味噌や納豆、チーズといった発酵食品などを毎日食べる"菌食"が見直されています。菌食といえばキノコもそのひとつ。長野県は、全国で初めて人工栽培が始まったブナシメジのほか、鍋料理に欠かせないエノキタケ、独特のぬめりを持つナメコなどキノコの生産量日本一を誇る「きのこ王国」。だまってはいられません! キノコには、がんを予防する働きがあるとか、血液をサラサラにする力があるとか、近年ではメタボを象徴する内臓脂肪も抑える力があるなど、健康に良い効果が次々と明らかになっています。小さなキノコに秘められた大きな健康効果について、キノコを研究・開発している(一社)長野県農村工業研究所を訪ねました。
長野県農村工業研究所は県経済連や農協県連を中心に設立され、農産物の高付加価値化のための加工や技術開発を手掛ける、いわば6次産業の先駆的な存在。現在はバイオテクノロジーを使った花の優良品種育成や、農産物の残留農薬分析など安全性のチェック機関として、消費者へ安心・安全を届ける役割を担っているほか、キノコの品種開発や栽培技術の研究開発も行っています。
長野県農村工業研究所
農薬分析検査
長野県厚生連北信総合病院に赴任した医師の「キノコががんに効くのではないか」という発案で、1972〜1986年に同病院と長野県農村工業研究所によって調査・研究が行われました。そう思ったのは、当時、長野県全体のがん死亡率は人口10万人に約160人と、全国一低い割合だったことからでした。予備調査を行ったところ、驚くことにエノキタケを良く食べるエノキタケ栽培家庭は約97人。男女別では、男性は約57人、女性40人と、さらに低い割合を表していたのです。 その結果を受け、さらに1998〜2002年、今度は国立がんセンター研究所と、県内のJA長野厚生連佐久・長野松代・北信・篠ノ井の4病院、長野県農村工業研究所が共同研究を実施。きのこの摂取頻度や摂取量、食習慣などの聞き取り調査が行われたわけです。その結果エノキタケやブナシメジを「ほとんど食べない人」に比べ「週3回以上食べる人」は胃がんや大腸がんのリスクが減少することが分かりました。
マウスを使った実験では、エノキタケは発がん防止作用、ブナシメジはがん転移抑制効果が確認されています。
試験栽培されているエノキタケ
◆機能性に効果がみられたキノコの例をあげましょう。
【抗酸化(活性酸素を除去する)作用】 ブナシメジ 【抗アレルギー(かぶれ、膠原病など)作用】 ブナシメジ 【血流改善作用(血液サラサラ)】 効果の高かった順にナメコ、ブナシメジ、エノキタケ 【血圧降下作用】 霊芝(マンネンタケ)、シイタケ、マイタケ 【コレステロール低下作用】 シイタケ 【認知症改善作用】 ヤマブシタケ 【内臓脂肪抑制】 ブナシメジ
長野県農村工業研究所では、今日もキノコの優良品種の開発が行われています。 西澤賢一所長によると「これまでの品種改良は生産者さん側の立場から、培地を改良して栽培をしやすくしたり、収量を増やしたり、外観の色(エノキタケの場合は白く改良されてきたそうです)の良い物が中心でしたが、これからは機能性の高いものを求める消費者の視点に立った改良へとシフトしています」と話します。
西澤賢一所長
同研究所では、現在JAグループが販売しているエノキタケやブナシメジの8割近くの品種改良を手掛けています。 「原種の採取は地元、千曲川河川敷の柳の木や柿の木をはじめ、県内外で研究員が地道に行っています」と、きのこ開発研究部の宮尾淳一部長。研究所内には1992年から収集している約2400の検体があり、栽培に適したキノコ作りへの研究が続いています。
きのこ開発研究部の宮尾淳一さん。棚にはきのこ菌糸がずらりと並ぶ
同研究所がこれまでに開発した製品には、エノキタケの成分を凝縮して粉末にした「えのきたけ抽出エキス粉末」、生のプルーンを使った「プルーン果汁 濃縮エキス」、半生のドライフルーツ「りんごセミドライ」などがあります。また「100%そば製造技術」や「乾燥りんごの製造法」、観測期間を4〜5日にすることでお歳暮の時期に合わせられる「市田柿機械乾燥機」などの技術開発も行っています。
「プルーン果汁 濃縮エキス」
現在栽培されているブナシメジの品種は同研究所から誕生したキノコのひとつです。低カロリーでビタミンB群やビタミンDが豊富に含まれ、骨粗鬆症や動脈硬化の予防にも期待されています。 また、ラットの実験では体脂肪とコレステロール値の低下が報告されているほか、ボランティア参加の健康な人に毎日ブナシメジ100gを食べてもらったところ、1週間後には中性脂肪や総コレステロール値の低下、血流の改善が認められました。 さらにマウスの実験ではブナシメジを与えたマウスは、与えられなかったマウスに比べて体脂肪も内臓脂肪も低くなった結果が出ました。それによって筋肉量が増え、基礎代謝も上がった可能性もあり、脱メタボの効果につながったと考えられます。
ブナシメジ試験栽培7日目
試験栽培14日目
温度や湿度を管理した試験栽培室
食品の機能には3つの考え方があります。1つは「栄養になるか」ということ、2つ目は「おいしい」という感覚を備えていること、そして3つ目が機能性と言われる「生体機能調節作用」です。神経や内分泌、消化機能の調節のほか、老化抑制など免疫を高めて病気を予防したり、疾病を改善したりすることです。そうした機能を備えたキノコは、自分の健康は自分で守るという予防医学や、食べて健康を維持する医食同源の考え方にぴったりです。 「長野県では昔から、キノコや野菜をたっぷり入れた具だくさんの味噌汁を食べてきたことも長寿につながっているかもしれませんね」と、ご自身も日頃からキノコをよく食べるという西澤所長。無農薬で栽培されているキノコ。たっぷり食べて病を寄せ付けない身体をつくりたいものですね。
こちらは 2015.02.24 の記事です。農畜産物や店舗・施設の状況は変わることもございますので、あらかじめご了承ください。
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