JA上伊那の管内にあたる伊那市東春近のトルコギキョウ農家、伊東雅之(いとう・まさゆき)さんを訪ねました。
父からトルコギキョウ作りを受け継いだ伊東さんは、今年で就農13年目。トルコギキョウをメインに、冬場は低温でも育ちやすいラナンキュラスや金魚草の栽培にも取り組んでいます。
トルコギキョウの出荷量は長野県が全国1位(令和3年度)であり、上伊那でも生産が盛んです。
特にJA上伊那ではオリジナル品種が50種類以上あり、出荷するトルコギキョウの85パーセントがオリジナル品種であることが特色です。
トルコ原産でもキキョウ科でもない!
「トルコギキョウって、どんな花だと思います?」(伊東さん、以下同じ)
取材中、そう問われて冷静に考えてみると、恥ずかしながら「…?」。バラやヒマワリ、スズランのように、ぱっとイメージが湧かないことに気づきました。
「じつは、トルコ原産でも、キキョウでもないんですよ」
原産はアメリカ・テキサス州、そしてキキョウ科ではなくリンドウ科の花なのです。
「トルコギキョウって名前からしてフェイクなんですよ」
という伊東さんの言葉が印象的でした
なぜトルコとつくのかというと、諸説あるようですが「トルコ人のターバンに似ているから」だそう。確かに、ふわっとしたフォルムがターバンみたいですね!
種まきから収穫まで
トルコギキョウの収穫期は6月下旬から11月いっぱいまで。お彼岸やお盆などの〈モノ日〉に合わせて栽培します。
繁忙期はいつになるのでしょうか?
「種の交配、定植、収穫を全部やる7月中旬ですね」。定植とは、苗床から畑へ苗を植え替える作業です。
上伊那のトルコギキョウは標高差でリレー栽培を行っているとのこと。収穫を終えるまで定植や、つぼみ整理、枝切りといった手入れなどを並行して行っていきます。
収穫までの作業をご紹介します。
[種まき→育苗]
育苗専用のハウスで発芽させます。こちらは生産者が出資して、共同育苗施設を取得し、伊東さんが管理をしています。各生産者はここから苗を購入します。
年明けから種まきを始め、3月から順次定植を行っていきます。
[定植]
先ほどの苗たちを畑へ植え替えます。スタッフの皆さんが和気あいあいと作業していました。
[枝切り、つぼみを整理]
作業中の伊東さん。「咲かせる花に養分を集中させるため、余分な枝やつぼみを取り除きます」
[収穫]
根っこごと引き抜きます。土がやわらかいためか、すぽっと抜けました(一瞬です!)
伊東さんが育てる品種は8割がオリジナル品種。
トルコギキョウの苗は育苗会社から購入して育てるのが一般的だそうですが、伊東さんの圃場では種をとるところから収穫まで行います。
種からとることで「気候に合った品種を選抜できる」とのこと。
ヒミツの花園!?
先ほどの取材をした圃場とは少し離れた場所に、トルコギキョウの〈試作品〉を栽培するハウスがあると聞き、「ぜひ!」とお願いして見せていただきました。
出荷するトルコギキョウを生育する圃場より小さめの圃場
ここでは300品種が試作品として育成されていますが、この中から選抜され、名前がつく品種は1、2種類だそう!
確かに見たことないような珍しい色や形がたくさん。もしかしたらこの世で一つ(かもしれない)のトルコギキョウの一部をご覧ください!
なんだかムラサキキャベツのよう
つぼみから咲くまでの色のグラデーションがきれい!
ほんのりと茶色みがかったような赤がすごくオシャレです
いちごミルクのようなカラーリング!おいしそうです
白いバラと見間違えるような花びら!
こちらもバラのような花の開き方。花びらの先がほんのりとピンクに色づくのがステキ
どことなくレトロな色味。飾れば貴族気分に浸れそう
なんともかわいらしく上品な色とたたずまい
たくさんの花を見て、ふと気づくのが、それぞれが別の花に見えてくること。フリンジのついた花はカーネーションのようだし、花の開き方ががバラにそっくりなものも。
「その時期にない花をトルコギキョウで代用することは、よくあります。ポテンシャルの高い花なんですけど…、やっぱり栽培が難しくて」
栽培するうえでもっとも注意するのが、病気の存在。「病気に強い品種を作るのが品種改良の原点です」
「市場の人気色は使いやすい白をはじめ、ピンク系やラベンダー系です。これらの色を充実させていきたいですね。そのために(改良して)欠点を克服し、強くしていきたいです」
圃場に並ぶ、白系、ピンク系、ラベンダー系のトルコギキョウ
どんなにきれいな色でも、同じ品質で作り続けられるか、病気に強いかなど、さまざまな課題をクリアしていかなければならないのです。
このように改良や研究を重ねて、約300種の中から選ばれた1種が店頭に並ぶのですね。
好きじゃなきゃ、全部苦労
お父さんの代からトルコギキョウの栽培をしていた伊東さん。最初から家業を継ぐ気はなかったと言いつつも、進学先は農学部系を選んだといいます。
大学卒業後は種苗会社に就職しますが、そこを退職してから、なんと一度海外へ渡ったそう。
「すぐに就農するのではなく、いろいろ見てみたいと思って。ニュージーランドで農家を転々としていました。移民が多い国なので、いろんな国の農業を見ることができました。まるで世界の農業の縮図でしたね」
今年で就農13年目となり、圃場で働くスタッフ約30人。募集すると、自然と花好きの方が集まるそう。
ずばり、やりがいはなんでしょうか?
「やはり品種改良で、思いがけず面白い花ができたときですね」
逆に、苦労していることをたずねると…
「好きじゃなきゃ、全部苦労です」という答えが。
イメージの固定されない、ポテンシャルを秘めた花、品種によってさまざまな表情を見せてくれるトルコギキョウ。
もしかしたら、伊東さんの珍しい経験が生きているのかもしれません。
伊東さんと妹の浅路(あさじ)さん。動画をお願いすると、照れながらもステキなメッセージを撮らせてくださいました
トルコギキョウはとても花持ちが良いのが特徴です。花の大きさが中ぶりでちょうどよく、2本くらい花瓶にさすだけで清楚かつ華やか。
ぜひ日常に取り入れてみてはいかがでしょうか。
(おまけ)花持ちが良すぎる!!!
濃いピンクから薄いピンクのグラデーションがきれい。薄い黄緑のつぼみがアクセント。1本でもこんなに色の違いが楽しめる!
取材時に伊東さんが目の前で収穫したものをプレゼントしてくださったので、事務所のデスクに飾らせていただきました。
休日を挟みつつ、毎日水を替え、きれいな状態が2週間続き、最後の花が枯れたのは、3週間後でした。