網で焼いてちょっと焼き色がついたなら、上から醤油をジュッと垂らして頬張る喜び。うま実成分たっぷりのシイタケの味わい方は、他にもたくさんありますが、美味しくてヘルシーなシイタケが家の庭で収穫できたなら、ちょっと、いやかなり、嬉しい。また木から顔を出したシイタケが日々大きくなっていく様子を眺めるのもまた楽しみなものですよね。そんなシイタケ好きが心待ちにしていた「シイタケの駒打ち」学習会が、今年も花の咲き乱れる季節、佐久市内の長野県立臼田高等学校で行われました。
答を目撃するのは2年後以降に
地元住民を対象に今回で5回目となるこの企画、定員の枠を大幅に増やして60名で行われたこの体験に人々の関心の高さが伺えましたが、大人はもちろんのこと子供だって金槌を持って「トントントン」と種菌(種駒)を原木に打ち込む作業を立派にこなしていました。そんな愛らしい光景が繰り広げられた会場の臼田高校では生徒も、授業で学んだ成果を生かして地元のみなさんをお手伝いしました。というのも、臼田高校では演習林を持っていて、「山を見直そう」という環境への取り組みが叫ばれる今、シイタケの原木を切り出すことによって山の手入れとなり、さらに生徒は地元の人と作業を共にすることにより、これから社会に出て多くの人々と関わることになる勉強を兼ねておこなっているものなのだそうです。
参加者は、「キノコが好きで、ちょっとおもしろそうだったから」とか「家庭菜園をやっているから、今度はキノコを自分で作ってみたかった」という人などいろいろ。しかしその場ですぐにキノコが出て食べられるわけでなく、今回作ったほだ木からシイタケが採れるようになるのはなんと、再来年の夏、つまり2年後以降というかなり先のはなし。その間、ウンともスンとも言わず変化を見せない木片に、誤って家の住人がゴミと間違えて捨ててしまいそうな恐れもありますが、しかしスピードが求められる現在、こんなじっくりと夢を温めるのもまた面白く、地元の木を有効に活用して自分で作りあげたあかつきのキノコには、また収穫以上の歓びがあることでしょう。
天然シイタケとかわらぬ食味を
今回行われたのは、秋、山で伐採した天然の木を一旦乾燥させ−−シイタケ菌は、生きている原木には活着しない−−そこに種菌を植えつけるという原木栽培で、野生にもっとも近い栽培方法。ただし気象条件を含め外的な環境の影響を受け易いため収量の安定は望めませんが、食味は天然と同じなのだそうです。
栽培に適するのは、コナラやクヌギといったドングリの生る木。一番外側の皮(外樹皮)を突き破ってキノコは発生するため、外樹皮が薄い材木が適しているそうです。また木の中心部はキノコの栄養源に適さないため、中心部の範囲が小さなモノを選ぶのが良いとされます。木の太さは、細い方が早く菌は出ますが、太いものは菌が出るのが遅い分、細いものより数年先までキノコが生えるそうです。
シイタケが育つまでにするべきこと
1st Step 駒打ち(植菌)
およそ1メートル程の原木に端から5センチあけて、15センチ間隔−−親指と小指を広げた長さが、ちょうどそのくらいの長さにあたります−−で横に印をしてからドリルで1列、深さ4〜6センチほどの穴を開けていきます。穴を深くしてそこに菌を植える深穴植菌ほど良いほだ木づくりの第1歩になります。そこに種駒(シイタケ菌の蔓延した木片)を差込み、金槌で叩いて奥まで埋め込みます。次はその列より5センチほど下に横一列、上と交互になるように穴を開け植菌します。このとき、床などに落ちた種駒は、雑菌など付着している恐れがあるため、使わないようにすること。駒はたくさん量打つのではなく、適切に菌を打つことが大切です。
2nd Step 仮伏せ
原木に種菌を植え込んだもの(ほだ木)が、完全に活着するよう、保温・保湿に気を配るとともに、紫外線を嫌うほだ木を日陰で湿気のある場所に置いておきます。置き方は、ほだ木を立て、周りをビニールで覆います。ただし上部は雨水を取り込むためにビニールは被せず、代わりにススキやヨシを被せておく。これらはワラに比べて含まれる雑菌が少なく、また茎の中心にある空洞によって保温材としての機能があります。また、ほだ木が少ない場合は直接地面に寝かせた上に、ススキやヨシを被せてもよいでしょう。そして乾燥させないよう、花に水をかけるのと一緒にたまにはほだ木にも水をかけて1年間、その状態で置いておきますが、6月下旬から7月上旬の梅雨の時期に天地返し(上下をひっくり返す)をします。
3rd Step 本伏せ
1年後の春と秋、菌を木の内部に蔓延させるためにほだ木を組み換えますが、その状態は井桁伏せや三角積みなど、風通しや排水をよくして、直射日光が避けられる適度に明るい場所に置くようにしましょう。
いつまで眺めていても即座ににょきにょきとシイタケが伸びてくることはぜったいにありません。やることをやったら、後は自然の手に任せて、時の経つのを待ちましょうね。
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