪中キャベツの販売・問合せ
小谷村特産推進室 石川雅宏
TEL 080-1088-8335
くさみがなく、ミネラルたっぷりの甘いニンジン
長野県最北の地に位置する飯山市では、雪深い畑で越冬させ、春に収穫する特別なニンジンが生産されています。それが、雪の下でひと冬過ごすことで、甘くてみずみずしくなると言われている「スノーキャロット」。生産者・江口崇介さんにお話をお聞きしました。
「この地域では、雪中ニンジンの掘り起こしが例年だと4月中旬からなので、暖冬による影響はまだ出てきてはいませんが、雪が少ないのでニンジンがくさっていないかがとても心配です。また、今年の雪は例年の3分の1程度しかないので、掘り起こしは4月中旬ではなく、3月中旬から行おうと思っています」
雪がとけてから行われるスノーキャロットの収穫(2015年)
雪の下から掘り出された雪中ニンジン
農産物直売所「千曲川」で販売
■スノーキャロットの販売先・問合せ
農産物直売所「千曲川」
天然の厳しい寒さを利用して作られる「凍み豆腐」「凍りもち」
凍み豆腐
寒暖差が激しい長野県では、様々な農産物を屋外で吊るし、凍らせることで農産物を保存する伝統的な食文化が存在します。肌が痛くなるような寒さと昼間の温かい日差しを浴び、凍結・解凍・乾燥を繰り返すことで、保存食として長く食することができるとともに、より深い味わいに変わります。早速、生産者から話を聞いてきました。
佐久市に住む「凍み豆腐」生産者・小泉美隆さんのお話です。
「凍み豆腐は、例年だと12月20日前後から2月初旬くらいまでが出荷時期ですが、今年は暖冬により、年末まで出荷することができませんでした。また、生産量は例年よりも半分程度少ない量となってしまいました。凍み豆腐の最盛期であるお正月前後に出荷をしきれなかったことが、一番大きかったですね」
■凍み豆腐の販売・問合せ
小泉美隆さん
TEL 0267-58-3594
※2016年3月現在は乾燥凍み豆腐のみ販売中
凍りもち
「凍りもち」の名産地・JA大北 広報担当 松沢伸一さんのお話。
「暖冬の影響で凍結がうまくいかないことが懸念されていましたので、凍りもちを吊るす間隔を広げて風通しをよくするとともに、吊るすまでの作業を例年より早めに仕上げ、吊るす期間を長く設定してみました。結果的には、うまく凍結ができ、おいしい凍りもちができましたが、吊るすスペースは限られているので、凍りもちの吊るす間隔を広げた分、生産量は例年よりも少なくなっています」
■凍りもちの販売・問合せ
直売所かたくり
TEL 0261-22-8839
※3月中旬から販売スタート予定
温度管理がむずかしく、低温が必要不可欠な日本酒製造
県内の酒造会社でお話をお聞きしました。
「お酒の製造では、仕込みの段階でかなり低い温度にしなければいけないので、そこが大変でした。仕込み中は基本的には酒蔵の開口部を開け、外の冷気を蔵内にいれるのですが、今年は暖冬で気温が暖かかったので、昼間は扉を閉め、夜になれば開放して冷気を入れ込むようにしていました。温度管理は日本酒の製造において非常に重要で、経験がものをいいます。地域によって異なるとは思いますが、今年の日本酒は、職人の実力によって味にひらきが出るのではと思っています」
■関連記事
「ひとごこちからつくられた信州のお酒」
長野県では他にも、低温だからこそ良質なものができる「寒天づくり」や、豊富な雪を利用してプロが作る「かまくら」の中で、花火を見ながら鍋やもちを食べることができる「かまくらまつり」などでも、暖冬の影響が出たそうです。
地域によっても異なりますが、雪が少ないことで困っているのはスキー場だけではないようですね。