長野県が全国に誇る生産量日本一の農産物のひとつ「トルコギキョウ」が、出荷のピークを迎えています。近年は多彩な品種とカラフルな色彩から、和洋の生け花や冠婚葬祭などでも人気の高いトルコギキョウ。八ヶ岳の麓、諏訪郡原村の菊池利治(きくち・としはる)さん(56)のハウスでも、八重咲きの「天(てん)てまり」や「ミンク」、「クラリスピンク」などが出荷の順番を待つように次々と成長していました。菊池さんは先ごろ行われた第43回信州フラワーショーに出品した新品種「レイナホワイト」で、農林水産省生産局長賞を受賞。「今年は春先の工夫が功を奏しました」と自慢の花たちの成長を見守っています。トルコギキョウ、英語名は「リシアンサス(Lisianthus)」
トルコギキョウ●トルコとついています が北アメリカ原産の一年草です。また、リンドウ科に分類されていて、キキョウとも関係ありません。色とりどりの花が豪華で気品があり、たくさんの人の心をとらえています。占星術によればトルコギキョウは射手座(11月22日〜12月21日)の人に贈るのにふさわしい花とも言われています。切り花は一年を通して流通していますが、夏がベストシーズンの花です。
左は第43回信州フラワーショー農林水産省生産局長賞を受賞時のもの(JA信州諏訪提供)
14年前からトルコギキョウ一筋
山梨県との境、八ヶ岳山麓に広がる原村は標高800〜1300mの高原地帯。キャベツやレタス、セロリなどの高原野菜でも知られる地域です。菊池さんのハウスがあるのは標高約1050m。元々は高原野菜を作っていましたが、家族の高齢化などもあって14年前からトルコギキョウの栽培をはじめました。当初2アールからはじめたハウスは現在16アール。8棟のハウスで約6割が白、3割がピンク、残り1割はブルーなどのトルコギキョウを栽培しています。
栽培14年目といえばベテランだと思いますが、実は数年前には青カビ根腐れ病などの連作障害に悩まされていたのだそうです。長年同じ畑で同じ品種を栽培することによって土壌に生じる障害。菊池さんは振り返ります。「もう栽培を辞めようかと思いましたよ」
種苗会社の担当者に悩みを打ち明けたところ「花の栽培は10年目くらいで乗り越えるか、あきらめるかの大きな壁にぶち当たるものですよ」と、多くの人が同じ悩みを抱えていることを知り、勇気づけられたそうです。
菊池さんは壁を乗り越える決意をしました。緑肥のためのカラシナやエンバクを栽培して鋤き込んだり、3年に1度はストックを輪作したりして、土壌の回復を試みました。隣接する富士見町の酪農家から仕入れていた牛糞の堆肥も、これまで以上に完熟させてから使用することで、土壌への効果を実感したと言います。その甲斐あって、4年前にはトルコギキョウの「ピッコロサースノー」で、今回と同じく農林水産省生産局長賞を受賞しました。
手をかけて良い花を育てる
そして今年は早春から生育を促すために、土中に電熱線を埋め込む新しい栽培方法に挑戦しました。定植する3月の原村の最低気温は平均マイナス10度。日中は20度前後まで上がるものの、ハウス内を暖房するには相当な燃料が必要となるため、地温を17度以下に下げないように工夫しました。定植した苗はビニールなどでトンネル状に覆って保温。一度は高温になり過ぎるなど失敗もあったそうですが、その後は順調な生育に導きました。
受賞した「レイナホワイト」はトルコギキョウでは最も大輪の花で、花径は10〜12センチ。この大輪の花を咲かせるためには丁寧に脇芽を取る作業も欠かせませんでした。菊池さんは言います。「手をかけないと良い花は咲きませんからね」
写真提供JA信州諏訪
スペイン語で「女王」を意味する「レイナ」は、白い花弁にフリルを持つ八重咲きの花で1輪でも存在感を放つ華やかな姿が特長です。近年は一重咲きよりもレイナホワイトのような八重咲きが好まれる傾向にあるようで、菊池さんが栽培する「天てまり」も「クラリスピンク」も八重咲きで、バラやボタンのような優雅さがあります。また切り花の水揚げが良く花持ちが良いことも好まれる理由のひとつとなっているのです。
「夏場はこまめに水を換えて長く楽しんでください」と菊池さん。夏の終わりが近づいている今、盆花としてもトルコギキョウが並ぶ時期です。今年は、気品のある花姿とともに、色や種類の豊富さにも、注目してみてください。