柔らかい桃が好みなのに硬いうちに食べてしまった、タイミングを見極められずにちょっと早かった、傷みの兆候を見逃して腐らせてしまったなど、「桃の追熟がうまくいかない」という話をよく聞きます。
産地としては良い品をみなさんにお届けし、長野県の桃のおいしさを存分に味わっていただきたいと思っていますから、生産農家・流通に関わる者全員が残念でなりません。
今回は、桃の追熟に関するお悩み解決の一助になればと、旬の農畜産物を扱う通販サイト「JAタウン」を担当する立場から、この記事を書かせていただきました。
桃は硬いうちに収穫・発送するから追熟が必要
桃はデリケートなため、個体差はありますが、基本的には硬いうちに収穫・発送を行います。完熟の状態で発送しようものなら、柔らかさゆえに輸送に耐えられず、お手元に届いた時には傷みが出ているか、おいしく食べられる期間は限られるでしょう。
収穫時の気温や桃自体の温度が高いと急速に鮮度が低下しますから、より新鮮な桃をお届けするために、農家は仕分けを行う倉庫に業務用クーラーを導入したり、JAでは桃の受け入れ後に冷蔵施設で一時保管する場合があります。
品種特性や気象条件により、果頂部(ヘタの反対側)のみ熟度が先行し、ヘタの周辺に緑色が残り、未熟と誤解される場合があります。
早獲りがないとは言い切れませんが、プロの農家が熟度を見極めて収穫し、JA出荷の場合は、さらにプロの職員や糖度センサーを搭載した機械が選果している場合もあります。決して、未熟ではないのです。
テレビで見るような、収穫してすぐに手で皮がむけて、果汁を滴らせながら食べるという演出は素晴らしいものがありますが、品種特性や産地限定の特権と考えていただきたいところです。
鮮度の良い桃は出荷時は硬いので、柔らかい桃が好みの方は、追熟が必要なのです。
桃が届いたら最初に行うこと
桃の荷姿は、ほとんどの場合、フルーツキャップと呼ばれる白いネットに包まれています。輸送中の衝撃から桃を守るためのものですので、届いたらすぐに外してください。
桃の上部以外が隠れているので、傷みの兆候を見逃してしまうことがあるためです。
届いたら白いネット(フルーツキャップと呼ばれる緩衝材)を外して桃の状態を確認する
追熟の際にエアコンや扇風機の風に長時間あててしまうと、桃が乾燥してしまうため、1玉ずつキッチンペーパーや新聞紙で包みナイロン袋に入れてください。
硬い桃がお好みの場合は、ラップで1玉ずつ包むか、ナイロン袋に入れて、直ぐに冷蔵庫の野菜室に入れて保存してください。
保存の一例。硬めが好みなら、1つずつ包み直して冷蔵庫へ
ひと箱をおいしく食べ切るコツ
桃ひと箱をおいしく食べ切るには、どうしたらよいのでしょう。桃の品種や時期・お客様の好みによるところもありますが、産地側の者は次のように考えています。
・1週間かけて平均して食べ進められるように数を配分してください。3kgで8玉入りなら毎日1個ずつ。5kgで16玉入りなら毎日2個ずつ。好みの柔らかさになったら食べるペースを上げて、早めに食べ切ってしまうことをおすすめします。
・1箱の中には当然個体差がありますので、熟度の高いもの、傷があるものを優先してお召し上がりください。
・硬い桃がお好みなら、届いてすぐに食べ進めるのがベストです。
桃は、冷やし過ぎると甘味を感じにくくなります。食べごろの桃を冷蔵庫で保管する場合は、食べる30分くらい前に冷蔵庫から出しておくと甘味を感じやすくなります。
常温保存の桃を冷やす場合は、食べる2~3時間前に冷蔵庫の野菜室へ入れるとよいでしょう。
桃にとって最適な追熟場所と温度
「常温で追熟」というのは、クーラーの効いた部屋や、日中高温になる閉め切った部屋ではなく、風通しの良い日陰を指します。桃にとって最適なのは、日中は30度前半、夜間は25度前後になるような場所です。
桃が育った環境の温度に合わせてあげるのが一番自然に追熟しますが、長野県の夏の平均温度は、日中30度前半、夜間20度前半といったところです。
2005年から始まったクールビズでは「職場の室温28℃」が推奨されていますが、桃にとっても、クーラーの設定温度はこのくらいがちょうど良いです。
クーラーが効きすぎた場所では、熟度よりも傷みが先行してしまう場合がありますので、ご注意ください。
追熟前
追熟成功
熟度見極めのポイント
軽く押して柔らかさを感じたり、桃の香りが強くなってくれば食べごろです。
桃の果皮、特にお尻の部分が薄っすら半透明になってきたら、熟してきたサインです。こうなると、すでに果肉が薄っすら茶色くなっています。そのまま置くと腐りに発展してしまいますので、急いでお召し上がりください。
「追熟しても香りが感じられない」というご意見をいただくことがあります。桃の品種特性によって香りが弱い場合もありますが、もしかしたら普段から芳香剤や香水を使ったり、香料の多い食品を摂取している方は、自然な香りに気がつきにくくなっているのかもしれません。
香りはひとつの指標と考えていただき、どれかひとつでも特徴が出て来たら食べごろとお考えください。
傷みの兆候一例
やってはいけないこと
桃の保管や追熟・食べごろの見極めの際に、やってはいけないことを挙げます。
×届いた荷姿のままで保管する。
×エアコンや扇風機の風に長時間あてる(乾燥して水分が抜けることがあります)。
×1日以上、状態を確認しない(桃は1日で傷みが出ることがあります)。
×日の当たる場所、クーラーの設定温度がかなり低い環境、締め切った高温になる部屋に置く。
×3日以上冷蔵する(低温障害をおこして追熟しにくいことがあります)。
×食べごろを見極めるため指で強く押す(強さによっては傷みに発展することがあります)。
収穫時期で変わる品種ごとの食感
桃の品種は100種類以上あり、個別の紹介をするのは難しいため、収穫時期ごとの傾向をご案内します。大きく分けて季節ごとに3つの傾向があります(あくまで傾向であり、個々の品種ごとに性質は異なります)。
【8月上旬頃までに収穫される桃】
この頃に収穫される「白鳳」系の多くの桃は、果肉が柔らかくなりやすく、上手に追熟すると果皮が手でむけ、果汁が滴り落ちるトロトロの食感が楽しめます。
【8月中・下旬に収穫される桃】
果肉がしっかりして、追熟しても皮を手でむくことはできない品種が多くなります。長野県を代表する「川中島白桃」は、この頃に収穫されます。しっかりとした果肉の食感をお楽しみいただきたい桃です。
【9月上旬以降に収穫される桃】
9月下旬が近づくほど収穫直後はパリッとした食感の硬い桃が多くなります。品種ごとに特性があって、なかには追熟で柔らかくなる品種もありますが、基本的に柔らかい桃が好みの方にはおすすめできない季節になります。
硬めが好みの方には「ワッサー」
厳密には桃ではないのですが、長野県には、桃とネクタリンの良いとこ取りの「ワッサー」という果物があり、近年人気が急上昇しています。
パリッとした食感、桃の甘さ、ネクタリンのほのかな酸味が味わえます。気になる方は、8月頃が収穫時期ですので、ぜひお試しください。
ワッサーを硬い順に並べると、早生ワッサー>晩生ワッサー>中生ワッサー(スイートリッチ)>本来の収穫適期を過ぎたワッサーになります。
ちなみにスイートリッチは、ワッサーの中では特に甘い品種になります。
繰り返しになりますが、見た目は似ていますがワッサーは厳密には桃ではありません、ワッサーという新しい果物としてご承知おきください。
まとめ・鮮度の良い桃は硬い
ここ何年かで農産物のネット通販市場が急拡大しています。若干の誤解があるようなので申し上げますが、JAでは市場出荷(店頭販売分)と産地直送(通販分)を熟度で分けることはしていません(輸送に耐えられない完熟・過熟桃は加工または産直に回されます)。
つまり「産地直送だから熟した品が届く」ではなく、「産地直送だから鮮度の良い品が届く」なのです(一部の農家直送商品については、発送に耐えられるギリギリの熟度の品を発送させていただく場合があります)。
基本的に鮮度の良い桃は出荷時は硬いので、柔らかい桃が好みの方は追熟が必要です。
以上のことを踏まえて、あなたが理想とする一番おいしいタイミングで桃を食べてあげてください。それが生産農家や関係者の喜びでもあります。