4月下旬になっても桜や梅がまだ咲かない標高の高い地域では、農作業の開始によって春を感じるそうです。今回は、暖かな陽気の訪れとともに、県内各地で始まった定植作業をレポートします。
県東部に位置する佐久平を抜けて山梨県小淵沢に向かって車を走らせること約1時間、カーブの多い山道を越えると八ヶ岳が目前に広がり、北海道を思わせる雄大な景色が広がります。車高が2メートル以上もあるトラクターが勢いよく車道を走っているのも、ここ、野辺山高原特有の風景です。
高原野菜の栽培と酪農が盛んな南牧村
八ヶ岳山麓、県東部に位置する南牧村で、レタスやサニーリーフ、ブロッコリーなどを生産する農家、高見澤たか江さん(55)を訪ねました。今年は、3月10日から種まきを開始し、約1ヶ月育苗して、4月9日から定植作業が始まりました。これから9月下旬の霜が降りる前まで、育苗、定植、収穫作業が繰り返し続きます。春の農作業が始まったとはいえ、さすがは八ヶ岳のふもと、今の時期でも朝はマイナス5度まで気温が下がります。寒冷紗(かんれいしゃ)という布で苗を覆って、寒さから苗を守ります。
寒冷紗で覆って寒さから苗を守る
農作業の楽しさが伝わってきます♪
専用の台車に苗箱を積んで、一つひとつ手際よく植えていきます。今日は、4反歩(40a)あるこの畑の1反歩(10a)分の定植を、旦那様と息子さんと3人で行います。黙々と作業を進める3人。たか江さんは、考え事をしながら作業をするそうで、「この、一人の時間が好きです」と教えてくれました。
高見澤さんのお宅では、中国人留学生を3人受け入れており、農繁期の約7ヶ月間農作業を一緒に行います。例年だと既に来ているそうですが、今年は少し遅れて5月中旬頃になるそうです。「人数が3人も少ないと、作業負担が大きいのでは?」とお聞きすると、「できる分だけ頑張るから、大丈夫」と焦る様子も一切なく、八ヶ岳山麓の景色のような広いココロで答えてくれました。
育苗・定植・収穫を繰り返しているんですね!
上:1週間後に定植する苗
左下:播種(種まき)後、約3週間目の苗、右下:発芽直前
育苗ハウスには、定植を間近に控えた苗、明日にも発芽しそうなもの、丁度その中間くらいまで育った苗が並んでいました。レタスは種まきから約1ヶ月で定植時期を迎えるため、定植・収穫時期などの作業を計算して種をまきます。
このハウスには、自動の水まき機も設置されています。手作業だと30分ほどかかる水まきも、機械だとスタートとストップのボタンを押すだけで、10分程度で終わります。便利ですね!
自動水まき機
農家の女性はやっぱり大変?
いえいえ、憧れのライフスタイルです!
車庫には、タイヤだけで大人の背丈ほどもある大きなトラクターが5台停まっていました。たか江さんも、もちろん運転します。最近のトラクターはコンピューター制御されていて、日々進化する技術をマスターするのも大変なんだそうです。
見上げるほど大きなトラクター
11月頃からの、農作業のできない冬の時期は、地域の女性たちで集まって、着付けや手芸、ピアノなどの趣味を磨きます。農家生活を心から楽しんでいるたか江さんに、農家の良いところをお聞きしました。「家族みんなで、一緒にできるところです。あと、融通がきくところ。作業が早く終わったら、みんなでお出かけします」。実家も専業農家だったたか江さんは、小さいころから家族みんなでできる農家に憧れていたそうです。「いい時と悪い時と、サラリーマンと比較したら波があるけれど、頑張った分だけ成果が出るから楽しい」と語ります。
たか江さんは、「今までは規模を拡大してきたけれど、これから年齢を重ねるにつれて、規模を小さくしてでも、できる範囲で楽しくやっていきたい」と、夢を教えてくれました。